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嫉妬する後輩ちゃん

 今日一番、というほどではないが少なくとも大人のバンドに負けないほどの演奏を明佳たちは魅せた。

 明佳もやらかすことなく無事に終わり、会場内が拍手で溢れる。


「…先輩?何で泣いているんですか」

「えっ」


 奈恵に指摘され、目の下を触ると指に水滴がついた。

 自覚したためか、丁度限界だったのか涙は次々と溢れてくる。僕は苦笑いを浮かべ、会場の後ろへ下がると壁にもたれかかる。ステージ上では、次のバンドの演奏が始まっていた。


「お兄ちゃん」


 顔を上げると、心配そうにこちらを覗き込む奈恵の後ろに明佳がいた。


「演奏、どうだった?」

「すごかった。別人かと疑うほどに」

「そう」


 僕の言葉を聞いた明佳は明るい笑みを浮かべると、振り返って手招きをする。すると、メンバーの子達がこちらへ向かってきた。

 加苅を引きずって


「おい、離せ音海!」

「黙れ、問題児」

「ゆっくりライブ楽しませろ堅物!」

「だったら早く姉に感想言え。サッカー馬鹿」

「褒めてるのか?」

「自分で考えなさい」


 随分と仲がいいようだ。

 加苅は音海さんに任せて問題ないだろうと判断し、そちらから視線を外す。


「お久しぶりです。仲弥さん」

「うん。久し振り、赤木さん」

「今回は迷わなかったんですねえ」


 赤木さんがからかうように微笑み、何とも言えずにまた目を逸らした。

 赤木さんはくすくすと笑い、明佳は腹を抱えて震えている。奈恵が困ったような表情をしているので多分奈恵から聞いた話で笑いをこらえきれなくなったのだろう。


「あれ?そっちの人は?」

「あれ、瑞奈、私話してなかったっけ?」

「聞いてないよ?たぶん年上だよね、明佳ちゃんってお姉ちゃんいたんだ」

「うーん…姉っちゃ姉だけど、そうなるけど!……認めたくない」

「義姉さん?」

「………うん」


 明佳は渋々、といった様子で頷く。今度は奈恵がくすっと笑い、少し赤くなった顔で明佳がそっちを睨みつける。


 小園さんはにやにやと二人を眺めており、赤木さんが明佳の肩を掴んで奈恵に食ってかかろうとするのを止める。


「何ですか!?お洒落しちゃって、似合ってますねこん畜生っ」

「えっと…ありがとうございます?」

「何でこんな純粋なんだよ我が義姉はぁぁ!!」

「あー、お兄ちゃん取られて怒ってますね」


 明佳の豹変ぶりに驚いたのかいつものように僕の背中に隠れ、様子をうかがっている。

何故かたまに自分の胸を見て溜息をつく。明佳と奈恵を見比べ、気づいてしまった。


「…奈恵」

「…はい」

「あまり…気にするな」

「…………はい」


 奈恵には揺れるものがn…明佳よりも小さい。

 背中の方から殺気に近いものを感じて振り向くと、奈恵の後ろに真っ黒な炎のようなものが見える。


「すみませんでした」

「………………初犯なので許します」


 ガチギレした奈恵さんはわたくしごときでは何もできませんのでできるだけ迅速に機嫌を直していただき、何とか死を回避する。つまりこの先要求を断る権利はない。

 人のコンプレックスについて考えちゃだめだね。うん。


 奈恵の怒りが収まったのはいいものの、完全に許してくれたわけではないのか二の腕をつねってくる。


「でも、罰は受けてもらいます」

「……何をすればいい?」


 僕が聞き返すと、奈恵は少し手に力を入れて、恥ずかしそうに頬を赤らめながら


「添い寝を希望します」

「駄目に決まってるでしょ!?」

「なんで明佳が一番反応するんだ」


 思わず「いいよ」と言いそうになったところで明佳が横から奈恵に飛び掛かる。

 奈恵は僕ごと体を回し、避けようとするが|躱〈かわ》しきれずに明佳が正面から僕に飛びつくかっこうになり、明佳がボールのように僕めがけて飛んでくる。


 明佳は僕をホールドし、離れる気はないと言わんばかりに力を強める。対抗意識を燃やしてか、奈恵も後ろから僕の腹に手を回して抱き枕のように抱きしめ、腕と腹の圧迫感が強まる。


