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リベンジマッチ・セカンド

「アルベルデは……フラッシュに指輪を渡すつもりらしいの」


 ぱっちりと開いた目元をまっすぐに向けてくる。リリシアの言う指輪を渡すという行為が、俺が知っている人間同士のやりとりと同じ意味だというのなら、アルベルデの思惑を掴みかねた。

 アレは未婚同士の人間が魔法を使わずに互いを縛るための儀式であり、吸血鬼の婚姻には関係ないはずだ。さらに言えば、すでにアルベルデとフラッシュは婚姻魔法を結んでいて、誰が見ても夫婦だ。いまさら、形骸的な行為が必要になるとも思わない。


「怠惰・怠慢が常の吸血鬼がそんなことするのか?」


 悠久の時を無意味に使いつぶす吸血鬼たちは、一度魔法で縛ったのならそれ以上を求めない。ましてや、手間がかかって面倒なだけの不要な儀式に(こだわ)るとも思えなかった。


「私もアルベルデが何を考えているのかは分からないけど、この戦いでクーリアを倒してから改めてフラッシュに結婚を申し込むんだって」


「ハンッ!! まるで俺が見世物みたいな扱いじゃねぇか」


「イヒヒ。愚か者が見世物とは、それはまた見ごたえがないじゃろうなぁ」


 口を歪めて嘲笑うシャルハートを睨みつける。もちろん、赤い光の姿なので口なんてないのだが、なんとなくの雰囲気でそう感じ取ったのだ。苛立ちを隠すことも無く鼻を鳴らして、背もたれに寄りかかる。椅子が軋むのも構わずにテーブルに置かれたお茶を一気飲みすると、リリシアに話の続きを求めた。


「アルベルデの筋書きでは、フラッシュに指輪を渡して、今まで隠してたことを話すって言ってたよ」


「隠してたこと、ねぇ……。だが、俺にはそんな事情関係ないだろう?」


 すると、今まで口を挟むことも無かったシャルハートがより一層輝きを増す。何か重要なことを言うから注目しろと言わんばかりだ。ろくなことを言わないだろうが、仕方なく話を聞いてやる。


「アルベルデは手柄が欲しいのじゃろ」


「手柄? それってどういう意味……?」


 リリシアが首を傾げる。

 ふんわりとしたツインテールがふわりと揺れて肩にかかる。


「初代『戦車』のヴァンパイアロードは、他のヴァンパイアロードを下し、いち早く自国の領土を主張した。それはあくまで、戦いたいという欲求を満たすための行為じゃったが、他の野良吸血鬼や人間共から見れば、カリスマとして映ったじゃろう」


 むろん、同時期に『太陽』のヴァンパイアロードを務めていたシャルハートは、その『戦車』すらも倒して、アルカナ因子の一部を継承したわけだが……。

 さらに言えば、2代目、3代目と続いて、戦争による領地拡大に動いていたという。好戦的な性格は全ての『戦車』のヴァンパイアロードに受け継がれていき、他国との戦争や蛮族の掃討、はたまた世界規模の危険からの救済など、話題に事欠かない英雄譚を残している。


 ワガママながら自国の民を守り、縦横無尽に世界中を走り回る姿はやがて、こう呼ばれた。


 全てを蹂躙する『戦車』


 と……。


「じゃが、アルベルデには目立った功はない。いままで行ってきたことも二番煎じでしかない」


「アルベルデにとって、俺を倒すことは、功績となりうるわけか」


 ましてや、先代『戦車』のヴァンパイアロードに仕えていたヴァンパイアスートであるフラッシュに認められ、大衆の前で娶ることを宣言すれば、大いに沸きあがるだろう。フラッシュを倒した『愚者』をアルベルデが倒すという構図は、出来過ぎたおとぎ話のようでもある。


「だから、八百長で負けろってわけか。だったら、ブランの魔石はどうなる!!」


 握った拳をテーブルに叩きつける。ビクリとリリシアの肩が跳ねて、目を丸くした。

 金色の花の刺繍が施されているワンピースを着た少女を思い出す。アルベルデの功績だとか思惑だとかにブランは無関係だ。けれど、あの娘なら、無邪気な笑顔を浮かべて、「お兄ちゃん、せっかくだから負けてあげなよ。私は大丈夫だから」なんていうだろう。


「ぜってぇ、認めねぇからな……!!」


 ブランと同じ真っ白な髪をかき上げて、歪んだ笑みを浮かべる。シャルハートは「イヒヒ」という笑い声を漏らし、リリシアは小さな悲鳴をあげる。何かを思い出したのか、慌てた様子で股下の短いパンツのポケットをまさぐっていた。


「そ、そうだコレ!!」


 そう言って差し出してきたものを受け取る。見覚えのある透明な結晶だった。まるで天使の輪を砕いた欠片かのように美しく、光を反射してキラキラと輝いている。


「ブランの魔石!?」


「まさか、盗んできたのか!? 小娘、やりおるのぉ」


 シャルハートがよくわからない歓声を上げると、リリシアは黄色の髪をブンブンと揺らしながら慌てて否定した。曰く、八百長の代償としてアルベルデが持たせてくれたらしい。何もかもを御前立てされていて気に食わないが、魔石が手に入るのならそれでもいいかもしれない。


