お出かけにはしゃぐ後輩ちゃん
≫ライブに来いやごらあ
〉ちょっと待ってて
≫うぃ。あ、電子チケット贈っとくね
洗い物をしていると、明佳からメッセージが送られてきて、そのまま会話の流れでチケットと住所が送られてくる。
「奈恵、明佳のライブ見に行きたいんだけどいいか?」
「はい、大丈夫です」
奈恵はとてとてと僕の隣に歩み寄り、スマホを覗き込む。
≫ペアチケットだよ~
〉ありがとう、後でお金出す
≫いや、余ったチケット配ってくれないと今回のイベントに来る人が足りなさ過ぎて無理らしいから無料だよ
〉なんだその悲しい事情
≫まあ、大体無名のバンドだったり私達みたいな学生ユニットだからねー
≫ついでに言うとこのライブハウス郊外からも少し離れてるし
〉ほんとに悲しい事情だなオイ
〉まあ、開演時間には間に合うようにするよ
裏事情を明かされ、隣にいる奈恵と二人そろって苦笑いが零れる。
「取り敢えず、洗い物終わらせちゃいましょう。手伝います」
「そうだな、ああ、でも奈恵。その前に準備しなくていいのか?」
「……準備はできてないですが、先輩だってそうです」
「僕はいいんだよ、玄関の鞄持つだけだし」
「…先輩、私を働かせたくないだけですね?」
図星だ。
これで奈恵の手が乾燥してひび割れたりでもしたら普通に嫌だし、女の人の用意には時間がかかるらしいのでなるべく多く時間をとってあげたい。
明佳はおしゃれすることが少ないのでそんな印象は感じないが
「とりあえず準備してこい」
「嫌です。先輩を手伝ってからでも遅くありません」
「でも」
「でももだってもありません……きゃっ」
動く気がなさそうな奈恵を抱き上げ、無理やりキッチンから運び出す。
抵抗しずに頬を膨らませている奈恵を可愛いなと思いつつ、奈恵の荷物がある僕の部屋に放り込むと、奈恵はすぐさま僕の布団にもぐって枕を抱きかかえる。
「…終わったら、呼びますから」
奈恵は拗ねたような声で枕に顔をうずめながら、少しすると枕が気に入ったのか拗ねたような顔が急に破顔し、枕に顔をこすりつける。
「…気に入った?」
「はい、先輩と私のにおいが混じって、何だか不思議な感じです」
恍惚とした表情で枕に頬ずりする奈恵を眺め、無意識のうちにスマホを取り出して写真を撮る。
音で気付いたのか、奈恵は数度瞬きをすると、少し困ったような笑みを浮かべ口許を隠す。
「…いきなりは、恥ずかしい、です」
「じゃあいきなりじゃなければいいんだな」
「えっ!?いや、その……えっと」
「………ちゃんと、言ってくれるなら、いいです」
「じゃあ、今から撮る」
「ええっ!?」
悲鳴のような声を上げる奈恵の顔をスマホのカメラで何枚も撮る。
そのうちタコのように顔を真っ赤にした奈恵が僕の手からスマホを取り、涙目でこちらを睨みつける。
「やっぱ駄目です。恥ずかしい」
荒い息を吐きながら必死に抗議する奈恵は頬は赤らみ、先ほどよりも目が潤んでいるからか、少し色っぽく感じる。
僕は無言でシャッターを切る
「先輩っ、本当に、恥ずかしいですから!」
「ごめん、ごめんって。次からちゃんと言うから」
怒り心頭と言った風に頬を膨らました奈恵が僕の頭をポカポカと叩く。
何とか奈恵をなだめ、台所へ戻る
蛇口をひねり、シンクに並べられた食器を洗っていく。
ひと段落し、自分の荷物を確認し始めた時、廊下の側の扉が少し開き、奈恵がひょこっと顔を覗かせる。
「準備終わったのか?」
「はい…ええと、笑わないで、下さいね」
奈恵が言ったことが分からずに首をかしげていると、おずおずとしながらも奈恵がリビングに入ってくる。
思わず息をのんだ。
奈恵が来ている服は、今の時期には少し薄い、いや、寒いと思える純白のワンピースにカーディガンを羽織り、手には新品と思われるロングブーツを持っている。
「先輩、可愛いって言ってましたよね…?」
呻るしかなかった。
確かにいつか二人で雑誌を見ているときに可愛い服だ。と言った覚えがある。それを覚えていたどころか自分で着てくれるなんて可愛すぎる。雑誌に載っているようなモデルなど目じゃない程に思える。
「どうですか…?」
「すごく可愛い…その、悪いんだけどタイツとか履いてくれると助かる。あんまり、見せたくないから」
「あ…はい、わかりました」
あまり他の人に奈恵の素肌を見せたくない、自分だけが知っていたいと思う。
奈恵は少し顔を赤くしながらもソファに座り、タイツを履く。それから、煽情的な笑みを浮かべて
「先輩が望むなら、私はどんな格好もしますし、何でもしますよ?」
と、囁く。
『だから、私だけ見ててください』と付け加え、一足先に玄関の方へ向かった
僕はその場にうずくまり、少しの間手で顔を覆った。
「いちいち可愛いなあ、もう」
そう呟いて、立ち上がると、奈恵を待たせるわけにもいかないので自分の鞄を持って玄関へ向かった。
遅くなってしまい申し訳ございません。
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