「二人とも…離して、朝飯出てくる」

「明佳さん、離してください」

「そっちこそ離せば?」


 二人そろってさらに力を強め、腹から下の感覚が薄くなる。

 美少女二人に抱き着かれるのはうれしいが圧が凄いし痛い、僕の前後でバチバチと火花が散っているのが見える気がする。


「加苅、たs…何でもない」


 加苅に助けを求めようとしたが音海さんに説教のようなものをされており、邪魔するのは悪いと思ったのでやめる。加苅が涙目になっていたのは見なかったことにする。


 何とか二人の腕の間から自分の両手を抜き取り、明佳の頭を撫でる。

 撫でているうちに段々と明佳の力が弱くなっていき、そのまま続けていると明佳がバッと手を離して赤木さんの背中に飛びつくようにして隠れた。


「お兄ちゃん、やめて、恥ずかしい」

「こっちは下半身が麻痺るとこだったんだが」

「そしたら私がずっと介護するからいいもん」


 口をとがらせ、さも当たり前のことのように明佳が言う。

 微笑みながら赤木さんは明佳をたしなめ、ムスッとしたままの明佳が赤木さんの背から離れる。


「そういえば、彼女さんとはどこまで行ったんですか?」

「「ぶっ」」


 いきなり投げかけられた赤木さんからの質問に、奈恵と揃って驚き、そのせいで唾が気管支に入って二人ともせき込む。


 恨めし気に赤木さんの方を見上げるが、純度100%の好奇心に満ちた瞳にぶち当たり、言葉が詰まる。


「キスは?」

「…まだだな」

「手を繋いだりとかは?」

「……ものすごくたまに、します」

「お泊りは?」

「「現在進行形」」


 赤木さんの目が一層輝き、次々と質問を繰り出す。

 これがマシンガントークか、と思いながら超高速で繰り広げられる会話のキャッチボールに何とか食らいつく。


「それで、先輩が……」

「いいですね!あこがれます」


 途中から惚気と恋バナになり、空気に耐えられなくなった僕は一歩下がる。


 明佳は既に興味をなくしたのか前の方でライブを楽しんでいるのが見え、その隣で加苅が熱狂している。

 加苅は僕が普段聞かないようなロック系の音楽が好きらしい。今度からそういう方のCDでも買おうかと家計簿からどれくらいが予算にできそうか考える。


「ねえ、おにーさん」

「…小園さん?何か用?」


 脳内でそろばんを弾いていると、いつの間にか隣に来ていた小園さんに話しかけられる。

小園さんは深呼吸をして、口を開きかけては押し黙ってを繰り返し、それが何分か続いた。そして、意を決したように小園さんは口を開く。


「おにーさん、彼女いたんだ。お似合いだね」

「僕には勿体ないような人だけど」

「そうかな?向こうは依存の領域まで片足突っ込んでる感じするよ」


 奈恵が僕に依存しているか、など考えるまでもなく結論は出る。

 僕の主観ではしているかどうかと問われればしていない。と答える。

奈恵は独占欲は強いが僕が居なくても生きていくことはできると思うし、なによりもどちらかといえば僕が依存しているような気がする。


 好きも行き過ぎるとただの迷惑。

そう自分に強く警告しているから何とかなっているだけで、僕も根元では独占欲が強いし、できることなら奈恵を他人に見せたくないとすら思ってしまう。


 恐らく、奈恵と付き合えたことで感情に抑制が効きにくくなっているのだろう、最近では理性が揺れっぱなしだ。


「うん、やっぱ依存しているのは僕だよ」

「そう?おにーさんそういう欲求薄そうだけど」


 欲求が薄いように見えるのは僕の自制心が仕事をしてくれている証拠だろう。

 小園さんは首をかしげながら「わかんないや」とため息をついた。

そして、呆れたように振り返り、僕もそれにつられてそちらを向くと奈恵が不安そうにこちらを見ていた。


「私、おにーさん狙ってるわけじゃないから、誤解されないように言っといてね」


 じゃ、と短く挨拶をすると小園さんは明佳や加苅の方へ向かっていく。

 時計を見ると、あと二時間もすれば終わってしまう時間で少しだけ寂しく感じ、最後まで楽しもうとステージの方へ行こうとして

 手が握られた。

 振り返ると、(うつむ)いた奈恵が両手で僕の腕を掴み、進めないようにしている。


「…おいていかないで」


 弱々しく、消え入りそうな声が耳に届き、奈恵が顔を上げる。


「せんぱい、わかっていても、ふあんなんです。だから、なにもいわないのは、やめてください」

 ブックマーク、評価ありがとうございます。

 投稿遅れて申し訳ございません!いろいろあったんです(新作ゲーム、水着イベント、風邪etc…)マイペース投稿は直りませんけど、これからも読んでくださるとうれしいです。

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