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7話 校舎裏の陰気さを消す、俺

10/9誤植訂正

 橋澤さんたち3人がその場を後にしてから、かれこれ5分以上が経過した。

 しかし、桐野さんは暗い表情を浮かべたまま呆然と立ち尽くしており、ついにはその場にしゃがみ込んでしまった。



 桐野さんはいつも1人でいることが多いが、あんなに落ち込んでいるところは見たことがない。

 きっと、田中さんが脅しで見せた写真が、よほどショックな、というか桐野さんにとってはトラウマものな1枚だったのだろう。



 これ以上、彼女が苦しんでいる姿を見ていられなかった。


 何か力になってあげたい。



 目の前で困っている人がいたらそう思ってしまうのは、自然なことだろう。

 それが好きな子だったら、なおさらだ。



 気がついたら俺は、まるでその場をたまたま通りかかったかのような雰囲気を装いつつ、桐野さんに向かって歩き出していた。


 桐野さんはそんな俺の存在に気づくと一瞬だけ表情が変化したが、すぐ元に戻ってしまう。


 無意識のうちに彼女に近づいていたから、策とかは何もない。俺は、彼女に何と声を掛けるべきなのだろう。


「な、なんで林田くんが、ここに」


 ま、まずいぞ。

 そもそも、この登場は不自然過ぎたか?


 ここは校舎裏。たまたま通りかかることなんて、そもそも有り得ない場所だったと気づく。

 が、時すでに遅し。


「いや、そんなのどうだっていいだろ。好きな子の様子がおかしかったら、話しかけて当然じゃないか」


 少し焦ったが、仕方ないから本題を急ぐことでうやむやにしようと開き直った俺は、とりあえず、思っていることをそのまま口に出してみることにした。




 しかし、なぜだろう。


 ますます桐野さんの様子がおかしくなってゆく。


「…!林田くん、今、な、…ななっ」


 ん?本当にどうしたんだろう桐野さん。

 俺は今なんと…









 あ、しまった



 なんかすごいさらっとした流れで、今俺桐野さんに好きって言ってしまった!?

 あれ、これってもしかして…



 告白とほぼ一緒じゃね??




 突如、額から流れ出す大量の汗。


 あ、あれ…


 優しく声を掛けるべき、俺の方が取り乱してどうする。




 しかし、不思議と、今まで思っていた不安な気持ちはなかった。

 今までは告白が失敗して、桐野さんと友達ですらいられなくなったときを想像するとどうしても一歩踏み出すことができなかったのだが…



 きっと、一度橋澤さんに振られたからだろう。

 あのとき受けたショックに比べたら、今、ここでたとえ桐野さんに振られても、立ち直れる気がした。

 俺は、知らぬ間に振られることへの免疫がついていたのである。



 もしかして、橋澤さんは『友達という関係で妥協していた』俺の後押しをしてくれたのだろうか。

 ふと、そんな考えが浮かぶ。

 案外、橋澤さんたちも性悪ではないのかもしれない。


 ずっと勇気が出なかったが、うっかり口にしてしまった以上、俺は一気に攻めることにした。


「好きだ。ずっと、桐野さんのことが好きだったんだ」


 桐野さんの目をじっと見つめながら、俺はついに告白してしまった。




 間近で覗き込むように見つめると、桐野さんの目がめちゃめちゃ泳いでいる。


 こ、これは…




 どうなんだ??



 彼女のリアクションの意図するところが全く読めず、もしかしたら困らせてしまったかもしれない、と弱気になりかけたそのときだった。




「…うー!ばか!私から告白したかったのに!!」


 やがて桐野さんから発せられた言葉は、俺の想像の斜め上をいくものだった。




 なんと、結果はOKでした!!!

 うっそだろおい!!!や、やったーーー!!!




 これは、俺に勇気を与えてくれた橋澤さんたちに、感謝しなければならないかもしれない。


 や、やばい。

 めっちゃ嬉しい…




「林田くん、誰とでも仲良いし、いっぱいアピールしたけど、ダメだと思ってたから…」


 ん?アピール?



 実は、どうやら勉強会も、その後のメッセージアプリのやり取りも、彼女にとっては俺へのアピールだったらしい。

 俺以外に話し相手がいないから、とか勝手に決めつけていたけど…そんな風に思っていて本当に申し訳ない。


 ずっと俺のことを意識してくれていたなんて…


 ただでさえ可愛い桐野さんが、これ以上ないほどに愛おしく見えた瞬間であった。



 最・高かよ!!!



「あ、あの…」


 しかし、そんな桐野さんの表情は、すぐに曇ってしまった。


「は、林田くんに謝らないといけないことがあって…」


 桐野さんは、噓告白を迫られていることを俺に語り始めた。

 俺は盗み聞きをしていたからそのことは知っていたので、詳しい内容とかも別に良かったのだけど、桐野さんの方から俺に打ち明けてくれたことが嬉しかった。


 桐野さんは最後に、無理やり押し切られてしまい、彼女たちの中では私が告白することになっているから、もし私がそれを無視したら、俺に直接何かしてくるかもしれない、ということを俺に伝え、謝ってきたのだが…



 そんなこと、桐野さんが謝る必要なんてない。

 俺はそもそも桐野さんがちゃんと嘘告を断ろうとしていたところだって見ていたし、それでも強引に話を進めたあいつらとは、最早会話になっていなかった。それに、桐野さんは脅されていたんだ。俺の心配をする前に、まずは自分の心配をしてほしい。




 あー。もう。

 桐野さんの神妙な表情を見ていると、よっぽど俺の方が悪いヤツみたいで、心苦しくなるじゃないか。


 だから、俺も素直に謝ることにした。


「ごめん、さっき橋澤さんたちと話してるところ、全部見てたんだ」


 何も助けずに、こっそり隠れて見ていてごめん、と。


 そうだ。俺は、見ていただけだった。

 俺があの場で出て行って何をするんだって話ではあるけど、困っていた彼女をそのままにした。

 問題の解決には至らずとも、桐野さんが思い悩む時間は短くて済んだかもしれないというのに。


 こんな俺は、桐野さんの彼氏にはやっぱり相応しくないのかも…

 そう、またも弱気になりかけた俺だったが…


「も、もうっ!」


 それだけで終わりました。


 桐野さんが怒ったところ、初めて見た。

 想像以上に可愛くて、癖になってしまいそうだ。


 更に、桐野さんは盗み見られていたのが恥ずかしかったのだろうか、急にまくし立てるように俺に訴えかける。


「う、噓告なんてしないから!さっきは写真でびっくりしちゃったけど、ちゃんと後で橋澤さんたちとはもう一度話して断るつもりだから!」


 そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、あいつらともう一度話すなんて、無理じゃあないですかね。

 だって話通じないもん。




 そう思ったが…


 …ん?



 いや、待ってくれ。





 やっぱ告白してほしい!

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