表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/68

段々の畑

 何処までもまっすぐに、俺の攻撃を受け止めるのだ。


「だったら、片腕くれてやるよ。これならどうだ!! 火車(アポロン)


 銀緑色に輝く魔導書。

 俺の腕にエネルギーが蓄積されると衝撃が抑えきれなくなったように破裂する。指1本分とは違い地面が揺れ動くほどの威力だ。


「さすがに、応えたんじゃねぇか……?」


 肘から先の無い腕をだらんと垂らして肩で息をする。徐々に再生が始まっているとはいえ、そのスピードは遅々たるものでまるで進まない。

 意味も無くアルベルデの再生能力を羨んだ。


 立ち上った砂煙が徐々に薄くなる。円はまだ見えないが、煙の中でゆらゆらと揺らめくクローネのシルエットが目立って見えた。


「……なるほど、コレは確かに戦車じゃの」


「ハハ、笑えてくるよ。こんだけやっても無傷とはな……」


 俺の渾身の爆発を受け止めるどころか、防御しようという姿勢すら見せずに老婆は立っている。

 パタパタと音を鳴らしながら揺れる割烹着。目を閉じていたライが恐る恐ると言った様子でクローネの顔を見ると、ニコリと温かみのある笑みを返す。


「悪くない攻撃じゃよ。見込みはある」


「そりゃどうも。ちっとも手ごたえを感じないけどな」


 煙が晴れると同時にクローネの背に回る。

 ぴったりと手のひらをくっつけると未だ手首の再生が間に合わない腕で魔導書を抑える。開いたページは勝利の儀式(ヴィクトリーカップ)


 だが、超高圧に固められた水の弾丸はクローネの背中を穿つことは無く、むしろ反動に耐えきれず俺の体を明後日の方向へと吹き飛ばした。祝福の価値(ブレスコイン)による重力異常が影響して、手加減無く放った水圧弾は真下へと歪み、結果として俺を浮き上がらせたのだ。


 浮き上がった体が無残にも地面へと打ち捨てられると、平原で寝ころぶ俺の頬を、山頂特有の生ぬるく乾いた風が撫でた。


 ゆっくりと起き上がってクローネの所に戻ると、リリシアとライが俺を心配してくれる。


「大丈夫だから、そんな顔すんなよ」


 泣きそうな目をしているライの赤い髪を撫でる。

 魔導書を開いて紫色の中扉が挟まれたページで待機させる。


「クローネ、確認だが何をしてもいいんだよな?」


「無論じゃ。転移魔法と円を消すこと以外なら大抵は大丈夫じゃぞ」


 言質取ったり。

 コレで()()()()()()()()()が出来る。


「奇跡の象徴よ。愚者に奇跡の価値(ミラクルコイン)を与えろ!!」


 パラパラとページが捲れて俺の体が霧へと変わっていく。

 クローネは微かに警戒を見せて、自分の体重を増やす。メリメリと音が鳴るほどに地面は軋み、ほんの数mmではあるが地面が沈んだ。


 霧が円の周りを包み込むと、初めてクローネが膝をつく。どれだけ体重を増やし自分の体を固定していても、幻覚を見せて都合よく動かせば関係ない。


「き、効いてる!?」


「今のクローネは無数の円があちこちを取り囲んでるように見えているはずだ。何度か揺さぶりを掛ければ!!」


 先ほどまで吹いていた温い風もパタリと止んでいる。

 運までもが俺の味方をしていた。


 前後不覚へと陥ったクローネが千鳥足のようにフラフラと円の中を歩き回っている。何度がラインを踏んだこともあったが、これではまだ足りない。

 あともう少しといったところ。俺の魔力も限界が近づいている。


「あと、少し……!!」


 フラフラと揺れ動く幅が大きくなってきた。あと1、2歩で円の外に出るだろう。

 思わず、リリシアとライも声を漏らす。


 しかし、不意にクローネのステップが止まったかと思うと胃の中を掴まれてかき混ぜられたかのような衝撃を喰らって、霧の状態から強制的に実体化させられた。

 何が起きたのか一瞬理解できなかったが、霧に包まれた老婆が勢い良く腕を振るったのだ。


「ゲホッゲホッ!! な、何が……?」


「なるほど、幻影とは考えたものじゃのう。悪くない手じゃったが詰めが甘すぎる」


 堪えきれない衝撃に腹を抑えてうずくまる。霧の状態で攻撃をされるのはピッチャーの時にも覚えがあった。あの時は霧状の体に土を付着させられて掴まれたが、クローネの攻撃はもっと直接的だった。

