4話 噓告に対価を求める、俺
朝から怖かった…
強く生きる
「うわあああああっっっ!!!」
俺の絶叫が、放課後の空き教室でこだまする。
彼女たちの見下したような視線が痛い。そしてその様子もスマホを向けられて撮られており、屈辱的だ。
あ。念のために言っておくけど、俺はMじゃないよ?
そういったことに喜びは特に感じません。
じゃあなんでこんなことをしているのか?
それはギャル達お望みの動画を撮影させてあげるためだが、勿論対価なしでそんなことをするはずがないよなあ???
俺は、彼女たちの目の前で今のorzポーズをしたまま、その表情を伺うように、ゆっくりと視線を上に向けていく。
仁王立ちをしている橋澤さん。
つま先から、ゆっくりと辿っていく。
ハイソックスの部分が終わり、橋澤さんの生足を鑑賞させていただく。
そう、このアングルは、なかなかそそるものがあるのだ。
やばい。
心臓がバクバクいってる。
興奮してる。
告白されたからかな?
さらに目線を上げていくとその先に…
この角度では、拝めるはずなのだ!!橋澤さんのスカートの中を!!
しかし、現実はそう甘くはなかった。
橋澤さんの短いスカートの中には…
男子の理想とは程遠い、短パンが備わっていたのだ。
…ん?良く見えないけどもしかしてボクサーパンツ??
リコ〇コか?
だが、いずれにせよ俺の好みからは逸脱していた。
「なんでだよおおおおおっっっ!!!」
あ、やべ声に出ちゃったわ。
俺の真の意図を見抜かれてしまったかと思い、恐る恐る彼女たちの表情を伺うが、橋澤さんたちは汚物を見るような目で俺を見つめながら、ヘラヘラと笑い続けていた。
あ、危なかった…。
どうやら今のも俺が噓告白されたショックによるセリフと勘違いしてくれたらしい。
しかし、これでは俺が一方的に損をしてしまっている。
「そんな…く、そ…」
俺はもう一度orzの体勢となって、彼女たちの企画にサービスしちゃった。
しかし、まだだ!このままでは終われない!
「うおおおおらあああああっっっ!!!」
俺は、後ろでスマホを向けている田中さんに向かって、突如カエルのように跳びかかった。
「ひゃあっ!」
急に、無駄に可愛らしい悲鳴をあげる田中さん。
しかし、そんな様子に構うことなく田中さんを押し倒した俺は…
彼女の手から零れ落ちたスマホを、奪い取ったのだった。
田中さんからスマホを強奪し、すぐさま高速で操作する、俺。
直前までカメラを回していたこともあり、田中さんのスマホはロックされていなかったので、他人である俺でも問題なく使うことができた。
「…くっ、貴様あああああ!!!」
山田さんが怒り狂って俺に襲い掛かってきた。
タックルされて尻もちをついた俺は、そのはずみで山田さんの柔らかい部分が当たって、思わず「役得だなあ」なんて考えてしまうのだけど、山田さんは鬼の形相で本来の可愛い姿からは程遠く、最早モンスターの一種と言わざるを得なかった。
「スマホを返せ!動画を消す気だろ!!!」
返せと言われてもこれは山田さんではなくて田中さんのものだしなあ、なんて考えながら、そうか、動画を消されると思ったからそんなに焦っていたのか、と気づく。
「ほい」
だから、俺は素直に山田さんにスマホを手渡した。
慌ててスマホを弄る山田さん。
「…き、消えてない…」
ほっとしたように呟く。
そして、残りの2人も寄ってきて、3人で動画を確かめている。
そんなにその動画が大事かよ。
彼女たちの笑いのツボが、俺には良く分からない。
人が騙されるのって、そんなに面白いことなのだろうか?
上に立った気分で、優越感にでも浸っているのだろうか。
だが、そんなことは今はどうでもいい。
俺は目的を達成することが出来たのだから。
「じ、じゃあ何をしたっていうのよ!!!」
山田さんが、俺に尋ねる。
「ん?その動画を自分に転送しただけだが」
俺は、素直に話した。
だって、折角だから橋澤さんの告白シーンを、俺も鑑賞したかったんだもん!
性格はたとえゴミクズでも、橋澤さんが美少女であることに変わりはないし、最後の噓でしたのシーンさえカットすれば、『美少女に告白される』という、世の男子の夢見る展開だけが残るのである!
「別に良いだろ。減るもんじゃあないし。美少女に告白されるのはさ、男の夢なんだよ!だから、どうか…」
俺は彼女たちに許しを請うかのように言ってみたが、じっさいのところはどうかもこうかもなく、俺のスマホにはさっきの動画はもう保存してしまったし、消させるつもりもない。
「ちっ。こいつ気持ちわりいな。なんかイラついてきたわ」
そんな俺を前にして、山田さんはカリカリと頭をかきむしる。
雑に扱ったら、折角の綺麗な髪が台無しですよ。
だが、彼女たちが立ち直るのは一瞬だった。
「あー!良いこと思いついちゃったあ!」
ふと、田中さんがそう高らかに声を上げたかと思えば、何やら二人にひそひそ話をしている。目の前で俺だけハブられて会話されるのも、噓告までは言わないが、なかなか気持ちの良いことではない。どうせ、ロクなことではないのだろう。
「それ、いいじゃーん!」
しかし3人は上機嫌で、俺を1人残して空き教室を去っていった。
…なんか、不吉だなあ
ここで前半戦終了、という感じです。
ストーリーは決まっているので、よろしければ是非最後までお付き合いください!