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帰りたくないし帰らせたくない

「いい加減離れろ!」

「や!」

「……や!」

「奈恵も悪乗りしなくていいから」


 なぜこうなったのか、少しばかり長い話をしよう。


 三時間前……


「ほい昼飯」

「よっしゃー!私これ!」

「あっおい!」


 加苅と明佳がわちゃわちゃしながら机の上に昼飯を並べていく。


「そうだ、奈恵はそろそろ帰る用意しないとな」

「え」

「え」

「え?」


 なぜかこの世の終わりみたいな顔をして反応する明佳と奈恵を前にして固まる。


「帰っちゃうの?」

「そらそうだろ」

「帰らなきゃダメなんですか!?」

「ダメに決まってるだろ」


 昼ごはんを食べながら二人を宥める。


 感情としては別に帰らずここにいてくれてもいいのだがさすがにそれはまずい。

なので残念ながらどんな理由があろうと家に帰す以外の選択肢はないのだ。


「別に今生の別れじゃあるまいしそんな世界の終わりみたいな顔するなよ」


 面白いくらい二人が同じ反応をするので笑いそうになる。


「諦めてくれ。明日は普通に平日だし」

「あ、私制服の替えありますよ」

「あっても駄目です。ちゃんと帰りなさい」


 わかりやすく奈恵が頬を膨らませて不機嫌を訴える。

 どのようなことを言われてもさすがにもう一泊はさせられないので、最悪荷物と奈恵を抱えて送り届けようかと考えだしたところで明佳が口を開く。


「じゃあ私が義姉さんの家に泊まるー」

「駄目だ。先に親御さんから許可を取りなさい」


 この妹は本当に何を口走っているのだろうか。


 許可もなく押しかけるのは問題なので先に確認しろと言うにとどめたが、もし泊まるなら何をやらかすか気が気でないので控えてほしいところだ。


「義姉さん今から親に聞ける?」

「先輩の連絡先しか登録してないです…」

「家族の連絡先くらい登録しといてよぉ!!!」


 至極もっとも。なんならその点については僕も心配である。

 まあ特に口出しする気はないが何かあった時どうするんだという不安がちらつく。

……その場合真っ先に僕に電話が来そうな気がするのはおいておこう。


「…むぅ、スマホ貸して」

「?はい」


「ねえ義姉さんのスマホロック掛けてないんだけど。大丈夫?」

「まあ見せる相手先輩しかいませんし…」

「見せるかどうかじゃなくてそれ以前の問題だよ!セキュリティ意識大丈夫!?」


 すげえ。詰めかかってる方が全部正しい事ってあるんだな。


「……私の連絡先登録したから。だからいつでも連絡してね」

「………」

「義姉さん。好きな人の連絡先だけでいいって気持はわかるよ」


 わかるのかよ


「でもさ、外堀を埋めるのに相手の家族とは仲いい方が楽でしょ?」

「!」

「変なことを吹き込むな」

「まあ兄さん相手だと埋める外堀がないもんね」

「そう言われればそうだけども」


 そんなこんなありつつも荷物をまとめ、帰る用意を済ませたまでは良かったのだが…



「かつてないほど別れが惜しくなってるじゃねーか!」


 そう。かれこれ一時間近くこの攻防は続いているのだ。

 お前ら本当に姉妹なんじゃないかと思うほど別れを惜しんでいる。なんなら抱き合って抵抗している。


「兄貴が誘拐犯みてぇ」

「頼むから眺めてないで明佳引き剥がしてくれ」

「面白いから三歩退いてみとくわ」

「ふざけるなぁ!!!」


 けらけら笑いながら二人を眺める加苅も楽しそうにして協力する気はない様子なのでもう力で剥がすしかない。


「行くぞ奈恵」

「えっ…わー!」

「おねえちゃぁぁぁん!!」


 奈恵を抱えて無理やり明佳から引き離す。これじゃ本当に誘拐犯だ。



「…落ち着いたか?姉貴」

「うん。茶番ってたのしいね」


 扉が閉まり、良い笑顔ですぐに立ち直った姉貴が少しだけ怖いと思った。



「あのー、先輩」

「なにかあったか?」

「いえ、いつになれば降ろしてもらえるのかなと」


 奈恵の家に向かう途中、米俵のように抱えられている奈恵が口を開く。

 さっきまで別れを惜しんでいたのが嘘のようにいつも通りの声音でさっきのは幻覚だったのかと思ってしまう。


「楽だしこのままでいいだろ」

「駄目です。ほら、道行く子供に奇異の目で見られます」


 奈恵が指をさした方向には確かにこちらを見る子供たちがおり、奈恵が手を振ると小さく振り返してくる。


「あと手を繋ぎたいので降ろしてください」

「落ちるなよ」

「落ちても先輩なら怪我する前に助けてくれるでしょう?」

「残念ながら私に人間を超えた反射神経は無いですよお嬢様」


 すこし茶化しながらしゃがんで手を離し、奈恵が隣に立つ。


「さあ先輩」

「はいはい」


 差し出された手を掴み、奈恵と並んで歩きだす。


「あ」


 あと少しで着くというところで奈恵が何かを思い出したようにつぶやき、足を止める。


「先輩、下着忘れちゃいました」


 外で堂々と言うなと言いたい気持ちをこらえ、僕は明佳に電話しようと携帯を取り出した。

 名も知らぬ誰か様。ブックマークありがとうございます。

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