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最悪の襲撃者

「ルイチャドゥ村には大きい建物があるんだ。この川沿いにまっすぐ進むと見えてくるはずだよ」


 ガーディニア村から最も近いという集落まで馬車を走らせる。

 まだ少し距離はあるが、特におかしな様子は見られない。おそらくガーディニア村を襲った吸血鬼よりも先に到着した。もしかしたら行き先が違うのだろう。


 川という目印もあるし、途中から街道が整備されていて想定よりも早く着きそうだ。


「リリシア、村に入る前に休憩しよう」


「分かった。じゃあ、この辺りで止まるね」


 器用に馬を操作して馬車を止める。御者台から降りて馬の頭を撫でながら、土手を降りて河原を進んだ。小さな橋を渡って対岸まで移動すると、荷台を雑木林の陰に隠して馬を解放する。


「少し水を飲ませてくるね。私も水浴びしたいし」


「あ、私も行きたい!! クーリア、着替え出して」


 平然とした顔で吸血鬼をパシリにするライを睨む。意に介すことも無く俺の影から取り出した2人分の着替えを受け取ると、大きなタオルと共に川の方へと駆け出して行った。

 見たところ、くるぶしに届く程度の浅い川で、流れもそこまで速くない。

 12歳の少女が遊ぶには少し不安だが、リリシアが居れば大丈夫だろう。


「おい愚か者よ。休んどる場合なのか? 修行をサボれば、魔力は腐るし体も重くなるぞ」


「それは伝説の吸血鬼なりのジョークか? 封印を解いたわけでもないのにキャパオーバーの吸血をした上に、アルベルデとの戦いで調子に乗った奴から何を学べばいい?」


 いくら伝説と言われていても、本来だったら朽ち果てて輪廻の輪に強制送還されてる年齢。それを自分を封印することで誤魔化しているのだから、吸血による身体能力の向上には限界がある。

 ちょっと分身を作って魔法を使う程度ならともかく。


「アルベルデは十分に強かった。すくなくとも老いたお前よりは。分身を使っているとはいえ、その攻撃を耐えた上に、相手を打ち砕くほど魔力を使うなんて、さすがのシャルハート様でも無茶だろう?」


「妙に賢いのぅ。『愚者』を名乗るわりに忌々しいわい。なぜ気づいた?」


 直感と言えばそれまでだが、今までまともな言動をしていて些末なことで茶化してきたシャルハートが、急にポンコツになった上不貞腐れて口数が減ったことで違和感を抱いただけだ。


「根拠も無くカマをかけただけだ。自分の力じゃ、まともに戦えないんだろ?」


「そうじゃよ。正直、光の状態で出てくることも出来んわい。血も受け付けないしのぅ。じゃからこそ、お前自身の強化が必要だと思ったのじゃが……」


 陽に晒された魔導書が、天に浮かぶ光へ恋い焦がれるように呟く。


 俺自身も『愚者の嫉妬』によって万全の状態とは言えない。融通の利かない吸血鬼の再生能力を呪いながら、荷台で大人しくしているほかないのだ。


「もし魔導書の汚れが気になるなら清潔(クリンネス)の魔法を唱えてやるぞ?」


 馬車の荷台から降りることなく、体とコートに生活魔法の一種である清潔(クリンネス)を唱える。わざわざ水を浴びなくても、この魔法1つで汚れは無くなるのだ。ただ、人間にとっては水を被るというのが重要なようで、どれだけ丁寧に説明してやっても、魔法を使って風呂代わりにするのは嫌らしい。


「そのぐらいは自分で出来る。馬鹿にするな」


 強がるシャルハートを荷台に置いて、体を拭き終えた2人の下へ向かった。


「あ、ねぇクーリア。こっちの水たまりになってる方には魚が居るよ!!」


 リリシアが大きく手を振って俺を呼ぶ。彼女のトレードマークともいえる膨らんだツインテールは解いており、陽の光を反射して綺麗な黄色に輝いていた。指を差す方を見てみれば、親子らしい魚が小さな池のような場所で泳いでいる。


