伏見/FUSHIMI
「えぇんかなぁ……!こんな事滅多に無いで」
隣ではしゃぐ親友は目をキラキラさせながら運転するユズを眺めていた。
「休みが合って良かったよ」
「この所働き詰めだったからさぁ。大いに有給消化してやるんよ」
「銀姫ちゃん、今の仕事どう?」
「まぁ、プレゼンとかは面白いけど事務作業は嫌ね。腰が辛い」
「大変そうだもんね」
「燦に比べたら全然。あれは人が悪いよ」
「辞めて清々してる。もう二度と会うこと無いもん」
「……身体は平気なん?」
「うん。あんまり症状無いから大丈夫」
「具合悪くなったら言いなよ」
「ありがとう」
燦が色々とやらかした時も親友の銀姫だけはずっと傍にいてくれた。さっぱりした性格だが人の思いに気付ける優しい子だ。今はキャリアウーマンとしてバリバリ働いている。
「伏見くんもお休みなんね」
「あぁ。今日は私とユズだけオフだ」
「他のメンバーは個別の仕事?」
「最近は個々が多いな」
「サクラも一緒に行くって言ってたけど、午後からお仕事だもんね」
「あら、残念……」
「今度会わせるよ」
「え、いいの?会えるなら会いたい」
「銀姫ちゃんならいいよ」
「あ。同窓会の時、やばかったって?」
思い出したように銀姫が言うと、伏見が遠くを見た。
「まぁ、ほら、色々やらかして距離置かれたって話したじゃん?そんな関係で、あたしが伏見と親しいの羨ましかったんじゃないかなぁ」
「噂だけで距離置くとか友達としてどうかと思うけどね。変にヤバい話じゃなかったし。直接あんたが説明した訳じゃないんだもんね?」
「うん。人伝にって感じ。燦の為にとか建前言ってさ。本音は巻き込まれたくないから関係切ってみたいな」
「その時は友達でも、違う世界に行ったら傍目でしか判断出来ないのかね」
「言わせておけばいいんだよ。お陰でざまぁみろって感じだったし……。うわ、あたし、性格悪……」
「普通だって。見返せたんだろ?」
「多分……」
「ならいいじゃん。忘れちゃえ」
「その方が気も楽だぁ」
「嫌なことより楽しい思い出いっぱい作ろ」
「そうね!今日は楽しもう」
銀姫は【ラフィルフラン】 の大ファンで、燦は彼女のお陰で彼らと繋がる事が出来た。ユズを単推ししており、その勢いは半端ない。ファンクラブ会員なので事ある毎にライブに参加している。
「まさか、燦が【ラフィルフラン】と仲良くなるとは思わなかったわ」
「吃驚だよね。那月が声掛けてくれなかったら、繋がり無かったもん」
以前、銀姫が頑張ってゲットした【ラフィルフラン】のライブチケットを燦に譲渡した事があった。仕事がどうしても休めず銀姫は文句たらたらだったが、燦になら行って欲しいと頼まれたのでほぼ無知のままライブに参戦した。
初めて知るそのアイドルは、光り輝く舞台でキラキラしており、歌もダンスも上手で終始アイドルスマイルをキープしていた。一瞬で魅了されてしまい、それと同時に自分への劣等感が拭えなかった。
ライブ終了後、人の流れに沿って会場を出ようとしていた燦を、那月がその手を取り、引き留めた。
【ラフィルフラン】はライブ終了後も来てくれたファンの方々を自分達で見送るという方針を取っている。その為ファンは最後まで彼らをその目に焼き付けて満足して帰っていく。そんな中で一人浮かない表情で暗い雰囲気を放っていたら気にならないことも無い。
そんなに悲壮感を漂わせていただろうかと不安になる位、那月に心配され、具合が悪いのではないかと思われ、そのまま彼らの控え室に連れ込まれた。
燦が感じた事を話すと、彼らのマネージャーが燦を気に入り、世話役に任命した。そうして淡々と事が進み、今の現状に至る次第だ。
