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嫌がらせの招待状

大多数みんなの正義の前に、たった一つの悪なんてひざまずいて無に還される……」


その次の歌詞が出てこない。あれだけ聴いて折角覚えたのに。

目が覚めたら病院だった。寝慣れたベッドと消毒の匂い。何度目かの点滴も見飽きてしまった。


「誰かが泣いていた事なんて誰も知らない」

「あぁ、そうそう!そんなだった!」

「小さな願いすら、大きな正義の前では踏み潰されたんだ」

「……それを可哀想と思うかは別の話」

「元気そうじゃん。歌う気力はあるんだ?」

「おはよう、サクラ」


見舞いに来たサクラを歓迎し、フルーツの盛り合わせを頂いた。


「ツアー中って聞いた」

「まぁね。次までに休みあるから来たんだよ」

「ありがとう」

「さっきの歌、配信されたのこの間だよ。もうインプットしたの?」

「他にやる事無いし、覚えたら死んだ後の世界でも歌えるじゃん?冥土の土産的な」

「そんなの幾らだって歌っ……」


言いかけて止めた。

癌の事は燦にも告げていない。


「もっといいもん持っていけば?」

「……いいもの……何だ……?」

「例えばオレとか……」


また言いかけてハッと気付く。

久々に燦に会えて浮かれているのかも知れない。

燦はキョトンとした様子で特に怪しむ事も無かった。


「ラフィルの皆もあの世に持っていけたら良いのにね」

「燦と一緒なら良いよ」

「……駄目だよ、サクラ。ファンが悲しむよ」

「………そっか」

「なんか残念そうだね」


ふふっと笑う彼女にサクラは窓の外を見た。


「……燦は、一人で死ぬんだって思ってる?」

「そうだね。死ぬ時は誰だって一人だ」

「燦は看取って貰えるでしょ?」

「でも、一緒に死ぬ訳じゃない。本当は、看取る側の方が何倍も辛いんだってさ」

「……そうなんだ?」

「うん。サクラのドラマだよね。めっちゃ良い演技してた」

「ありがと」

「またやるの?」

「……さぁ?どうだろ……」

「忙しそうだもんね」

「有難いことだよ」

「……ラフィルは、来世で生まれ変わっても皆が惹かれ合ってまた一緒にアイドルやるんじゃないかなって思ってるよ」


燦は満足に語った。


「それこそ腐れ縁ってやつ……。あっ」


思い出したようにサクラはカバンから何かを取り出した。

ライブのチケットだった。


「燦がこういうの嫌だって事は知ってる。でも、いつ目覚めるか解らないし、待ってたら過ぎちゃうから」

「……一番良い席だよ……?駄目だよ、これはファンの子に……」

「あげない。それは、燦の為に用意したチケットだから。ツアーの最終日は東京。一番いいライブにする。だから、燦には特等席で観て欲しい。これは、ラフィル皆の想いだ」


そう言われてしまっては突き返す事は出来ない。

想いを無駄にはしたくない。

燦は大事に受け取った。


「ありがとう」

「其の日までは体調管理頑張れ」

「うん。保証は出来ないけどね」

「大丈夫。オレらのライブ見るまでは死なせないよ」

「……ありがとう、サクラ」

「さっきの曲も歌うから。楽しみにしてて」

「それは楽しみだね」


受け取ったチケットを棚の引き出しに入れ、燦は拝む仕草をした。


「後で彩世も来るって」

「そうなんだ」

「……この間の、紫翠の話聞いた?」

「……なんだろう?」

「お前の友達、一喝したって……」

「友達?あたしの友達は銀姫ちゃんだけだよ」

「あー……友達だった奴ら?にってこと」

「紫翠がそんなことしたんだ?」

「燦を貶す様な言い方されてキレたらしいってさ」

「……あ!それでかな……これ……」


燦は携帯を操作しながらある画面をサクラに見せた。

