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魔石の在り処

 翌日、レストランで朝食を済ませた俺たちは、情報収集を兼ねて露店で買い物をしていた。


「道幅が広いのは、露店形式が一般的だからか……」


 昨日は夕方ごろに入国したこともあって、露店が畳まれていたが、昼間の町は賑わっている。


 シートを引いて、その上に商品を並べた人間たちが、あちこちに声を掛ける。

 民家の前だというのに、呼び込みの声を迷惑がるような様子はなく、むしろ、値切ったりするのに怒鳴り声をあげている始末だ。


「ずいぶん、にぎやかな国なんだな」


「そうだね。ミラクローアとは大違い。それより、なんでそんな変な格好してるの?」


「吸血鬼らしく陽を避けている。気にするな」


 真っ白な手袋にアノニマスマスクとシルクハットを被っている俺は、あまりに目立ち過ぎていた。

 金色の×印が描かれた緩い服の上に黒のコートなど、我ながら奇妙な出で立ちだ。その上、手にはくたびれた袋を提灯のように吊り下げて頭の上にかざしている。


 しかも馬車の荷台の中でそんな恰好をしていれば、人間だらけの道では目立つだろう。


「吸血鬼はだいたい『日傘』を持ってるんだよ。『魔術師』のヴァンパイアなら、あのフードがそうだ。で、俺の日傘はこの袋ってわけだ」


 便宜上『日傘』と呼んでいるだけで、傘型じゃないのも珍しくない。


「じゃあ、シルクハットは?」


「傘だけでは不安があったから使ってる。昼間から外に出るのは慣れてないからな」


 まぁ、ここ数週間は日の出ている森を走り回ったり、陰鬱な王宮をぶっ壊して日が差すように改良したり、『太陽』のアルカナ因子に甘えて昼間の外出が増えたが……。


 陽による弱体化を完全に無くすには服や傘で守るのが最も効果的だ。


「……ともかく、俺のことはいいから必要なものを買いそろえるぞ」


「じゃあ、洋服から揃えよう!!」


「タオルの類ももう少しあった方が良いよな」


 露店を巡って布類を売っている店を探す。

 その場で食べられるような食品や、野菜類の販売が多く、雑貨類は国の中心の方へ行かなくては無さそうだ。道が広いおかげで、馬車移動ができるのが楽だ。


「クーリアはどんな服が好み?」


「人間の服に興味がない。それより、馬車の運転に集中しろ」


「じゃあ、リップとかは? どんな色が良い?」


「だから人間に興味がない。ああ、お前の恰好を見てると寒そうだなと思ってるよ」


「ええー、このワンピとかおしゃれでよくない?」


 月夜であっても肌を晒すことが少ない吸血鬼にとって肩や腕を露出させた洋服なんて考えられない。ブランが着ていたワンピースだって、あの上からコートを着る前提だ。


 あの娘が素直に着てくれることは稀だったが。


「お嬢ちゃん、こんな服もいいんじゃない?」


 ゆったりと歩かせてた馬車の脇から声を掛けてきたのは、地べたに腰掛ける老婆だった。

 ボサボサの白髪姿だったが、手元は引き締まっており、今でも服作りを続けていることが窺える。露店に並べられた衣服も、丁寧な作りで、つくづく人間の努力に感心させられた。


「すご~い!! これ、お婆さんが作ったの!?」


「礼儀知らずなガキだね……。お姉さんとお呼び!!」


 自分の衣服は自分の魔法で作るのが当たり前の吸血鬼から見ても、老婆が並べる服は素晴らしい物だ。デザインから意匠まで工夫を凝らされており、手作りならではの味が表現されている。