「そろそろ着くよ」
今回の目的地である原宿の恋人・カップル限定喫茶。そこでしか味わえないパンケーキが評判で銀姫はずっと食べたいと願っていた。メディアでも取り上げられ、燦も存在は知っていた。
「うわぁ……カップルばっか……」
「そりゃあ、限定だからね」
「銀姫ちゃんはユズと入る?」
「えっ……!いいの……?」
「俺は構わないよ」
「ま、じで……?有り難き幸せ」
「伏見はあたしとでいい?」
「あぁ」
丁度空いていたスペースに車を停め、燦達はカップルになり切って店の前に並んだ。
「めっちゃ人気やん……」
「美味しいって評判なんだって」
ユズと伏見はメガネと帽子を付け、溶け込んだ。来ている人達はパンケーキが目的なので周りの様子など気に留めないだろう。
「面白い位、気付かれないね」
「下手に目立たなければね。それに俺と伏見はそんなに人気がある方じゃない……」
「何を仰ってるんですか!いっぱいいますよ!」
興奮しながら銀姫は敬語になってしまった。
「そう?」
「いますいます!単推しの人とか、うちの職場にも結構伏見くん推し居るんですよ!」
「そうなのか……」
「ユズ様のファンも居ますし!人気爆発してます!」
満面の笑顔と自信に満ちた声色に二人は安堵の笑みを見せた。
「なら良かったかも」
「自信持って下さい!」
「ありがとう」
推しに優しく微笑まれ、銀姫は鼻血が出そうになった。
「直視ヤバい……」
「顔紅いね。興奮してる?」
「いや、しますよ……!尋常じゃない位、心臓が飛び出そう……」
「銀姫ちゃん、ちょっと意味わかんないよ」
「えっ、あ……いや、尊すぎて……」
「喜んでくれてるなら良かったよ」
「それは勿論!」
「次の方どうぞー」
いつの間にか順番が来ていたらしく、燦の前に並んでいた銀姫達が先に促された。
「あちらの席へどうぞ」
「えっ……二人席……?」
「此処は恋人・カップル限定のお店なので、二人席しかご用意がありません」
「そうなんや……」
「ではお進み下さい」
言われるがままに銀姫達は奥の席へと案内された。
「二人きりで大丈夫かな……」
「何とかなるだろう」
そのすぐ後に燦達も呼ばれ、窓際の入口に近い席へ座った。四人で嗜むものかと思っていた燦は銀姫と離れてしまい、少し申し訳ない気持ちになってしまった。
「燦達、あっちの席に行ったんやね……」
「大分離れたね。でもまぁ、二人きりなんて滅多にないし、楽しもう」
「はい!」
銀姫は目をキラキラさせながらガッツポーズを決めた。
パンケーキの種類は意外と多くあり、選ぶのに時間が掛かった。
それは燦達も同じで、似たような見た目で目移りしていた。
「伏見は決まった?」
「あぁ」
「早いね」
「迷ってるの?」
「イチゴかベリーで悩んでて……」
「私はイチゴのやつにしたよ。あとで分け合おうか?」
「本当?やった、ありがとう」
燦が店員を呼び、注文を取った。
店内は結構な混雑具合で食べたらすぐ帰らなければならない様な雰囲気が漂っていた。まだ行列は続いているし、長居するようなお店でもない。周囲には若い子が多く目立ち、楽しそうに笑い合っている。
「いいなぁ……」
「彼氏欲しいのか?」
「まぁ……夢見た事はあったけど。癌になってからは恋愛とかどうでも良くなったし、仮に付き合ったとしてもあたしが先に死んじゃうからさ。相手に哀しい思いさせるのはやだなぁってね」
「それでも、幸せになっていいと思うよ」
「……残された方は幸せになれるのかな」
「どうしたって戻れないから、次に進むんだろう?」
