6話 校舎裏は陰気です
「え、その、あの、…」
山田さんに俺に対して告白するように言われた桐野さんはといえば、すっかり、いつものクールなキャラは崩壊してしまっていた。
「あ、噓でいいから」
そんな桐野さんを見て、田中さんはそう付け加えたのだが…
その言葉を聞いて、先ほどまで戸惑っていた桐野さんは、今度は逆に固まってしまう。
「当たり前じゃん」
しかしそれにはお構いなしで、山田さんは笑った。
「最近さ、林田のやつ、調子乗ってんじゃん?桐野さんもしょっちゅう話しかけられてさ、迷惑してるでしょ?いい加減さ、というか1回さ、ちゃんと締めといたほうがいいっていうかさ」
「ちゃんと私たちがついていてあげるからさ!ドッキリの報告とかは任せてくれちゃっていいから~。ね?これで桐野さんも林田に絡まれずに済むようになるだろうし、お互いにとってメリットのある話だと思うんだよね~♪」
橋澤さんと山田さんと田中さんのギャル達3人にとって、俺に噓告ドッキリを仕掛けることでいったい何のメリットがあるのか。俺にはさっぱり理解できない。だが、その場のノリであいつらは押し切ろうとしていた。
「…い」
彼女たちの圧は凄い。男の俺でもうっかりビビってしまうレベルだ。
しかし、桐野さんは、そんなあいつらに向かってはっきりと、告げたのだった。
「いやです!林田くんに、そんな、嘘で告白するなんて、絶対に嫌!」
きっと桐野さんは、俺が傷つかないようにするために、勇気を出してそう言ってくれたのだろう。
そのことが、すごく嬉しかった。
やっぱり桐野さんだな、と思った。
が、俺のガラスの心は少しだけ傷つく。
もう、嘘でもいいから、桐野さんに告白されてみたい人生だった。
桐野さんに、告白を明確に拒絶される。これはすなわち、俺に脈なしであることを意味しているのではないだろうか。
これほど辛いことはない。
そんなわけで嬉しくもあり、悲しくもある複雑な心境の俺だったが、彼女たちのやり取りの続きを見ていたら、そんな思考は頭の中からどこか遠くへ飛んでいってしまった。
「へえ~?断るって言うならさ」
「この写真、学級L○NEにばらまいてもいいわけ?」
「い、いやっ!や、やめてください!!」
桐野さんに対して、自分のスマホの画面を向ける田中さん。
まさかの、桐野さんに対する脅しの材料を彼女たちは持っていたのである。
怒りが込み上げてきた。
今すぐこの場から飛び出してしまいそうだった。
だが、今ここで俺が登場しても、悲しいかな、何の力にもなれないし、事態がややこしくなるだけなので、黙って見ていることにする。
そんな自分が情けなくて、悔しい。
再びすっかり取り乱してしまった桐野さんに、あいつらは色々と言いたいことを一方的に言った後、
「じゃ、明日の放課後、空き教室で林田に噓告するように。ラブレターはちゃんと自分の字で書いて、朝一で林田の下駄箱に入れとけよー!」
と残して、立ち去って行った。
あいつらの話をまとめると、どうやら次は、桐野さんが俺に告白する様子を、空き教室の隅で隠し撮りする予定らしい。
そして、桐野さんの告白が終わったら、横から飛び出してきて「ドッキリ大成功~♪」とでもいうつもりなのだろう。
同じ手にかかるかよ!という感じだが、告白の相手が好きな子となれば話は別だ。
噓告白の計画について語っていたこの場に俺が隠れているなど、あいつらは微塵も思っていないだろうが、仮に俺がこの計画を知らなかったとしたら…
俺が桐野さんからラブレターを受け取ったら、例え騙されているかもしれないと思っても、わずかな希望にかけて、ついその誘いに乗ってしまうだろう。
ああ、何て汚い奴らなんだ!
そして、そんな3人の姿が見えなくなった後、曇った表情を浮かべる桐野さんが1人、その場に残されたのであった。
桐野さんに曇らせ展開が...