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もっとも祝福を受けた村 リィマ

 困惑した様子のロンパイアに連れられて、リィマ村へと引き返した。

 夜が深まるにつれて村の輝きは増している。あちこちから聞こえる騒ぎ声も酔いの混ざったものとなっており、酒の匂いに当てられて頭がクラクラとして来た。


「リリシア、これでも羽織ってろ」


 日差しが強いときに使うコートを影から取り出して露出の激しい少女に着せる。不安そうにキョロキョロとしているライの手を引いてロンパイアの後ろを歩く。


 今まで見てきた村とは打って変わってネオンサインまで輝いている。通りがかりの旅人や他の国から働きに来る者が多いらしく、そのために宿屋が立ち並んでるらしい。

 夜中だというのに、勝利の国(ヴィクトレース)でも見た露店が開かれている。


 売られている物に雑貨は少なく、酒のつまみや、片手で食べられるような品が多い。少し薄暗くなっている通りを見てみれば、精力剤や怪しい媚薬なども売っていた。


 少し外れたところには歓楽街もあるようだ。


「クーリア、何変なとこ見てるの!!」

「バッカちげぇよ。ちょっと観察してただけだ!!」


「アハハ。興味があるようでしたら、後ほど案内しますよ。もちろん、クーリアさんだけでね」


「…………?」


 俺が貸してやったコートを着こなしながら、リリシアは疑うような視線を向けてくる。

 俺たちのやり取りを微笑ましく眺めていたロンパイアがからかう様に告げると、ツインテールの少女からの視線はさらに厳しく変わって、後ろから足元を蹴られた。唯一の救いは、俺の視線の先に気づかなかったライが、意味の分からない会話に疑問符を浮かべてくれたことだろう。


 ……これで、ライからも疑われたら、お兄ちゃん失格である。


 歓楽街から離れてしばらく歩いていると、少し地味目の宿へと案内された。一応看板を掲げているので営業しているのだろうが、他の宿に比べて静かな雰囲気が漂っている。


「今夜はこの宿に泊まっていてください」


「高そうだが、そんなに持ち合わせは無いぞ?」


 不安そうに尋ねると、長身の男は優しく笑って「支払いは僕がしておきますから、気にしないでください」と言う。自分たちで安宿を探すつもりだったが、ロンパイアの厚意を甘んじて受け入れることにした。幸い、宿の裏手は広い庭になっていて馬車を止めるスペースもあるようだ。


 中に入ると、読書をしていた三つ編みの少女が顔をあげる。少し頭を下げたかと思うと、カウンターの下から紙を一枚取り出して、黙ったままペンと一緒に突き出してきた。

 不愛想な態度だが、それなりに歓迎をするつもりがあるのか、リリシアの持っていた荷物を受け取って部屋まで運ぼうとする。名前を書いた紙を少女に返すと微かに笑みを浮かべて階段の上を指し示した。


「ついて来いってことか?」


 コクリと頷いて俺たちの先を行く。苦笑いを浮かべたロンパイアが手を振って見送ってくれた。


「話は通してありますから、あとはごゆっくりどうぞ」


「準備が良いと思ったらそういうことか。何から何までありがとう」


 三つ編みの少女が3階まで登ると、一番奥の部屋まで案内される。部屋の鍵を渡されると、深々とお辞儀をして部屋を出て行った。


「クーリア、お腹空いた~」


「馬車でポトフ食べただろ? 足りないのか?」


 ベッドの上で足をバタつかせるリリシアに呆れながら、影の中から携帯食料を取り出す。適当な扱いに不満を抱いたのか口をとがらせて文句を言いだした。


「わかったわかった。で、何が食いたいんだ?」


「途中で見かけた露店に行きたい!! 美味しそうなものいっぱいあったよ」


 窓から階下の露店を指さして、楽しそうに飛び跳ねた。そんな彼女の動きに合わせるように上下に揺れる胸から目を逸らしつつ、影の中から財布を取り出す。

 ライは遠慮しているようだが、雲のようなお菓子に心を奪われている。


 その様子に気づいたリリシアがライの手を引いて『わたあめ屋』と書かれた露店へと歩き出した。2人について行って綿あめを買う。

 砂糖で作られたお菓子のようで、口一杯に頬張って楽しそうに笑っていた。


「クーリア、綺麗な髪留め売ってるよ!! 買ってもいい?」

「好きにしろ。そっちの赤いのと黄色いのでお揃いにしたらいいんじゃないか?」


 リリシアは黄色い十字の髪留めを、ライは赤く塗られた花の髪飾りを、それぞれの前髪に着けると見せつけてくる。互いの髪留めを眺めては誇らしそうに、けれどどこか羨ましそうに見ていた。


