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最期の試練

 少し休憩をした後、クローネやウォーリン村の農民たちに見送られて陽が沈みかけている中を馬車で走り出した。リリシアもライも、気のいい村人たちからたくさんの果物を貰っている。


「ライ、道は大丈夫か?」


「クローネおばあちゃんに教えてもらったから大丈夫!! とりあえずまっすぐ走って」


 赤毛の少女は、イチゴを頬張りながら荷台から辺りを見渡す。ガーディニア村よりも大きな農村であるため、近くには一本も木が見当たらない。

 どうやら前に散歩に出かけた時は、無意識のうちにずいぶん歩いていたらしい。


「……ライ、故郷を思い出したか?」


「ちょっとだけね」


 ゆるやかに流れる水路をうつむきがちに見つめる。ふと背後を見てみれば、かなり遠くなったというのに、未だに手を振っているクローネの姿。

 ライは涙をこらえるように笑みを浮かべると、大きく実った一粒のイチゴを頬張った。


「……ライちゃん、道に不安があるから、こっちに来てもらっていい?」


 リリシアからの気遣うような呼びかけが御者台から響く。クローネが用意してくれた長袖の服の裾で涙を拭き取ると、空元気のまま荷台から出て行く。


「我慢させてるんだろうなぁ」


 すっかり日は落ちて、冷たく見慣れた月が薄く輝いていた。


 それから1時間ほどだろうか。吸血鬼の聴力が、騒がしい音を拾う。

 黄昏直後にウォーリン村を出発したので、真夜中と言うほどの時間ではないが、お祭り騒ぎのような複数人の話声が聞こえる時間でもない。


 複雑に絡み合った木々が視界を塞いでいて分かりにくいが、村の明かりがかすかに見える。おそらく最後の遺物が封印されているリィマ村だろう。


「ブレッシュの中で最も栄えている村……。その呼び名は伊達じゃなさそうだ」


「クーリア、壁が見えたよ!!」


 暗闇の中に障害物が見えた。

 村を取り囲むように1mほどの石壁が設置されており、街道に合わせて壁が途切れて門が作られている。といっても、開閉式で作られているわけではなく、吸血鬼が1人立っているだけだ。


「その首輪、『愚者』の吸血鬼ですね? ロンパイア様から話は聞いております」


 水で薄めたような血色のコートを着た吸血鬼が馬車を止める。首にはヒマワリの種を繋ぎ合わせたような柄のチョーカーを着けており、『太陽』のアルカナ因子を持っていることを示していた。


 門番を務めていた吸血鬼が魔法を放つと、すぐにもう一人吸血鬼が飛んできた。コウモリの羽を巨大化させたような翼の男が夜空を飛び回り、ゆっくりと俺たちの前へと降り立った。

 美しい所作で頭を下げると、隣の吸血鬼がそれに倣う。


「はじめまして、僕はこの村の村長を務めている『太陽』のヴァンパイアスート、ロンパイア・ソルです。未熟ですが、(ソード)を務めています」


「あ、ああ。俺は『愚者』のヴァンパイア、クーリア・ナールだ」

「普通の人間のリリシアです。こっちで隠れてるのがライです。この娘はガーディニア村出身です」


 余りに丁寧な態度に思わず戸惑った。

 ロンパイアと名乗った男は、濁った血のような色のコートとは裏腹に、闇夜でも目立つほど髪色は明るい緋色をしており、俺よりも背が高く細身だ。けれど、柔らかな表情によって威圧感は感じさせない。


祖母(クローネ)から話は聞いています。祠まで案内しましょう」


「えっと、私たちも着いて行っていいんですか?」


「ええ、もちろんです。それとも、休憩したければ宿を用意しますが……?」


 村の中はあちこちがライトで照らされており、大男から細身の娘までが酒場で好き勝手に騒いでいる。商人の恰好をしたものが機を見ては、何かを売りつけたり、買い付けたりと忙しそうだ。

