3話 人生で初めての告白をされる、俺(※同伴者有)
空き教室のドアを開けると、そこには橋澤さんと、それから彼女と仲良しな山田さんと田中さんの姿があった。
え、もしかして俺、3人に告白されちゃう感じ?
これが修羅場ってやつう?
予期せぬ展開に困惑していた俺だったが、そんなことはお構いなしで、ちょっと異常なまでに体をもじもじさせながら、橋澤さんが俺に近づいてくる。
「あのっ!わ、わたし、たくまるくんのことが、好きです!」
その様子を、後ろの山田さんは生暖かい目で見守っている。田中さんは、スマホを向けているようだけど、橋澤さんの一世一代の告白を、一生の思い出として記録するためだろうか。
まったく、大袈裟だなあ。
これじゃ断りにくいじゃないか。
「わわたしと、付き合ってください!」
橋澤さんはそう言って、俺の顔色を伺ってきた。
『わわたし』って何だろう、なんて考えていたけど、これはあれかな、緊張して嚙んじゃった、てやつなのかな?
う、可愛い。
…いや、ダメだダメだ。流されるな、俺!
俺は今から彼女のことを振らないといけないんだ!
しかし、下手なことを言っては、勇気を出して告白してくれた目の前の可愛い女の子のことを傷つけてしまいそうで、どう返事をするか悩んでいたら…
山田さんが、あろうことか返事を催促してきた。
「え?それで?たくまる返事は?」
「早く返事してあげないと、可哀そうだよー??」
田中さんも、それに便乗する。
はい。それはごもっともで。
だけどさー、この雰囲気で「好きな人がいるから…ごめん」なんて、言い出しにくいじゃないですか。
そんな俺に、助け舟を出してくれたのは、田中さんの方だった。
「ね?どうよ?今の気持ち。沙由に告白されて?嬉しい?」
それは、そうだよ。こんな可愛い子に告白されるなんて、長い人生で1度も経験できない男性の方が多いのではないだろうか。
「う、嬉しいよ」
恥ずかしさのあまり、俺の方も少し詰まってしまったが、ちゃんと伝えられた。
ごめん。この後断るけど、許してください橋澤さん…
「嬉しい?嬉しいかー♪」
しかし、俺の返答を聞いて、山田さんと田中さんは急にざわざわし始める。
あれ、まだ俺、橋澤さんに返事してないんだけど…
そんな呑気なことを考えていた俺に、それはそれは悲しい現実が突き付けられたのであった。
「じゃーん!ドッキリ大成功!今の告白、噓だから!ウ・ソ!びっくりした!?いやーいいもの撮れたわ!あ、本気にしちゃった?なわけないじゃん沙由がアンタみたいなやつのどこを好きになるっていうわけ?」
真実を語る山田さんの隣で、「ウケるー!」と合の手を入れる田中さん。
そして、さっきまでのもじもじする姿とは対照的に、ヘラヘラしている橋澤さん。
…。
一瞬、何が起こったのか理解が追い付かなかった。
俺は、今、何をされてるんだ?
頭が真っ白になる。
目の前では3人の女の子がゲラゲラと笑っているけど、何が面白いのかわからない。
あ、これって…
俺の反応が、面白いってことなのか。
その結論に至った瞬間、穴があったら入りたい気持ちでいっぱいになる。
クッソ、こいつら、こんな陰湿な奴らだったのかよ…
さっきまでのウキウキを返せよ!!
少しでも橋澤さんのことを可愛いと思っていた、過去の自分をぶん殴りたい。
ああ、最悪の気分だ…
しかし、どんなときでも相手を思う気持ちを大切にするのが、父からの教えだ。
よく考えろ俺。今すべき行動はなんだ?
冷静になれ。
周りをよく観察しろ、俺。
まだ田中さんはスマホを俺に向けている。こいつら、俺の反応を見て面白がるだけでなく、それすらも『記録』しようとしているのだ。
それに気づいた俺が、この後取る行動は、1つしかなかった。
「うわああああ!!!そんなあああ!!!」
下半身の力を、少しずつ抜いていく。すると、いい感じで膝から崩れ落ちることに成功した。
そうだ。今の彼女たちを喜ばせるには、これが一番なんだ。
「どうして、どうしてこんな酷いことをするんだあああああっっっ!人の気持ちを弄んでえええええっっっ!!」
俺は3人の女の子の前で、orzのポーズを取ったのだった。
ようやく少しだけタイトル回収できました(^^)