 自然にできたものではなく、誰かが掘ってできた池のようだ。

 まるで子供の手で作ったような生簀には2、3匹の魚しかいないし、川から離されているわけでもないようなので、魚たちも出入りし放題だ。


「なぁライ。ルイチャドゥ村がどんなところか分かるか?」


 俺の後ろから覗いてくる赤毛の少女に尋ねる。名前と場所は知っていたようだが、村に入ったことは無く、外からも目立つ大きな建物があるだけで、他は知らないという。


「ねぇ、クーリア。この魚捕まえてもいいかな?」


 まるで子供みたいに無邪気な顔で尋ねてくるリリシアに軽くデコピンをお見舞いしてやった。どう考えてもルイチャドゥ村の子供が作った物だと考えられるし、それをぶち壊すような行いは良くないだろ。


「捕まえるんだったら、下流の方にいる奴にしておけよ。というか、そもそも食べないんだから手を出すな!!」


「吸血鬼の癖に真面目ちゃんみたいなこと言うんじゃないわよ。水掛けてやる。えいッ!!」


 俺の説教を聞き流すブランと同じ顔をしながら水を掬って放ってくる。流水が弱点ということもないので、全く何ともないが鬱陶しいことこの上ない。


「ええい、クソッタレ!! 着替えたばかりの服でもビショビショにしてやるよ!!」


「ちょっと、それは困る!! 冷たッ!! もう、やめてよ~」


 どうせ肩やらヘソやらあちこちむき出しの服を着ているのだ。ちょっと濡れたぐらいならすぐに乾くだろう。リリシアはやり返されてもいいと思っているのか、俺へ水を浴びせる手を止めない。

 しばらく水の応酬を続けていると、いきなり真横から追撃が来る。


「な、なんだ!?」


「へへっ!! リリシアお姉ちゃん、私も手伝うね」


「ライちゃん……!! いいね、クーリアをビショビショにしよ~!!」


 今まで抑えていた感情を解き放つような満面の笑み。

 村を襲った吸血鬼への復讐を止めることは出来ないだろうが、一時的に忘れることは出来るだろう。少しでも、心の傷を癒す手助けになればと思って、しばらくリリシアのおふざけに付き合ってやった。


 日が傾き始め、リリシアとライはもう一度水浴びをすることになった。

 河原で走り回ったり、森の中でかくれんぼをしたりと、あれこれ遊んでいたせいで無意味に汗をかいたのが気になるらしい。


 俺はと言えば、人間2人に付き合ったせいで、太陽バテの最中だ。


「吸血鬼が炎天下で遊ぶなんて聞いたことがないぞ」


「返す言葉も無い……。シャルハート、少し寝るから、2人が戻ったら起こしてくれ」


 魔法で川の一部をお湯に変えたので、リリシアとライはそちらを楽しんでいる最中だ。長くなるだろうし、今のうちに荷台で休憩しておこう。

 どうせ夕食の時間になったら気が休まらないしな。


 体を動かしたことと陽を浴びたことによる倦怠感が体にのしかかる。微睡みに甘えていると、森の中を何かが走る音が聞こえた。それと同時に、何かを弾く音も。


 バチンバチンと一定間隔で鳴る跳打音。

 風を切る音に紛れて、荒い男の息遣いも合わさっている。だが、一定の距離まで近づくと、途端に音が消えた。俺たちに気づいて気配を消したのだ。


 間違いない、相手は吸血鬼だ。


 たしか、森を隔てた向こう側はルイチャドゥ村があったはず。


 この場合考えられるケースは2つ。

 ルイチャドゥ村に住む吸血鬼が、俺たちを(いぶか)しんでやってきた。

 もしくは、ライの村を破壊した吸血鬼が俺たちに追いついた。


 前者ならば事情を説明すれば、すぐに済む。

 後者なら……。


「ルイチャドゥ村の吸血鬼であれば好都合。もっというなら、都合よくシャルハートの遺物についても知っていてくれればいいんだが……」


「妄言もたいがいにするのじゃな愚か者よ。ほら、来るぞ!!」


 シャルハートの叫び声から一泊遅れて、青い炎を纏った鞭が勢いよく馬車の中を通り抜けていった。横腹を強く打ち付けられ、衝撃に耐えかねて荷台からはじき出されてしまう。


「リリシア、敵だ!!」


「きゃあ!? わ、分かった。ライちゃん、私の後ろに下がってて!!」


「うん……!!」


 もうすぐ夜が始まるというのに、派手な青い火柱を立たせる鞭が黄昏を飛び回った。


 辺りに打ち付けられるたび、一瞬だけ赤い火の粉をまき散らして河原の石を砕いている。


「何のつもりだ……?」

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