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彼女で副部長な後輩ちゃん

「じゃ、ありがとな」

「おう。次からは事前になんか言え」


 一通りゲームをして満足したのか蓮達は少し重い足取りで帰っていった。

僕は振り返り、その原因に目を向ける。


 ソファに座り遊び疲れたのか静かに眠っている少女は、とても先ほどまで六人をダウンさせていた女王様の姿とは程遠い。

結局、六人がかりで何十試合も挑戦したが奈恵の一位を阻止できた回数は片手で数えられるほどだ。


人には意外な才能が見つかるものだな。と思いながら奈恵に毛布をかける。


 久し振りに一人で、それもすることがない時間を手に入れたがこういう時に何をしていたかがよく思い出せない。

いつも学校では奈恵がそばにいるし、家に帰ってからはバイトに出かけるか家事をしていた。それに常に弟妹が家にいたからこう静かな空間というのは落ち着かない。


 何となくカレンダーを見て、奈恵と付き合い始めてから一か月たっているかどうかだということに気付く。


 濃い。胸焼けするほどに濃い一か月を過ごした気がする。


「……付き合ってからも長いなぁ」


 時間の流れが遅い。

人間、楽しいことをしているとすぐに時間が過ぎるが逆に濃すぎるとすぐには時間が過ぎないらしい。


 奈恵が落ちないようにソファの前に座り、頭を撫でる。

寝ていても起きているときと同じように心地よさそうに頬が緩み、僕にされるがままになっている。


 警戒心がない。と心配になるのは彼氏としてもそうだが、小さい頃から見てきたための、恐らく父性と呼ぶべきものも原因だろう。


 結構な時間奈恵を撫でたあと、机の上にある共用のパソコンを開き、USBを差し込む。

画面に表示されるのは文化祭で出す小説に下書き。


「ようやく暇な時間ができたんだから、多少は進めないとな」


 奈恵を起こさないようタイピング音に気を配りながら文章を進める。


 こうしていると、両親がいた頃を思い出す。

当時は小説を書くのも読むのも好きで、将来はヒーローか小説家になりたいと思っていた。

なんでヒーロー?という疑問については男の子なら誰でも憧れるだろ。と回答させていただく


 小さい時、僕は正義の味方になりたかった。

そして、それは自分が書く物語の中でこそ叶う夢で、そんな夢を見せてくれる物語が大好きだった。


 正直なところ、今でもアニメみたいなチャンスがあればヒーローになりたいと思う。


 今書いている物語の主人公みたいに誰かを救うことはそこまで難しいことではない。

ただそこにたどり着くまでが果てしなく長い道でできているだけだ。


 物語の最終章に差し掛かるところで手が止まる。

何を書けばいいのかわからないからだ。


 どうすればこの物語をきれいにまとめられるのか

 この主人公は何を成し遂げるのか

 読者にどのような印象をもたせるのか


 そうやって悩んでいると後ろから白い手が僕の腕に添えられる。

その手は僕の手を動かし、ゆっくりと文字を書き込んでいく。


『どうして、ヒーローになりたかったの?』


 その文章を打ち込んだ本人は笑っているのか、優しい雰囲気が背後から伝わる。

 今度は、自分で手を動かした。


『誰かを、なにかを、救いたかった』


 次は手が動かされ、それに答える形で手を動かす。

 そうして、この物語の終点は主人公の自問自答と叫びで構成されていった。


「ありがとう。奈恵」


 振り向いて、にこにこと笑いながら完成した小説を眺める奈恵に感謝を伝えると、奈恵は僕に視線を合わせて言った。


「当たり前の手伝いをしただけです。私は副部長で、彼女ですから」

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