そこには結婚式の招待状と記されている。


「なにこれ」

「人伝にあたしの連絡先聞いたんだろうね。アドレス変えてなかったから届いちゃった。嫌がらせの招待状」

「うわぁ……今度、歌詞のネタにしていい?」

「アイドル向きじゃないけどね」

「それで?参加するの?」

「どーしたもんかなぁって。1週間後だし」

「なら、休み取って一緒に行けるじゃん」

「えっ……」

「紫翠とオレと彩世で乗り込む気満々なんだけど」

「……二度も、巻き込みたくない……。あたしの所為でラフィルの評判が下がったりしたら……」

「そんな事出来ないし。オレらのファン舐めんな」

「……でも……ただの嫌がらせだよ……。皆に嫌な思いは」

「「燦」」


声が被った。

サクラが振り向くと、お菓子をたんまり持ってきた紫翠の姿があった。


「紫翠……」

「なんだよ、サクラ。燦の事泣かせてサイテー」

「五月蝿いな……」

「燦、おはよう。菓子、食え」

「……ありがとう」

「招待状の話だろ?オレが吹っかけたも同然だよな」

「紫翠は何も悪くない……。どうせ厭味いやみったらしい悪口言ってたんでしょ?然程、仲良くした覚えもないのに、たかが噂ごときで囁いてる連中だよ。相手にしない方が……」

「売られたケンカは買わなきゃ損じゃねぇか」

「……だけど……」

「燦には、楽しく生きて欲しいんだよ」


紫翠はそっと燦に寄り添い、頬に触れながら囁いた。


「何の後悔も無く、生を全うしてほしい。その為にオレらは何だってする覚悟だ。ラフィルもレンも、お前の事を想ってる。だから、自分の所為で、なんて考えんな」

「そうだよ、燦。また、見返すつもりで参加しよう」


二人にそう言われてしまっては断れない。

もう長くはない命。ただダラダラと過ごしても後悔は残る。


「……ありがとう。皆が居てくれるなら心強いね」

「だろ?まぁ、サクラと彩世はおまけみたいなもんだけどな」

「紫翠一人じゃ心許無いからね。燦はラフィルの子だし」

「勝手にお前らの物にしてんじゃねぇよ、サクラ。燦はメリルのもんだ」

「最初に出逢ったのは此方だし」

「そんな大差ねぇだろうが」

「大事だよ。ねぇ、燦」

「燦はそんな事気にしねぇんだよ」


な?と二人に見つめられ、燦はふふっと笑みを零した。


「ありがとう。……誰かにこんなに想って貰えた事ないから、凄く嬉しい。頼りにしてる」

「おう!」


楽しげな会話を扉の影から聞いていた彩世は入る隙を失い、天を仰いだ。完全にタイミングを逃してしまった。

まさかあの二人が先に居るとは思わないぞ。


「何してんの?」


不思議そうな目で見つめられ、彩世は眼前の人物に視線を向ける。


「……見学?」

「なにそれ。入らないの?」

「……タイミングが……」

「女子かよ」


ほら、と背中を押され、リョウとともに病室に入った。

会話が途切れ、3人の視線が刺さる。


「よぅ、燦!」


沈黙が訪れる前にリョウが挨拶した。

それだけで空気が柔らかくなる。


「リョウ、彩世……」

「元気そうじゃん」

「うん」

「全然起きないから心配してたんだよ、彩世が」

「えっ」


いきなり話を振られ、リョウ任せにしていた彩世は燦と見つめ合ってしまった。


「彩世……?」

「……このまま、目を覚さなかったら嫌だって思った。また、燦と一緒に過ごしたいって……」

「うん……。ごめんね、心配かけて」

「……また会えて良かった、燦」


優しく微笑む彩世に燦も微笑する。

けれどその表情はサクラ達に向けるものとは違い、恋焦がれる乙女の様な色味を帯びていた。

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