「なぁ、タオル類は扱ってないか?」


「ああ、今日は出すつもりじゃなかったけど、一応作ってあるよ。弟子に作らせたものだから質は落ちるけどね」


「構わない。小さい物と大きい物を3枚ずつ欲しい。どちらも体を拭くものだ」


「はいよ。じゃあ、6枚で……3000円でいいよ」


「手作りのわりに安いな? 5000円で、釣りはいらない。その代わり少し話を聞かせてくれ」


 老婆が後ろの木箱からタオルを取り出し、受け取って影に沈める。


「最近、この国に流星が落ちなかったか? それと、同じことを聞いた吸血鬼は居ないか?」


「流星ねぇ……。たしか、ヴィクトレースに流れてる川にそんなようなのが落ちたって聞いたね」


「本当か!? それはどこにある?」


 老婆は、自分の白髪を叩いて思い出そうとする。

 しばらく唸っていると、自身無さげに呟いた。


「たしか……アルベルデ様に届けられたって話を聞いたような……」


「アルベルデ?」


「そう。ヴィクトレースの王様で、『戦車』のヴァンパイアロード、アルベルデ・シャール様」


 俺が忌々し気に唇を噛むと、それを無視してリリシアが前のめりになる。老婆は目の前で揺れた双丘に一瞬目を引かれたが、すぐに彼女の目を見直した。


「おばあちゃん、その人って今どこに!?」


「普通に王宮に居るんじゃないかねぇ? また戦争の準備じゃないかな」


 俺とリリシアは顔を見合わせて、急いで馬車に乗り込む。何のための戦争なのかは知らないが、少なくとも俺たちにメリットがあるものではないだろうし、むしろ、嫌な予感さえする。吸血鬼の魔石には何の使い道も無いが、ここで『戦車』のヴァンパイアを逃したら、2度と魔石が手に入らないような……。何の根拠もない直感だ。


「おばあちゃん、また後で服を買いに来るから!!」


 馬車を走らせて王宮に向かう。

 奪う手立ては考えていないが、『戦車』のヴァンパイアロード、アルベルデ・シャールが『世界』のヴァンパイアロードや『塔』のヴァンパイアロードと接触する前に、最低限の計画を練っておきたいのだ。


「吸血鬼の魔石って、持ってても何の意味も無いんでしょ?」


「ああ、他の吸血鬼の魔石を食ったからって強くなったりはしないはずだ」


 これはシャルハートの受け売りであり、自分を封印する前は死に抗うために吸血鬼の体を調べ尽くしたイカレ吸血鬼の実体験なので信憑性は高い。


「じゃあ、そのアルベルデって奴が魔石を拾った意味って何かな?」


「『世界』や『塔』との交渉……。あるいは、戦争の大義名分ってところかのう」


 影の中から魔導書が飛び出し、シャルハートが言う。イカレ吸血鬼と呼んだことが気に障ったのかと思ったが、そういうわけではないらしい。聞かれてなくて良かった。

 彼曰く、『戦車』のアルカナ因子を持つ歴代吸血鬼は、たいがいが好戦的で各国に戦争を仕掛けるトラブルメイカーらしい。


「あの娘の魔石を戦争の火種に使われてたまるかよ」


「戦争? そこまでいく?」


「ほとんど言いがかりに近いが、『魔術師』あるいは『世界』か『塔』に因縁をつけることは出来る。たとえば、魔石が落ちてきたせいで何か被害を受けたと言ってな」


 シャルハートのたとえ話に身が震える。

 常軌を逸しているが、争いごとに狂った王様ならそのくらい考えかねない。本人にその考えがなくても、戦争をすることで儲けている連中が、上手く唆すだろう。


「そうなる前に、魔石を奪いたいところだが……」


 城の前に到着すると、その大きさと警備の厳重さにあっけにとられる。


 黄金の鎧で身を固めた兵士たちが、一定間隔で城壁を守っており、目を光らせていた。

 吸血鬼が住む城なので、窓の類はなく、大きな円形を描く城壁の上から白い布のようなものが覆いかぶさっている。とうぜん、魔力によって厳重に守られていた。


「私がヴィクトレースの人間じゃないから、吸血作戦も無理だね……」


「いや、そもそも、対吸血鬼用の結界が張られている。侵入は無理だな」


「あっさり入れてもらえたりせんかのぅ?」


 シャルハートが冗談めかして言うが、すんなり入れてもらえるなら結界は不要だ。


「すいませーん。アルベルデ様に会いたいんですけどー」


「国外の方ですか? 面会は出来ますが、王は席を外しております。また別な日に来てください」


 ……会えるのかよ!!


 思わず大声で突っ込みそうになったが、かなりフランクな王様らしい。戦争好きが周知されているにもかかわらず、穏やかに暮らしている国民を見て、なんとなく察しては居たが、あまりに軽い調子で言われてしまったため面食らった。


 簡単に会えるのなら、打つ手はいくつか考えられる。

 けれど、その前に必要なものをそろえるのが先だろう。黄金鎧の衛兵に軽く礼を言って、その場をあとにする。


 いくらなんでも、そんな分かりやすく城を観察したら疑われるだろう……。はやる気持ちを抑えきれないリリシアを無理やり馬車に引っ張っていく。


 再び馬車に乗り込んで、城から離れた。

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