「伏見は?好きな子とかいるの?」
「学生の頃に一度経験した。すぐ破綻したけどね」
「その後は誰か好きになったりしないの?」
「感情というよりも、私の場合は波長が合う人が恋人になるんだと思う。恋愛の大半は勘違いだからな」
「恋は盲目か」
「錯覚でも、誰かを好きになれる人間は素敵だよ」
「そうかなぁ」
「互いを好きになる事は奇跡だ。そうして結ばれた縁は優しく紡がれていくものだよ」
「ほぅ……」
「燦にも、大切な人が出来る。私はそう願いたいけどね」
「伏見はあたしの事、なに対象として見てるの?」
「妹みたいな存在かな」
「あぁ。納得」
伏見より燦の方が年齢は上だが、彼の方が大人としての要素が素晴らしい。
「誰かを好きになるって、どんな感じ?」
「人それぞれだと思うが……。私は先を見据えて大丈夫だと思える相手が好きな人だと思う」
「先って……結婚した後とか?」
「……あぁ、まぁ、そうだな。共に暮らして楽しいと思えたらいいんじゃないか」
「そういうものかぁ」
「あとは価値観」
「あー……」
燦は天を仰いだ。そんな相手が今後現れる事もないだろうと。
話していると注文の品が運ばれてきた。どちらも美味しそうな色合いをしている。
「すごい……」
「結構ボリュームあったな……」
「食べよ、伏見」
「あぁ」
二人が食べ始めた頃、銀姫達の所にも頼んだ品が届いた。二人もそのボリュームの凄さに驚いた。
「若い子はペロって食べちゃうんだろうなぁ」
「銀姫ちゃんだってまだまだピチピチだよ」
「そろそろアラサーなんだよねぇ……。婚期も逃しそう……」
「彼氏いないの?」
「うち、面食いだから理想高過ぎなんだって」
「そうかなぁ」
「ユズ様は?恋愛経験あります?」
「無いよ。俺は面倒な性格だと思うし、付き合ったら大変かも」
「見えないですけどね」
「銀姫ちゃんは俺の事、推しって言うけど。推しを好きになるのと恋愛感情は違うの?」
「全然違いますよ」
「ふぅん?」
「ユズ様の事は大好きです!ずっと死ぬまで応援します。でも、好きな人にはそうはいかない。途中で嫌いになるかもだし。ユズ様に幻想抱いてるんですよ。ずっとイメージ通りでいて欲しい。裏の顔を知らないからずっと夢を持てる。勿論、知った所で幻滅しませんけどね。手の届かない人だから好きでいられるんですよ」
「……ほぅ。そういう考えなんだ」
「だから、ユズ様が誰かと恋人になっても嫉妬はしないし、推すのは自由だし」
「じゃあさ。もし、俺と燦が恋人になったらどう思うの?」
試す様な言い方に銀姫は暫く間を置いた。
「……変わらないかなぁ。燦は親友だし、ユズ様は推しだし。多分その線は変わらない。超えることも無い。仮に二人が付き合ってもうちは全力で応援します」
「……そう」
思っていた解答と違った事にユズは戸惑ったが表情には出さなかった。
「それよりこのパンケーキめっちゃふわふわですよ」
「そうだね。こんなに柔らかいのにちゃんと味わえる」
「行列さえなければ通うのになぁ……」
「人気の証拠だよ。並んででも食べたいと思わせるのは凄い事だからね」
「ユズ様達は美味しいもの沢山食べてます?」
「まぁ、仕事柄、食す事は多いかな」
「芸能人さんて凄いですよね。好き嫌い無く何でも食べてリポートして。天才だと思う」
「事前にアンケートとか聴取されたりするし。それで回ってくる仕事の方が多いけど」
「アレルギーとか出たら大変ですもんね」
「そうね」
「また、ライブやりますか?」
「うん。ライブはいっぱいやりたい」
「観に行きます!全力で推しますので!」
「ありがとう」