「ご飯食べるんだろ? 行くぞ。絶対にはぐれるなよ」


 ワガママなお姫様2人を連れて祭りごとのような雰囲気の村を見て回った。

 ……ここにブランが居たら、もっと騒がしくなったんだろうな。




 翌日、わざわざロンパイアが宿まで迎えに来てくれた。なぜか腰に剣をぶら下げて。

 昨日は遅くまで村を歩き回っていたせいで、昼が近いというのに少女たちは仲良く眠っている。元は一人一つベッドを用意していたのだが、いつの間にか俺のベッド含めてくっつけていた。


 目を覚ました時にライが右手を掴んでいた時は何事かと思ったが……。


「フフ、まるで家族ですね」


「ロンパイア、からかわないでくれ」


 金を払ってもらったので文句は言えないが、部屋まで迎えに来るのはやめてほしかった。おかげで、見られたくない場面を見られてしまったしな。


『太陽』のアルカナ因子を克服し、第2段階の試練が始まると話していたが、その場所は昨日と同じ坑道前だった。すでに祠としての機能を失っているが、ガタイのいい村人たちはヒーワー村で作られているピッケル片手に炭鉱の中へと入っていく。


「試練はここで行います。内容は、純粋な力比べです」


「……まぁ、腰に剣を下げてるわけだし、予想はしてたよ。ただ、こんなところでやって祠をぶっ壊さないか?」


 俺の憂いを断つように、腰の剣を抜いて祠へと突き刺す。坑道の門を支える木枠に突き刺さるが、ゆっくりと抜くと、ロンパイアが付けた傷が再生していった。


「遺物の力ってことか?」


「いえ、正確には、力の残りカスだと思ってください。遺物はすでにあなたの物ですから」


 剣を戻して改めて俺へと向きなおる。特に開始の合図があったわけではないが、すでに試練は始まっているらしい。言うべきルールも無い。単純な勝ち負けだけの勝負。


「先手は貰うぞ。もう油断はしねぇ……。詐術(ペテン)


 わざと大げさな動作で腕を構えて、いっそ分かりやすいまでに魔法をぶっ放す。偽物の魔法に引っ掛かることなく、背後からの奇襲を躱した。


 攻撃の意思を濁らせた不可視の魔法だというのに、全く通じていない。


「攻撃が早い……。それに見えない。ピッチャーさんの入れ知恵ですか?」


「その通り。案外、余裕はなさそうだな?」


 躱すだけで反撃の手管がない。ピッチャーなら容赦なく鞭が襲い掛かってくるところだったが、腰の剣を抜こうともしなかった。手加減されているわけでないのなら、勝機は見える。


 魔導書から片手サイズのハンマーを呼び出す。

 更にページをめくって銀緑色の中扉が差し込まれた『戦車』の項目を開いた。フラッシュが見せた威力を必死に夢想しながら、水を圧縮する。


「穿て、勝利の儀式(ヴィクトリーカップ)!!」


 生み出された水圧弾はハンマーのヘッドに叩かれてさらにスピードを増す。

 細身の男は躱しきれずに思いきりのけぞった。水圧弾が通って穴の開いた肩を庇うかと思えば、腰の剣へと手を掛けた。


 ――攻撃が来る!!


 とっさに防御姿勢。


 つんざくような金属音が響くと、ロンパイアの長い剣が地面を抉って砂煙をあげる。

 一瞬だけとはいえ視界を奪われて、土埃に紛れて回復された。


 目くらましを吹き飛ばすように、魔導書を開いてハンマーから火車(アポロン)をぶっ放そうと考えているとロンパイアのシルエットが巨大化する。


「突っ込んできた!? 再生を中途半端にしたのか!!」


 未だ肩から血を零しながら、どこからともなく取り出した大剣を振るった。両腕が歪に斬られて、魔導書がパサリと落ちた。槌も取りこぼし大剣の勢いに突き飛ばされてしりもちをつく。

 落とした魔導書を影に沈めて、腕に抱くようにしてもう一度取り出す。


 肘から先の無い右手をロンパイアに押し付けると魔導書が銀緑色に輝く。


「吹き飛べ!! 火車(アポロン)


 激しい爆発に互いの体が吹き飛ぶ。

 今度は右腕自体が無くなった。肩からドクドクと血を零すが、ロンパイアも同じような状態だった。


「どうやら、傷が開いたみたいだな? 無理しすぎだろ」

「それはお互い様のようですね。自傷の場合、回復は遅いでしょう?」


 互いに余裕がないというのに、楽しそうに笑みを浮かべていた。


 吸血鬼は基本的に不死であり最強の生物である。他人からどれだけ傷つけられていても、(日差しの下でなければ)即座に再生して傷は塞がる。ただし、自傷ダメージだけは再生が遅い。

 俺が使った火車(アポロン)は言うまでもないが、わざと怪我をしている方の腕で剣を振るったロンパイアも同じである。


「フフフ。利き手への攻撃を避けられなかったのは失態でしたね」


 そう言って肩を抑える手ぶらのロンパイア。


 ――まて、剣はどこに行った!?

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