 いや、当然、不完全燃焼だが……。


「それにさ、クーリア。私、何度かアルベルデが戦ってるとこを見せてもらったんだけど、相当強そうだったよ。たぶん、『魔術師(モーブ達)』とは比べ物にならないと思う」


「は?」


 ピクリとほほが引きつる感触。

 俺の表情が硬くなっているのに気づかずにリリシアは呑気な顔で言葉をつづけた。


「鬼ごっこの時に使った自分の腕を吹き飛ばす技、あの時は全然本気じゃなかったんだよ。たぶん、ヴィクトレースに建ってる大きい家だって壊せるよ」


「それがどうしたんだよ。どうせ勝てないからアイツの思惑通りに負けろってか!? そんな理屈、正しくねぇだろ。クソみたいな理不尽、認められねぇ!!」


 思わず声を荒げると、何が可笑しいのかシャルハートは歪んだ笑い声をあげる。真意を掴むように睨むと、煽るように俺の周りを点滅しながらフワフワと浮かぶ。あまりにうざったらしいので虫のように手で払うが、ひらりひらりとかわされた。


「不条理だとか理不尽だとか。まるでガキの戯言じゃのう……。さすが『愚者』というべきか」


 含みのあるシャルハートの物言い。リリシアも悲しそうに目を伏せるばかり。それはまるで、俺が負けると信じて疑わないようでもある。高みを目指す愚か者に同情するような表情。


「ふざけんじゃねぇ!! あのイカレ戦闘狂が勝手に俺を巻き込んだだけだ!! 理不尽でクソみたいな選択を突き付けて、必死に足掻けば、上から目線で説教なんてしやがって。悪いのは向こうだろ!!」


「そうじゃろうな。誰がどう見ても、美談めいたお主の方が正しい。妹を救わんとする愚者を、アホみたいな自尊心に巻き込んで邪魔をしてるのはアルベルデじゃ」


 シャルハートの言う通り。俺が要求しているもの(ブランの魔石)は、アルベルデにとって無用の長物であり、互いに深くかかわらないというのが最善だったはずだ。その均衡をわざわざ崩したのは、あの軽薄な顔をした緑髪の吸血鬼の方であり、あまつさえ、無関係の人間(リリシア)を攫った。


 普通に考えれば、許されざる重罪である。


「そのうえで、八百長の提案? ふざけんな。強いからって、無実の俺たちまで巻き込んでいいはずないだろ。アイツに何の権利があるってんだよ!!」


「イヒヒ。弱肉強食という言葉を知らんのか? 強者は弱者を蹂躙する権利がある。害する権利がある。そして愚かな弱者(おまえ)はそれを受ける義務がある。吸血鬼ならば、いや、生物ならば誰だってわかっていることじゃろう?」


 いつになく冷たいシャルハートの声。


 思わず乾いた笑い声が漏れた。


「俺だって、好きで弱く生まれたわけじゃねぇよ……」


 産まれた時から、誰かが傍にいてくれたアルベルデが羨ましかった。

 4万年という長い歳月を強者として過ごせるシャルハートが妬ましかった。


 名付けることができない黒い感情は俺の中で確かに膨れ上がっている。シャルハートの嘲笑。リリシアの同情。そして、フラッシュから耳打ちされた言葉。全てが俺の癪に障る。

 今この瞬間も沸々と際限なく湧いて出てくる感情を必死に押さえつけた。


 それは、新たなる『愚者の大罪』を解放する予兆でもあった……。







 しばらくして闘技場の修理も終わり、休憩室からリリシアが出て行く。一応、彼女は人質という立場を国民に知らしめている以上、いつまでも俺のそばを付いて回るわけにはいかないらしい。

 彼女がアルベルデの下へと戻っていくと、顔だけを出した甲冑姿の吸血鬼は気安い感じでリリシアの肩を抱き寄せる。すぐ隣でフラッシュが殺意のような目を向けているが、特に気にした様子もない。爽やかだが意味深長な笑みを俺に向けて、空いている手で握手を求めてきた。


「せいぜい、いい試合にしようぜ。愚者の吸血鬼(クーリア・ナール)


「ああ、上等だよ。無様な姿を晒して、()()に幻滅されないと良いな?」


 互いの煽りが会場へと届けられて、入場する前からも歓声が聞こえる。フラッシュの時よりも大きな盛り上がりを見せており、俺の2度目の番狂わせを期待している愚者(バカ)共が無暗に騒ぎ立てた。

 観客席のあちこちから罵声とも応援とも怒号ともとれる声が聞こえる。


 それらをすべて無視して、闘技場の中心に立つアルベルデを見据えた。先ほどまでフラッシュの七賽戦槌によって歪んでいたフィールドとは思えぬほどに整えられている。1から作り直したと言われても信じてしまうほどに平坦で、傷の痕跡すら見当たらない。


「なぁ、クーリア。愚者に先手は必要か?」


「我慢できない駄犬か? 仕方ないから譲ってやるよ」


 またも合図などはなく、唐突に始まる。


 一直線にアルベルデは突進をはじめ、甲冑がカタカタと音を立てて震えた。足を動かすたびにガシャガシャと激しい金属音が響いて、せっかく修理した石畳の床はへこんでいく。


前進(ブースト)!!」


 脚へとエネルギーを収束させての超高速移動。

 テクニックなどみじんも感じさせない強い踏み込みは、足の感覚が(ある意味)ぶっ壊れているようであり、躊躇いなく突っ込んでくる。


 吸血鬼の動体視力ですら追いきれない。

 一気に距離を詰めて、すぐ目の前に現れたアルベルデは、右腕に力を込める。甲冑の隙間から銀色の光が漏れ出て、内部でエネルギーが暴れているのを感じ取った。


「くたばれ、クーリア。火車(アポロン)!!」

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