 民家が無いのではと思うほどに宿の看板が並んでいる。


「どうするライちゃん? 眠くなっちゃった?」


「ううん大丈夫。それより、祠に急ごうよ」


 村の雰囲気に当てられたのか、ライはやけに興奮した様子だ。

 ロンパイアの気遣いを断って、村の中を馬車ごと進んだ。そのまま通り抜けるのかと思えば十字になった大通りを右に曲がって騒がしい灯りから離れた。


 空気が覚めてきて、徐々に薄暗い雰囲気が漂ってくる。

 それでも定期的に背の高い松明が設置されていて、足元に不安はあるが道に迷うことはなかった。微かに感じられる焼けた金属の匂いが鼻についた。


「クーリア、錆びみたいな匂いしない?」


「近くに炭鉱があるんです。そして、その炭鉱こそがシャルハート様の魔石を隠す祠になっているんです」


 警戒を見せるリリシアが小声で呟いて来た。それを耳聡く聞きつけた長身の男は一瞬だけ振り返って彼女の疑問に答える。

 怪しい雰囲気を疑うのは分かるが、この男に敵意は無い。


 それをアイコンタクトで伝えると、リリシアはライの手をぎゅっと握りしめた。


「ここです。リィマ村、ひいてはブレッシュの土台を支える炭鉱業の要。そして、私たちを守護する伝説の遺物、シャルハート様の魔石が封印された祠です」


 今までの祠とは比べ物にならないほど大きい建物。

 そもそも坑道の入り口として利用されている木組みの門なのだから、大きいのは当たり前だ。


「それでは、クーリアさん。試練を始めましょう」


 間髪入れずにそう言うと、ロンパイアは入り口を支える木柱に触れた。呼応するように坑道が赤色に輝き、光の中心から小さな石ころが吐き出される。


「シャルハートの魔石!? 本物か……?」


「ええ、正真正銘、伝説の魔石です。これは、クーリアさんが持っていてください」


 あっさりと最後の遺物を手に入れると、懐にしまっていた他の遺物たちも反応し始める。

 影の中から魔導書が飛び出した。


「シャルハート?」


 心臓は呼応し、冠は輝き、魔石は魔力を飲み込んで、その全てが魔導書の中へ吸収される。途端に、全身を巡る血がふつふつと煮えたぎり、全身から炎が噴き出した。

 とっさにリリシアとライから離れると、バランスを崩して地面に転がる。


「僕の試練は2段階に分かれています。第1段階では、吸血鬼にとって最大の苦しみである『太陽』があなたを襲う。ここで適合できなければ、『太陽』のアルカナ因子は手に入りません」


 自分を封印しているシャルハートがアルカナ因子を取り戻すためには、俺の体を経由する必要がある。俺のアルカナ因子が魔導書と結び付けられていることを利用するのだ。

 そのためには、俺自身が『太陽』のアルカナ因子に耐えなくてはならない。


「クーリア……」

「ライちゃん離れて。クーリアは今、危ない状態だから!!」


 闇夜を照らす炎に見せられた赤毛の少女が虚ろな目で近づいてくる。

 とっさにリリシアが止めたが、そんな2人の前にロンパイアが立ちふさがる。


「お2人は僕が守りますから、安心して試練に集中してください」


 体内で暴れ狂う『太陽』のアルカナ因子。

 全身を燃やす炎は不思議と痛みは無く、奇妙な暖かさだけだった。血反吐をまき散らしながら、体が自分の物ではないかのようにのたうち回る。


「……あんまり、痛くも苦しくも無いな?」


 見た目こそ派手だが、ロンパイアの言うような苦しみは無い。炎に包まれているのに熱くは無く、血反吐を履いているのに痛みは無く、全身が震えているのに苦しくはない。


「炎が弱まってる……?」


 自分のツインテールで目を塞いでいたリリシアが、ポツリと漏らした。

 彼女の言う通り、先ほどまで俺の体を燃やしていた炎の威力が弱まっていったのだ。そして徐々に、血を吐く量も減っていく。


 やがて体の自由も利くようになると、砂ぼこりを払いながら立ち上がった。


「あーあ、炭が付いてる……。あとで服を作り直すか」


 金色のバツ印が描かれた裾の広がった服は、炭と泥で真っ黒に汚れていた。吸血鬼の服はたいがい、自分の魔力から生成しており、着替えの必要はない。

 2人が寝た後にでも作り直せばいいだろう。


「えと、アルカナ因子を取り込んだんですか?」


 信じられないものを見るようにロンパイアが尋ねてくる。

 自分でも不思議だが、『太陽』のアルカナ因子と適合したようだ。魔導書のページに『太陽』の項目が復活しているだけでなく、シャルハートやスートが使う能力も刻まれている。


「なんか、上手くいったみたい?」

「そ、そうなんですね……? じゃあ、想定より早いですが、明日にでも試練の第2段階へ移りましょうか…」


 困惑した様子のロンパイアに連れられて、リィマ村へと引き返した。

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