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お泊りの妹ちゃん

 奈恵が少しだけ不機嫌になりながらも玄関の方へ向かうのを見て一息つく。

 押し倒されて悪い気はしなかったが、うん。心の準備はできていない。


 いつかそういうこともするのだろうが、せめて雰囲気は大切にさせてもらいたいと思う。


 少しすると奈恵が明佳を連れて戻ってきた。


「やっほお兄ちゃん」

「……なんだその荷物」


 明佳は手に旅行鞄を携えており、奈恵は特に気にした様子もなく僕の膝に座る。


「ああこれ?今日からちょっとここに泊まろうと思って」

「明日学校だぞお前」

「制服と教科書と鞄持ってきたから大丈夫!」


 奈恵が少し機嫌がよくなったように見えたのはこれが理由か。

 些か不安はあるが……まあ止める理由もないし沙織さんが帰ってきたら聞いてみよう。

台所に立たせないようにしないと大惨事になるからそこはちゃんと伝えよう。うん。


「じゃあ、沙織さんが帰ってきてから泊っていいか聞いてくれ……」


 頼む。さすがに平日は断ってくれ沙織さん。



「あら、お友達ですしいいですよ」

「やったー!」


 今日は運が悪い日らしい。

 とりあえず帰ろう。


 明佳が台所に立たないことを願いながら帰り支度をする。


「あれ?先輩は泊まらないんですか?」

「着替え持ってきてないし家に提出期限が近いレポートを残してきてるんだ」

「なんで日曜まで進めてないんですか」

「楽しくて存在忘れてた」


 元々奈恵を送ってすぐ帰るつもりだったのでそそくさと靴を履き終えてドアノブに手をかける。


「沙織さん、妹が迷惑をかけたら言ってください。叱りに来るので」

「あら、お義母さんとは呼んでくれないんですね」

「勘弁してください…………」


 呼びたい気持ちもあるにはあるが、まだ小っ恥ずかしさが勝ってしまうのでしばらくは呼べないだろう。

……この人なら無理矢理呼ばせることもあり得そうな気がしたが今は考えないことにする。


 軽く会釈して奈恵の家を後にし、携帯を取り出す。


「もしもし加苅?今日久しぶりに外食しようぜ」



「……行った?」

「行きました」


 玄関の戸を閉め、明佳さんと目を合わせる。

 先輩をお泊りに巻き込めなかったのは残念ではあるが、それならば女子会である。


「とりあえずお菓子買いに行きましょう!」

「ヤッター!」


 微笑ましいものを見るような母から逃げるようにして明佳さんを連れて家を出る。

 あの優しい目は嫌いではないがいたたまれなくなるので苦手だ。


 コンビニで両手に抱えるほどの甘味を買い、行きよりも少し重い足取りで並んで歩く。

 基本無言ではあるが、それで居心地が悪いとかは全くなく、むしろ二人でいるだけで楽しいとすら思う。


……私が普通の黒い髪だったならこの子と姉妹のように振る舞えただろうか。


「お義姉ちゃん?」


 考え事に気を取られて歩みが遅くなっていたのか、少し先にいる明佳さんが振り返る。

 少し速歩きで追いつき、何でもないと言うように笑顔を作ってまた並ぶ。


 姉と呼んでくれるこの人が、とても愛おしく感じた。


「考え事をしてただけですから。行きましょ」

「うん」


 家に着くまで、また無言。

 でもやっぱり落ち着くというか、安心するような何かがあった。




「なーんで私の兄はあそこまで馬鹿なのかねぇ!?」

「ほんとですよ!一向に襲ってくれませんし!」


 時計の針が深夜を知らせる頃。

 夕食を食べ、お風呂を出てからは私の部屋で女子会という名の愚痴大会が開かれていた。


 もっぱら恋人と兄の悪口で盛り上がる女子二人。

これが同一人物なので馬鹿な男もいたものだ。

……私の彼氏なんですけども


「押し倒してもなんかうまくいきませんし…」

「え、押し倒したの?」


 明佳さんの目からハイライトが消えた。

 ……私に懐いていたから忘れていたけど最初はこの子私に対抗心むき出しだったな。


「そうですよ?それですら雰囲気がどうとか言い出しやがるので呆れます」

「二人とも一発殴っていい?」


 自慢するように言った私が悪いんですけど妹さんに物理でわからされそうです。助けて先輩。


「まあ冗談はいいとして」

「冗談に聞こえなかったのですが」


 目がガチだった。”殺”って書いてあったもん。


「冗談だよもー。お義姉ちゃんは人の悪意を信じすぎだよ」

「善意じゃないんですね」

「お兄ちゃん以外の他人からの善意を信じてないじゃん」


 明佳さんは先輩と違って鋭いなどと思いながらそれっぽい言い訳を探す。

 言い訳するようなことかなこれ?頭働かないし適当でいいか。


「まーいじめられっ子でしたからね」

「あ、やっぱり?お兄ちゃんに付きまとってたからなんか助けられたりしたんだろーなとは思ってたけど」

「聞いてたわけじゃないんですね…」

「気になってはいたけどね。まあお兄ちゃんはそういうの話す人じゃないでしょ」


 まあそれはそうなんだけども。そういうの話す人だったら私も好きに…いや助けられた時から好きだったから多分好きになってた。


 話したほうがいいのかと少し悩む。義姉の過去とか気になるだろうし…いやでも私先輩がいるとこ以外あまり思い出したくないし…


「難しい顔してるけどさ、聞きたいとかは思ってないから大丈夫だよ」


 顔に出ていたのか明佳さんに困ったような笑顔を向けられる。


「気にならないんですか?」


 ちょっと、いやかなり意地悪な質問だと思う。

何故かこういう軽口を明佳さんには言える。きっと先輩に似ているからだと思うけど。


「気になるよ?」

「でもさ、知ったところでなに?って感じだし。それに今は仲良いお義姉ちゃんなんだから関係ないよ」


 ほんと、よく似てる兄妹だこと。


 衝動的に私よりも少し高い場所の頭を撫でる。

何が面白いのか笑いながら目を閉じて身を委ねてくれるのが少し嬉しくて、やめ時を見失って明佳さんを撫で続ける。


「ありがとうございます。私にとってもも大好きな義妹ですよ」

「んふふ。ありがとお義姉ちゃん」

 遅くなって申し訳ありません。

これからも遅筆にてお送りいたしますので期待などない冷たい目で見守っていてください。

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