1話 ラブレターににやける、俺
初連載です!(といっても、全10話以内を予定)
今作もコメディー寄りです。
林田 琢丸くんへ
伝えたいことがあります。放課後、3階の空き教室に来てください。
橋澤 沙由
♢♢♢
机の中から出てきた1通のラブレター。それを見て、俺はニヤニヤしていた。
こんな状況、ニヤニヤせずにはいられないだろう?
そう。俺はこの後、クラスメイトの女子に告白されるのである!
え?なんで短文の手紙だけで、告白と断言できるのかって?
頭お花畑とは、失礼な。
まあ勿論、例えば単なる事務連絡、なーんて可能性もないとは言わないが、それならメッセージアプリで良いし、わざわざ呼び出すことはしないだろう?
そして、何を隠そう、手紙にはハートマークのシールで封をしてあったのである!
だから、間違いない!
…きっと多分!!
おっと、自己紹介が遅れたな。
俺の名前だけど、たくまる、と読む。珍しいだろう?
なんでも父親が琢磨、母親が琉夏と俺に名付けたかったそうで、互いに一歩も譲らない戦いが続いたらしい。そして、最終的にはじゃんけんで勝負が決したにもかかわらず、それでもなお譲らない母にやむを得ず妥協した父が『る』の部分だけを取って、つけてあげたのだという。
そんな素敵な名前が、俺は大好き!
だから俺は、父を見習って、たとえ譲れないものがあっても、ときに相手を思って譲歩し、妥協点を探ることができる人になりたいと思っている。
あ、母の諦めない根性も受け継いでいるよ。
そんな俺だけど、特別顔が良いわけではないし、勉強はできる方だが運動は平均以下だから、女の子にめっちゃモテる、なんてことはない。残念ながら。
自由に生きるがモットーの俺に、クラスカーストとかはよくわかんないけど(本当は薄々気づいているけど気にしたら負けだ!) 、そんな俺でも色んな奴とほどほどの距離で関わりながら、広く浅いコミュニティでまあそこそこ楽しい学園生活を送っている。人生、モテることが全てではないのだよ。
陽キャと陰キャで区別するなら、俺はその両者の中間に位置すると捉えてくれればいい。クラスのイケメンくんとも仲良くやっているが、そんな時は、偶に嫌な視線を感じることはある。
ま、俺はそんな立ち位置なのだ。
で、大分自己紹介が長くなったけど、ここから肝心の本題といこう。
ズバリ、俺とその橋澤さんの間柄についてだ。
ぜんっぜん話したことありません!!!
だから好きになってくれる心当たりは全くない!
橋澤さんといえば、同じクラスでよくギャルっぽい子たちと一緒につるんでギャーギャー言ってる子だ。
俺はもう少し清楚な女の子の方が好みとはいえ、彼女の見た目はそこそこ?いや結構??かなり???
可愛いとは思う。
だから、正直にいえば今のこの展開に、俺はついていくのがやっとである。
あの橋澤さんが、俺のことを好きだったとは…!
これから起こることを想像すると、我慢しているのにやっぱニヤニヤが止まんないぜ。
たった一通のラブレターで、これまでの彼女に対する印象が、ガラッと変わった。
…ヤバい。
空き教室へと向かっている今は、自分で言うのもあれだけど、かなり浮足立っている。
しかし、だ。
どうしたものか。
…実は、俺には他に好きな女の子がいるのである。
それは、決して叶わぬ恋。高嶺の花。
ずっと彼女のことだけを一途に想ってきたわけだが、今は心が揺らいでいる。
諦める、べきだよな…