私には、選択肢など残されていませんでした。
難しいです…。
拙い文章ですが、さいごまでよんでいただけると
「レイス・アーガルト。今ここで、貴様との婚約破棄を宣言する!」
らんらんと光るシャンデリア。美しい天使の洋画たち。美しく着飾った貴族。
それらが談笑しているとき、だった。
その言葉は、唐突に始まった。
とっさのことで頭は回らず、けれど何かおかしいということは感じている。
私は、たった今、疲れたので隅で休んでいるところだった。
こちらを厳しい目で見据えてくるのは、私の婚約者のケイ・ルーシャルト第二王子。
そして、その後ろで涙ぐんでいるハリン男爵令嬢…。
「聞いているのか、レイス!なにか言ったらどうだ!」
「…それは、アーガルト国王が認めたことなのですか。」
潰されないように、そう口に出す。
アーガルト国王は、よく私が話し相手となったお方だ。チェスや樹の国の将棋など、ボードゲームも共によくプレイしていた。
優しくて、娘のように私を育んでくださった国王様。
あのお方は、この事に関係しているのだろうか。
この事を、知っていたのだろうか…
「お父様は今朝方死んだぞ。」
(…なっ!?)
あっさりと言い放った内容は、おかしなものだった。
あの国王様が、死んだ…?
「う、うそ、です…だって、国王様が亡くなられたときに鳴るケーリアの笛が、なって…」
「ああ。あの人は裏切り者だった、それだけだ。故に、私が国王の立場になり、お父様は王位を剥奪され、今朝方馬車の事故で死んだ。これはすべて昨日起こったことなのだから、笛は鳴らなくて当然だ。」
う、そ…
あの、お優しかった、アーガルト国王が…
「お亡くなりに、なられた…」
掠れた声が唇から漏れた。それほどまでに、信じたくない内容だった。
「話を戻すが、私はお前との婚約を破棄する。」
その冷たい声によって、幾らか意識は覚醒する。
「お、お待ち下さい!いくら廃されたとは言えども、その契約は前国王が決めたものです。私は契約違反もしていませんし、破棄をできるはずが…」
「…お前、国王と密会していただろう。」
その言葉が広間を駆け巡る。
一瞬にして、私の周りに同様が広がった。
密会。
ああ。そういうこと。
王子は、つまり、私と国王の間で別の関係を持っていたと、そう言いたいのね。
「…根拠は、おありですか。」
「証言者ならばここにいるぞ。ロッテリア・ハリン嬢が、お前の姿を見たと。彼女だけでなく、うちの侍女達も見たと言っていた。」
ハリン様だけでなく、侍女まで…。
ああ。
何も言い返せない。
口が縫い付けられたかのように、ぴたりと結ばれて、開かない。喉はカラカラに乾いて、手には汗が流れる。
「さらには、ハリン嬢に権力を使って酷い嫌がらせをしたとも聞いている。」
嘘だ。
そんなこと、嘘なのに。
私はなにも言うことができない。声に、出すことができない。
ハリン嬢とは、今、初めて目を合わせたくらいの関係なのに。
なんで。なんで…
「黙っているということは、認めるということだな!」
違う、違うと首を振り抵抗する。
声は出せない。兵士が私の腕を掴んで、広間から引きずり出そうとする。
靴が片方脱げ、ドレスの袖は破けた。
誰かの投げたピアスの針が肌に突き刺さった。
誰かの投げた豪勢な料理が、私のドレスを汚した。
誰かの言った、「毒虫」という言葉が頭から離れない。
母と父は役立たずだ、我が家の汚点だ、ふざけるなとただこちらに怒鳴っていた。
私の可愛い弟は、そんなお母様たちを宥めようとしていた。そして、こちらに手を伸ばす。
ふふ。弟だけね。
私を、助けようとしてくれたのは。
広間の重い扉。
その隙間から見えたのは、こちらを見て愛らしく微笑むハリン嬢と、憎々しげにこちらをにらみつける私の婚約者。
声はこんな時でも出せない。
ただ代わりに、熱いものが頬に滴り落ちた。
ただ、空虚だった。
私はずっと、この国のために頑張ってきたのに。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!