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リベンジマッチ・ファースト

 全身を焼かれるような胸糞の悪い晴天の中。

 健常な吸血鬼の価値観で言えば、アルベルデとの再戦には最悪の日ともいえる。()()が爛々と輝く悪しき日に4万年生きた吸血鬼は凄惨に笑う。


「さて、この1週間ある程度までは鍛えた。思う存分暴れてくるが良い」


「言われなくてもそのつもりだ。あのワガママ王様をぶん殴ってやる!!」


 ヴィクトレースから離れてからずっと追いかけてきた監視役も、この日だけは居ないようだ。人の修行をジロジロと見ていたのは気に食わないが、このタイミングでいなくなってくれるのは嬉しい。

 国に戻るまで付いてこられるとか気まずいにもほどがある。


「よお、久しぶりだな」


 そう言って俺が軽薄に声を掛けたのは、大きな外壁で入国管理をしている兵士だ。

 相変わらず眩しく輝く黄金の鎧をまとっていて、元気溌剌に仕事に取り組んでいる。前回この国を出た時に出国の手続きをしてくれた男でもある。


「ああ!! そういえば今日で1週間ですか。私はもちろんアルベルデ様を応援していますが、良き戦いになることを祈っていますよ」


 口先ばかりの応援をする兵士に別れを告げて、外壁の中へと入っていく。開いた城門のまえでは同じように金色の装備を纏った兵士たちが俺を待ち受けていた。


「『愚者』の吸血鬼、アルベルデ様がお待ちである。ついてきてもらおう」


 前後を兵士に挟まれ、まるで晒し者にされているような気分になりながら、町の中を歩く。積み上げられた建物の窓から、住民たちは顔を出して好奇の目を向けてくる。


 人間の好奇心にウンザリしながら、ヴィクトレース王宮の前に到着した。


 何度見ても、城というには奇抜なデザインである。

 宮殿には見えない程、城壁が横に広がっており、全体的に楕円状である。楕円に囲まれた上から布をかぶせて陽を避けていて、城には窓の類は一切ない。


 窓は無いのだが、等間隔に城壁に切れ込みが入っていて、何かが稼働するようだ。


「久しぶりだな、愚かな負け犬」


「よう、傲慢王。人間は壊れやすくて扱いにくかったろう? 綺麗な宝石付きで引き取ってやるよ」


 城からやってきたアルベルデは、全身甲冑を纏っていた。

 傍らには、貴婦人のような日傘をさしているフラッシュ。晴天の下ということもあって、傘を差していても顔色が悪そうだ。


「前の鬼ごっこで俺は勝っている。ならば、俺とのリベンジマッチで愚者が勝ったとしても一勝一敗になるだけでらちが明かないと思ってな。俺の前にフラッシュを相手にしてくれ」