和みの雰囲気の中、パンケーキも美味しく頂いた燦達はお店を後にし、人気の公園へと向かった。
賑やかな大通りとは違って穏やかな空気に安堵した。
「人もそんなに居ないし、気分転換にはちょうどいいね」
身体を伸ばしながらユズが言った。
「バトミントンとか持ってくれば良かったね」
「あー……思いつかなかったわ」
「燦、運動大丈夫なの?」
「うん。最近は症状も無いし」
「そっか」
園内には家族連れやカップルの姿が目立った。楽しそうな構図に燦は目を奪われる。
「……燦。飲み物買いに行く?」
「あ、うん。銀姫ちゃん、何飲みたい?」
「オレンジジュース」
「ユズは?」
「一緒で」
「分かった」
伏見は少し離れた所にある休憩所へ燦を連れて行った。
「ごめんね、伏見。気、遣わせた」
「構わない」
「家族連れって幸せなイメージあるからさ」
「そうだな」
「伏見はいいお父さんになりそうね」
「……私は……」
言いかけた瞬間、誰かに名を呼ばれ伏見は振り向いた。
「あ。やっぱり伏見だ」
「高瀬……」
すれ違ったカップルに伏見は彼氏の方を見ながら過去の名を口にした。
「久しぶり」
「……あぁ」
高瀬と呼ばれた青年は今時のイケメンで陽に当たる金髪がキラキラと輝いている。
「活躍凄いね。ライブにも行ってるんだけど」
「そうか……。ありがとう」
どこかぎこちない返答に燦は伏見の顔色を窺った。高瀬の彼女は会話の邪魔にならぬ様にと彼氏の後ろに身を引いている。
「……会いたくなかった?」
「いや……。悪い、久々過ぎて動揺してる」
「まぁ、そうだよね。一方的に振られた訳だし」
「……ごめん」
「今更だよね。でももう吹っ切れたし、気にしてない」
「高瀬……」
「これからも応援してるからさ」
「あぁ……。ありがとう」
「じゃあね」
何も気にしていない感じで去っていく高瀬の姿を伏見は曇った表情で眺めていた。
「……伏見?」
「……ダメだな。あいつの前だと上手く話せない 」
「さっき話してた恋人?」
「えっ……?」
「聞いててそうかなぁって。振られたって言ってたし」
「……あぁ。私があいつを突き放した」
「アイドルだから?」
「それもあるけど。色々とあって」
「そっか」
「……聞かないの?」
「恋愛のイザコザなら、大体想像出来るから」
「……助かるよ」
その話を聞いた所で燦に出来る事は無い。伏見も過去を語るのは嫌だろうと察し、先に歩き出した。
「燦……」
「あ。アイスも売ってるよ。美味しそう」
「お前は何でも美味しそうだな」
「食べるの好きだしね。さっきはベリー系だったから、チョコにしようかな」
「ミックスもあるよ」
「あ、それがいい。あたし、飲み物買ってくる」
「あぁ」
アイスは伏見が支払いし、燦はまたジュースで迷っていた。
最近になって目移りが激しくなっている。余命があと僅かだからか、食べれる時に好きなものを食べておきたいと欲が張る。
「お。これ新発売かな」
自販機のボタンを押そうとして燦の動きが止まった。
───バタン
「だ、大丈夫ですか……!?」
近くにいた人達が倒れた燦に駆け寄る。その騒ぎに気付き、伏見は買ったばかりのアイスを手から落としすぐに燦を抱き抱えた。
「燦……!」
顔面蒼白な彼女に伏見は嫌な予感が拭えなかった。いくら呼んでも反応が無い。
「あ……あきら……?」
「伏見!今救急車呼んだから!」
騒ぎに気付いた高瀬がすぐに状況把握し、伏見に伝えた。
「高瀬……。ど、どうしたらいい……?燦……どう……」
「落ち着け伏見。息はしてる?」
「あ、あぁ……。呼吸はある……」
「此処、救急車入れるかな」
「何かしておいた方が……」
