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朝は弱めな後輩ちゃん

 目が覚めると、今日も奈恵が目の前にいた。


 ぼんやりとした頭でそういえば昨日は奈恵に抱きつかれたまま寝たんだ。と思い出す。


 しばらく目の前の寝顔を観察していると、起きたらしくゆっくりと瞼が上がる。


「おはよう。奈恵」

「あぇ…?あ、おはよーごさいます……ぅ」


 奈恵は朝が弱いのか挨拶をしてそのまま瞼が元の位置に戻る。


 充電が切れかかっている携帯を確認するとまだ早い時間で、さらに今日は休日なのでしばらく目の前の恋人を眺めていても許されるだろうか


 そんな思考をして、奈恵の頭を撫でる。


 朝の弱い、ふやけている奈恵は少しだけ子供っぽく、少し昔を思い出す。

 そういえば昔、明佳も不安からか僕と一緒に寝たいと言っていたことがあった。

………今もたまに言われるけど

 思っているよりも明佳にとって両親の死は重いのかもしれないと、今とは関係ないことを思った。


 ならば、加苅はどうなのだろうか。

そういえば僕は兄なのに加苅の弱音を聞いたことがない。

 最後にあいつが泣いたのは葬式が終わってからのはずで、それから年相応の姿はスポーツの中でしか見ていない。


 きっと僕は二人に奈恵とは別種の危うさを感じているのだろう。

 奈恵は今ならきっと崩れる前に僕に掴まってくれる。そして僕は迷わずに奈恵を抱き寄せることができる。

 でもあの二人は、掴まるどころか僕が気付く前に崩れて消えてしまいそうな、そんな危うさがある。


「……先輩?」


 いつの間にか撫でる手が止まり、完全に思考に気を取られていたらしい。

 二度寝から覚めた奈恵がこちらを見つめ、目線で大丈夫かと問いかけてくる。


「おはよう。朝食なにがいい?」

「………玉子焼き、あまいやつ」

「わかった。作るから、目覚ましてな」


 まだ少しぽけーっとしている奈恵を膝から下ろし、痺れと戦いながら台所へ向かう。


 水を張った鍋に昆布を投げ入れて火にかけ、冷蔵庫からいくつか食材を取り出してから炊飯器のスイッチを入れる。

 ほぼ毎朝繰り返している我が家のルーティーン。


 昨日の余りを皿に乗せ、電子レンジに入れる。

温めている間に鍋から昆布を引き揚げて代わりにごぼうとネギを入れ、沸騰して少ししたら火を止める。


 単調に、慣れた動きで朝食を用意して、今日はいつもはない卵焼きの分だけ皿を増やす。


「先輩。手伝います」


 目が覚めたのか寝癖をつけた奈恵がエプロンを着る。


「じゃあ味噌入れといて」


 卵焼きを作りながら動作で味噌汁用の鍋を示す。

伝わってくれたらしく奈恵が冷蔵庫から味噌を取り出し、具が入っている鍋に味噌を溶く。


「おはよ~」


 寝癖で髪がぼさぼさの明佳が部屋に入ってくる。


 少しして奈恵に気づいたのかよたよたと近づき、胸のあたりにぐりぐりと頭を押し付ける。


「?……ああ、わかりました。台所は危ないので移動しましょう」

「んー」


 奈恵が明佳の手を引き、ソファに座らせるとどこからか櫛を取り出して明佳の髪を梳き始める。


「随分懐かれたな」

「そうですね。なんででしょう」

「おふろ…はいったから~」

「?」


 まだ寝ぼけてるらしく明佳の返答ははっきりとしない。


「はい。寝癖直りましたよ」

「えへへ…ありがとぉ~」


 奈恵が髪から手を離すと、振り返った明佳が奈恵に抱き着く。


 奈恵は困ったような笑顔を浮かべながらもされるがままになり、少しためらいながらも明佳の頭をなでる。


「んー……あれ、奈恵さん?」

「はい。おはようございます」


 しばらくして明佳の目が覚めたらしく、奈恵に頭を撫でられている状況にフリーズする。


 そんな明佳を横目に、出来上がった朝食をテーブルに並べながら二人を呼ぶ。


「ごはんだー!」

「明佳、加苅起こしてきて」

「はーい」


 ぱたぱたと明佳が部屋を出ていき、奈恵と共に配膳を進める。


「先輩」

「ん?」

「ここは、毎日こんな感じなんですか?」

「……そうだな、明佳が加苅を起こして、僕がご飯作って、いつもこんな感じ」


 そうですか、と返す奈恵は少し寂しそうに自分に用意された席を見る。


 家の机は六席あり、誕生日席を作れば八人まで座れる。

 まあ、今のところ埋まっても奈恵を含めて、祖父母が来てくれて六席なので椅子を出す必要はない。


「いいですね、みんなでご飯。憧れます」


 奈恵は声色に悲しみのような、後悔のようなモノを滲ませて言う。

 別に、奈恵は両親と仲が悪いわけではない。

両親が悪い人というわけでもない。むしろ僕が会った限りは良い人で、良い親という印象だ。


 ただ、あまりにも忙しい職業で家族全員が揃う日があまりないだけなのだ。


「前に話した通り、私の家族は……あまり、一緒にご飯を食べないので少し、羨ましいです」

「そうか……この家で良ければ、いつでも食べに来い。代わりにはなれないけど、話し相手にはなれる」

「………はい、ありがとうございます」


 奈恵は驚いたのか目を見開いた後、一拍置いて笑う。


「そういうことなら、遠慮なく食べに来ます」

「…………きっと、未来の家族ですから」


 奈恵の発言を少し考えてから、今度は僕が驚く。

 奈恵はそんな乱れた僕の内心など知らず、微笑みを浮かべながら席について弟妹を待っていた。

 名前も知らぬ誰か様。評価、ブックマークありがとうございます。

 遅くなってすみません。冬眠ならぬ夏眠してました。

え?気温的にはまだ夏?

……………もう少し寝ようかな

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