「つまり俺は、お前たち2人を両方と戦えってことか?」


「ああ、そうだ。かなりの国益になるからな。お互い、いい勝負をしようじゃないか」


 城に来るまでの道中、住民たちが俺に好奇の目を向けた理由が分かった。

 ろくでもない企みにため息が出そうになったが、これはある意味アピールの場にもなる。


「ステージはこの城の中だ。専用の闘技場が用意されている。どちらかがギブアップもしくは死んだら終わりというシンプルなルールで行こう。異議は無いな?」


「ああ、問題ない」


 闘技場として通されたのは城の中心部だった。

 砂が引いてあるだけの簡素な闘技場であり、周囲を取り囲む観客席には人間、吸血鬼を問わずに大量の人々が騒ぎ立てていた。


「圧巻された? こんな大勢の前で愚かさを晒すことが嫌なら、早めにギブアップすることね」


「バカ言え。妹の前では常にかっこつけてきたんだ。このぐらい余裕だ」


 客席を見渡してみれば、アルベルデとリリシアが混じっていた。

 ドリンクを片手に何やら楽しそうに話していた。そして、フラッシュはそんな2人の様子を冷たい目で睨みつけている。


「悪いわね。私はアンタに負けられない事情があるのよ」


「へぇ? それは奇遇だな。俺も大切な妹のために負けられねぇんだよ!!」


 この勝負に始まりの合図なんて必要ない。

 互いに向き合った時点で勝負は始まっている。


 魔導書から緋色の剣を呼び出す。


 フラッシュめがけて一気に突進。


「あまりに愚かな突進。これでも食らいなさい!!」


 シックなドレスから美しい白い手が伸びる。

 その指先から鋭利な氷が出現した。


 無数にまき散らされる氷の刃だが、シャルハートの魔法に比べれば、あまりに遅い。


「祝福の象徴よ。愚者に剣を与えろ!!」


『太陽』の剣を振り上げるが、とっさに躱されて指先だけが飛んでいく。


 ボタボタと赤い雫が砂を濡らしたが、すぐに再生が始まった。

 吸血鬼からすれば、この程度はただの軽傷。恐れや苦痛を感じることも無い。


「図に乗るなよ。愚か者風情が……!!」


 フラッシュが自分の影の中に手を突っ込むと、巨大な戦槌を取り出す。

 彼女の頭よりも少し大きなサイズ。持ち手すら、両手を広げるよりも長く作られており、ただ支えておくだけでも一苦労だろう。


「これは、七賽戦槌(ななさいせんつい)。賽の目が描かれた特別製の戦槌だ」


 賽の目――つまりはサイコロである。

 持ち手の頭に正方形の槌があり、持ち手から正反対の面には点が6つ打たれている。隣の面にはそれぞれ2つ、3つ、4つ、5つの点が打たれた面。

 そして、持ち手の部分こそ、『1』としてみているのだろう。


「それだけ重い物。振るうのがやっとだろう?」


「まさか。扱えない武器を携帯するほど愚かになったつもりはありませんよ」


 俺への痛烈な皮肉を交えて、艶やかな銀髪の女は大槌を横薙ぎに振り回す。

 軽く地面に打ち付けるだけで、足元が覚束ない。頭に響くような衝撃と瓦礫の割れる音。こっちは体勢を崩されているというのに、フラッシュは余裕の笑みを浮かべていた。


「地震を引き起こしてる!?」


「単なる衝撃波です。この程度で動揺するなんて、愚かですね」


 槌の巨大さと、フラッシュの細い体格が合わさり、互いの距離を測りかねる。

 スピードこそ鈍いが、気の抜けない猛攻だ。


 まき散らされた砂ぼこりに紛れてシックなドレスが目に入る。


 ――これはッ!! ヤバい……!?


 真横からの強い衝撃。

 一撃で意識が飛ばされそうになる。けれど、ここで負けたら、俺は一生負けたままだ。砕けた腕を庇いながら必死に立ち上がる。魔法とは違って直接的なダメージである分、吸血鬼としての再生能力が働きやすいのだ。


 それに、()()()()()()()()のおかげで、見た目よりもダメージは少ない。


「コレを見てから、反撃が減りましたね? もしかして、怯んでるんですか?」


愚か者(バカ)が。『愚者』の『奇術(トリック)』に引っ掛かってんじゃねぇよ」


 槌を振り下ろそうとするフラッシュの目の前で不可視の爆発が起きる。


「ハハハ。『魔術師』のアルカナ因子、透明な魔法、詐術(ペテン)!!」


『魔術師』のヴァンパイアロード、モーブ・ストレガが使っていた見えない魔法である。

 シャルハートとの修行に紛れて、ひたすら『魔術師』の魔法を練習し続けてきたおかげで、ある程度なら操れるようになっていた。


「さてと、奇跡の象徴よ。愚者に神秘を与えろ」


「ハハハ!! なかなかおもしろいことをしますね」


 戦槌の持ち手を俺に向けて、奇妙な構えをとる。


勝利の儀式(ヴィクトリーカップ)。勝負はまだこれからです!!」

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