「いや。素人が余計な事しない方がいい……」
「伏見!」
周囲のざわめきを打ち破って透き通った声が響いた。
「……ユズ……」
「倒れたの?」
「あぁ………。呼んでも反応しない……」
駆けつけたユズと銀姫に伏見は震える声で言った。
「燦……」
「以前にもあったな……」
「その時はどうしたの?」
「救護室に運んで、暫く寝たら治ったらしい」
「今回もそうだといいけど……」
銀姫とユズは意外に落ち着いていて、程なくして現れた救急隊員にも丁寧に説明していた。救急車にはユズが付き添って行った。
「救急車なんて初めて呼んだわ」
まだ動揺している伏見をベンチに座らせながら高瀬が一息ついた。
「ありがとう……高瀬」
「身近な人が急に倒れたら吃驚するよな。案外他人の方が行動出来る」
「……そのようだな」
「そういえば何か買うつもりだった?飲み物買ってこようか?」
「高瀬。お茶買ってきた」
高瀬の彼女が伏見と銀姫の分の飲み物まで持って戻ってきた。
「ありがと、結城」
「うちらも病院行った方が良くない?」
結城と呼ばれた彼女は銀姫に聞いた。
「そうやね……。どこの病院だろ……」
「付き添ってた子に聞いたら?」
「あぁ、そっか」
連絡先の交換をしていた銀姫は早速ユズへ電話を掛けた。
「伏見、どう?落ち着いた?」
「あぁ……」
まさかあんなに自分が取り乱すとは思わなかったので、伏見はまだ呆然とした様子だった。
「あの子、貧血的な?それとも病気だったりする?」
「……ノーコメントだ。無闇に話せない」
「そっか。まぁ、何事もなければいいんだけど」
「伏見くん!燦、この近くの病院に運ばれたって」
ユズから情報を得た銀姫が早口に伝えた。
「高瀬は車か?」
「いや、電車で。伏見は車で来たの?」
「あぁ」
「なら丁度いい。乗っけてってよ」
「それは構わないけど……」
「まぁ一応関係者な訳だし?」
「そちらの都合が良ければ」
「やった!」
嬉しそうに笑う高瀬に伏見は俯く。その笑みは嘗ての恋人に見せるものではない。
伏見達は車に乗りこみ、ユズが教えてくれた病院へと向かった。
他のメンバー達にも連絡済で、伏見達が待合室に着いた時には先にリョウとサクラが来ていた。
「伏見」
「二人とも仕事は?」
「終わって帰ろうとした所にこの連絡だよ。ビビった」
「俺もだよ」
「ごめん……」
「彩世と那月も向かってる」
「そうか」
【ラフィルフラン】 のメンバーで話し合っているのを銀姫達は少し離れた位置から眺めていた。一般人が介入出来る空気では無い。高瀬も結城も黙って話が纏まるのを待っている。
「あれ誰?」
「アイドルグループの【ラフィルフラン】って知りません?」
人気絶頂な彼らを知らない結城に驚きながらも銀姫は冷静に話した。
「アイドル?」
「今一番人気なんですよ」
「……アニソンしか聴かないから知らん」
「ヲタクなんですか?」
「結城はめっちゃヲタクよ?沢山作品知ってるし 」
高瀬が何の躊躇いもなく会話に入ってきた。
「オススメの作品あります?」
「……なに?アニメ見るの?」
「最近は色々。時間がある時は見てますね」
「……口にするの恥ずかしいから、メールで送る」
「やった!ありがとうございます」
「あと、敬語要らない。多分、タメだから」
「うち、27歳ですよ」
「えっ……!ごめんなさい……同い年だと思って……」
「ありがとう」
「じゃあ、あたしが敬語にしないと……」
「ここまで話したらタメでえぇよ。敬語めんどいしな」
「……うん」
そんな流れで二人が連絡先を交換していると、静かにユズが現れた。
「燦は?」