 まるで、俺の存在そのものを殴っているような……。


「ピッチャーから聞いておらぬか? ワシはあやつの師匠を務めておった。年老いえているとはいえ、鍛えた体は健在。霧を掴むのも造作の無いことじゃ」


 老婆が見せたのは、攻撃を隠す技術の究極完成形。どれだけやっても余裕綽々の笑みを崩すことすら出来ない。

 苛立ち混じりに放った攻撃が軽く弾かれるのを見て、どうしようもないと諦めた。


「……あんまりこの手は使いたくなかったんだがな」


 先ほどまでの無風とは打って変わって、突然の悪天候が始まる。

 真っ黒な雲が頭上を覆い、バチバチという小気味いい音が響いた。時たま雲が輝いては弾けるような渇いた爆発音が降り注ぐ。


「死んでも後悔するなよ。穿て、奇せ(ミラク)……」


 途中まで叫んで、魔導書を取りこぼした。

 魔導書から呼び出した魔法が暴走し俺の両腕を焼き焦がしたらしい。震える指先からボロボロと炭が零れているのを茫然と眺めていた。


「魔法が使えない……!?」


「どうやら打ち止めのようじゃの? 今日はもう日が遅い。試練の日は改めるとしよう」


 魔法の使い過ぎか。はたまた愚かさゆえの代償か。

 なんにせよ、これ以上魔導書を開くことすら出来なくなってしまった。そうなると、俺は『愚者の大罪』を除いて攻撃手段がなくなったに等しい。


 つくづく自分の愚かさに嫌気が差す。


 リリシアの操縦する馬車に乗って俺たちはウォーリン村へと向かった。


「なぁ、ウォーリン村って農村なんだよな?」


「そうじゃよ。山の真下に広がる普通の農村じゃ。それがどうかしたかの?」


 クローネの問いかけに対して首を振って誤魔化した。ふとライの方を見てみればヘタクソな作り笑いを浮かべて老婆からもらった飴を舐めている。

 同じ農村ということもあって、いろいろと思い出すこともあるのだろう。


 馬車が山を下りていくと、眼下に小さく畑が見えた。ライと一緒に荷台の窓から顔を出すと村人たちが元気そうに畑仕事にいそしんでいる。

 そんな様子を見た赤毛の少女は逃げるように俺へと抱き着いてくる。


「……クーリア、私、大丈夫かな」


「もう2度とお前みたいな犠牲者を出さないようにしよう。いや、俺がしてみせるよ」


 しばらく馬車を走らせると、ついにウォーリン村へと到着してしまう。

 浮かない顔をするライを馬車から降ろす。クローネが少女の背中を押すと、恐る恐るではあるが村へと入っていく。畑仕事をしている村人が気になるのか、自分から進んでそちらへと向かって言った。


 大きさはまばらだが、そこかしこを埋め尽くすように様々な畑が耕されており、野菜はもちろん穀物の類や薬の材料となるようなハーブまで育てられている。

 本来ならば、季節や共生を考えて生産されるのだろうが、シャルハートの冠の影響でどうとでもなるらしい。さすが伝説の遺物である。


「すげぇな……。こういう言い方は良くないとは思うが、ガーディニア村とは全然違う」


「こんなに大きい畑、初めて見た……」


 老若男女問わず一面に広がる畑の中を歩き回っている。魔道具を使って農作業をしている者も多い。


「あっちに見える山が祠のあったところじゃぞ」


 そう言ってクローネが指さすのは、美しく並べられた段々畑だった。緩やかな階段状の山のてっぺんに木組みの小屋が見えている。


「この村にだって襲撃は何度も来ている。じゃがな、シャルハート様のお力とワシの力があれば村は守れる。じゃが、それは守るだけ。だから、見込みのあるうぬには試練を突破してほしいと思ってるのじゃ」


「そんなの、言われなくても分かってるよ。必ず試練は攻略する。シャルハートも復活させる」


 そして、ガーディニア村を襲った吸血鬼を探し出してライの復讐を成し遂げる。


 そんな仄暗い決意を胸に秘めて、明日の試練に備え早めに眠りについた。


 ちなみに、クローネが作ってくれた穫れたて野菜を使ったに物はとても美味しかったが、リリシアの作った野菜炒めはめちゃくちゃ辛かった。

 ……ライに食べさせる前に味見をしてよかったと心の底から思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