やっぱり甘えん坊な後輩ちゃん
窓の外がオレンジ色になってきた頃、加苅と明佳が帰ってきたらしくリビングの方が賑やかになる。
夕食時なのもあり課題を進める手をおいて台所へ向かった。
「2人共お帰り」
「「ただいまー!」」
加苅は運動後で汗が気になるのか洗い物を出したら風呂へ向かい、明佳は奈恵に勉強を教わっている。
「んー……もうすぐ受験なのに全然できない〜!」
「教えますから、一つずつやりましょう?」
「う〜…」
夕食の準備をしていると2人の会話が聞こえ、存外奈恵が楽しそうにしている様子がわかる。
「腹減った。なんかない?」
「菓子パンならある。夕飯前だから一個な」
「うぃー」
少しするとタオルを被った加苅が戻ってきて、僕が指さした戸棚からアンパンを一つ持っていった。
食べながらではあるが加苅も勉強会に参加し、奈恵に教科書を見せながら質問をしている。
ちらっと様子をうかがえば二人共ちゃんと取り組んでおり、奈恵との仲も良好らしい。
「もうすぐできるから一回机の上片付けといて」
「「はーい」」
「私取り皿と箸出しますね」
あと少しで出来上がるので三人に向かって呼びかければすぐに片付けをしてこちらを手伝いに来てくれる。
漠然と家族が増えればこんな感じなのかな。と思いながら三人を眺める。
夕食を終え、全員風呂にも入ったのでぼけーっとテレビを眺めていると隣から袖を引っ張られる。
「先輩」
さっきより少し強めに引っ張られながら声をかけられ、そちらに顔を向けるといつの間にか隣に奈恵が座り、こちらを見上げていた。
「二人共、寝ましたから。甘えさせて欲しい……です」
「……………どうぞ」
可愛さに悶えながら身体を差し出すと奈恵が膝の上にぽすんと倒れ込んでくる。
しばらくもぞもぞと動き、収まりのいい場所を見つけたのかそのまま目を閉じてリラックスしている。
「…少し硬いですね」
「すべすべで柔らかいほうがよかったか?」
「………いえ、先輩を感じられるならどうでもいいです」
奈恵は目を開け、数回瞬きをした後僕と目を合わせて微笑む。
「撫でてください。あと耳かきもしてください」
奈恵はどこから取り出したのか耳かき棒を僕の右手に握らせると体勢を変えて右耳を上に向ける。
「……痛くないです。先輩上手ですね」
「たまに明佳にねだられるから。加苅はさせてくれないけど」
「むぅ……初めてじゃないんですね」
私がよかったのに。と少し不機嫌そうに呟いて奈恵は頬を膨らませる。
最初の頃はよく明佳に痛がられて、慎重にやりすぎたりもしたけど何年もやっていれば人間は慣れる。
あとは奈恵を傷つけたくないというのも大きいだろうか。
「先輩、左もお願いします」
「わかった。体回せる?」
「ん……」
またもぞもぞと体を動かし、顔を僕のお腹の方に向けると、奈恵はそのまま僕のお腹に顔を埋める。
「……くすぐったい」
「あっ、すみません。先輩の匂いが濃かったので」
「もしかして僕臭い?」
なんか臭うのか、と腕を鼻に近づけていると奈恵が急いで否定する。
「違いますっ!いい匂いというか、安心できるというか……その、大好きな匂いなのでっ!」
奈恵は匂いフェチの気があるのか、と知った今になってそういえばよく体くっつけていたな。と思い至る。
「頼むから今はやめてくれ。手元が狂う」
「うぅ……わかりました」
「耳かき終わったら好きにしていいから」
そう言うと奈恵は目を輝かせて元の位置に戻る。
耳かきするといっても定期的に自分でしているらしく耳の中はきれいなので特にやることもなく、すぐに終わる。
そうしたらさっきよりも近く、首筋に奈恵が顔を埋めて僕の匂いを嗅いでいるらしく、たまに鼻息が聞こえる。
満足するまで好きにさせようとしばらく放置していると段々と息が規則的になり、最後には完全に寝息になった。
「………動かないほうが良いよな」
リビングの電灯がリモコンで操作できてよかったと思いつつ、豆電球にして僕も目を閉じる。
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