「今は眠ってる。発作みたいなものだって」
「そっか……」
「病室案内するよ」
燦は個室に運ばれていた。病気の重さもあるだろうが、【ラフィルフラン】 の存在を辺りに晒したくないという気遣いもあるのだろう。
「大丈夫そうなの?」
高瀬が伏見に聞く。燦の顔色が良くなっているのを確めながら伏見は頷いた。
「じゃあ、伏見。ちょっと」
不意に手を引かれ、二人は病室から出た。
「どうしたの……」
「正直、オレはずっと会いたかったよ」
「……ごめん。あんな別れ方して……」
「思い出すとイラッとするけど、尾は引かない。だから、気に病む事無い」
「……でも……」
「結城にも言ってあるんだ。お前と付き合ってた事。そしたら可愛い笑みで、"バーカ”って言われた」
「高瀬は悪くない……」
「伏見にだって非は無いよ。悪いのは盗撮したメディアだ」
学生時代、二人は学校にもバレない様に付き合っていた。だからあの時の油断が混乱を招いた。
路地裏で密かに口付けしていた所をそれ関係の人に撮られ、伏見が揺すられた事を知り、一時的な活動停止が命じられた。世間には報道されずに闇に消えたが、それを切っ掛けに伏見は高瀬に別れを告げた。
「ねぇ、伏見。あの子はなに?関係者?」
「あぁ。那月が懐いて、それから色々……」
「大事な子?」
「凄く大切にしたいと思ってる。メンバーもみんな、同じ想いだ」
「もしさ……もし……辛い事あったら言ってよ」
伏見の腕を掴みながら高瀬は泣きそうな表情を浮かべた。
「高瀬……」
「もうお互い、あの頃には戻れないけどさ……頼られる存在では在りたいんだ……」
「ありがとう、高瀬。嬉しいよ」
「……うん」
またこうやって関係を築けるとはあの頃には思わなかったので伏見は珍しくはにかんだ。
「───高瀬。そろそろお暇しよう」
「あ、あぁ。そうだね」
結城が出てきたので高瀬は彼氏モードに切り替えた。
「高瀬。色々、ありがとう」
「どういたしまして。あの子、目覚めたら一応連絡頂戴」
「あぁ。そのつもりだ」
「サンキュ。じゃあ、またな」
去っていく高瀬を伏見は暫く見送っていた。
「伏見」
高瀬達と入れ違う様に向こうから彩世と那月の姿が見え、手を振った。
「燦、倒れちゃったって聞いて……」
「仕事切り上げてきた」
焦る様子の那月に反して彩世は至って冷静だった。
「また、発作的なやつ?」
「あぁ……。眠ってるだけだから、目は覚ますと思う……」
「サクラ達も居るんだよね?」
「うん。先に説明聞いたらしい」
そう言うと那月は病室に入っていった。
「……伏見?大丈夫?」
「あぁ……。今は落ち着いた……。済まない……。一緒にいたのに……」
「伏見の所為じゃない」
「もっとちゃんと気をつけていれば……」
彩世と二人きりだからか、伏見は本音を吐露した。
「おれらがどう行動したって支えられない時もある。最近は、本当に元気そうだったから、おれも皆も安心しきってた……。伏見だけの責任じゃない」
「……けど……あ、燦が倒れた時……何も出来なかった……」
「動揺するのは仕方ないよ。いつも笑って傍にいた人が突然目の前で倒れたら何も出来なくなるのは当然だ。誰だって信じたくないよ」
「……彩世……」
「伏見も、休息取って。メンタル、整わせないと」
「……そうだな」
「燦のご両親は?」
「医師と話してるそうだ」
「……そう。おれらは燦が目を覚ますのを待つしかないね」
けれど、その日燦が目を覚ますことは無かった。
そして、燦の両親から彩世達に残酷な知らせが伝えられた。
───燦の死期は近い。覚悟を決めておいて欲しい、と。




