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男のロマンだなんだのはそんなものはどうでもいい。
気になるのは『召喚士』のことだ。
「ねえ、話は随分戻るけど、あんたを連れてきた召喚士(?)が残した資料とか本当にないの?」
「ああ、きれいさっぱり燃えた」
「は?」
「俺が王宮で歓待を受けている時にあの人の研究所で火災が起きて研究資料全てが消失した」
「……火災?人為的な?自然的な?……」
「原因は不明。その翌日にあの人はぽっくりと逝った。親戚縁者もいないし、同業者もいないらしい。国が必死に探しても紙切れ1枚出てこなかったらしい」
「ということはあんたの国には期待できないってことか……別の国を探す……いや、そもそも私はこの国から出ていけるのか?」
「国境越えには各国の王の許可証が必要だぞ」
「え?」
「優秀な人材を国外に逃さないための対策の一つらしい。俺は『勇者』という称号があるから比較的行き来は自由だけどな。それでも一応許可を取らないと所属している国から出ることは出来ない」
偉そうに胸を張るカズ君にムカッと来るのは気のせいじゃないと思う。
うーん、戸籍を作ったのは早まったかも……
いや、でも戸籍がないと就職も難しかったし……
ここはある程度の実績を作ってそれを盾に宰相閣下にお願いするしかないだろうか。
いや、たぶん簡単には許可は下りないだろうな。
別の国に行く方法を探さないと。
まあ、まずは借金を返済しなければ……
結局は『借金返済』が私をこの国に縛り付けるんだろうな。
はっ!
まさか、それを見越して5回も計測をして壊させたのか!?
あの宰相閣下ならあり得る。
うん、あの無表情の下でどす黒いことを考えていそうだからな。
アーシャさんは宰相閣下にほんと似ていると思うよ。
笑顔の下に浮かべる黒いものに気づいた人どれほどいるんだろう。
アーシャさんが宰相閣下の娘だといわれてもだれも疑わないと思うほどに似ているよ、本当に。
本人たちには絶対に言わないけど。
言ったら最期な気がする……
まあ、確実に血の繋がりはあるんだからと個人的に納得しておこう。
「で、キリは今何をしているんだ?」
「魔術師団に所属しているけど?」
「ふーん、魔術師ね」
「なによ」
「いや、俺は魔法……魔術は全く使えないからちょっと羨ましいなと」
「そういえば、あんた昔から魔法使いに憧れていたわね」
「そうそう指先一つであれこれ解決するのって面白そうじゃん」
「実際はいろいろと制限があるけどね」
「俺らの世界では経験できないことを経験したい」
「『勇者』なんて私たちの世界では二次元の中だけよ」
「まあそうだけど……一度くらい魔法つかってみてーよ」
魔法への憧れは分かる。
私も元の世界にいたときは憧れていた。
実際使えるようになったらなったでいろいろ問題もあるけどね。
「うーん、1回こっきりならできなくもないかな~」
「は?」
「ちなみにやってみたいことは?」
「『魅了』」
「却下」
「『火の玉』『風の盾』『氷刃』『雷撃』かな」
「見事に戦闘に特化した術ばかりね……じゃあ、試作品でよければうちの研究所が開発した魔石(試作品)使ってみる?」
「魔石?」
「魔力を閉じ込めることができる石の存在は知っているよね」
「いいや、そんな便利なのあるのか?」
「……あんた、その腰につけている剣についている石……」
「ああ?ただの装飾石だろ?」
「それ、『威力強化』と『毒消し』の効果のある魔石」
「は?」
「ちなみに料理とか洗濯とかした事」
「あるわけないじゃん。彼女たちがぜーんぶやってくれているんだぜ」
そうよね。
ハーレムこさえているんだから世話されっぱなしでしょうね。
ぐーたら亭主そのものだな……まあ、本人が幸せならそれでいいか。
うん、余計なこと言って巻き込まれるのはご免です。
「普段は魔力の温存のために蓄積したり、生活魔法の術を組み込んで使うんだけど、いままで攻撃術や防護術を組み込んだことがなかったのよね。それで実験と称してやってみたら1回しか使用できないけど術の発動ができる物ができちゃったのよ。しかも少ない魔力でも(通常術の発動には最低でも魔力値20-人として生きていくうえで必要最低限の魔力―以上必要だが、この魔石を使えば魔力1あれば)使えると……まあ、威力は強くないから時間稼ぎくらいにしか使えない代物だけどね」
試しに『火の石』を使ってみせるとカズ君の瞳がキラキラと輝きだした。
まだこれは世に出回っていない代物であることを重々認識させ、ハーレムお嬢様軍団にも内緒にするということで各石5個ずつ渡した。
『火の石』はろうそくに火を灯すくらいしかできない。
『風の石』は微風を起こせるだけ。
『水の石』はコップ一杯分の水しか出せない。
『雷の石』はちょっぴりビリッとしびれさせる位の効果しかない。
などなど一応の説明はしておいた。
ちなみに私は『雷の石』を使って炭酸水を作ってこっそり飲んでいたりする。
常温で作ってもおいしくないから貴重な氷をこっそりとつくって(想像したら簡単にできた)飲んでいるのである。
仕事が暇になったときになんか出来ないかな~と一般魔術師(平民の魔術師の事)の友人たちと遊び半分でやっていたらできちゃったのよね。
あ、一応このこと(魔石の事)は師団長に報告してあるけど、まだ実験中ということで一般魔術師の仲間内で差し止めているのである。
クラリス様たちに知られたら……と全員で想像して師団長を丸め込んで特別魔術師(貴族の魔術師の事)にはばれないようにしているのである。
もし『聖女様』に知られたらあっという間に大量に作ってよこせと言って来るに違いないからな。
まだ量産できる段階じゃないからね。
後日、魔術師団長には事後報告になったが『勇者に試作品の魔石を贈呈した』とだけ伝えておいた。
師団長は口元を引くつかせながら「勇者を実験台に使うとは」と呟いていたとかなんとか……
レポート(感想程度でいいから報告よろしくといったらレポートを送るといわれた)は魔術師団長宛に直に届くようになっていることも報告しておいた。
そのあとは取り留めもない話を終えて会談(?)は終了した。
別れ際、国王と交わした魔法契約と似た内容の契約をカズ君と交わした。
もちろん、魔法契約。
カズ君は魔力が少ないので契約できるかわからなかったけど、こちらの世界では生きていくためには魔力が必要不可欠なので魔術は使えないけど魔力は持っているというのが一般的らしい。
魔術が扱える人はそれだけスゴイ人だという認識らしい。
カズ君にとっての生き地獄ってなんだろう……
ほら、私の場合、魔力が有り余っているのに最愛のアプリで遊べないという生き地獄だったからね。
ちょっと興味があるけどやめておいた方がいいかもしれないわね。
後日、魔術師団長にぽろっと話したらあきれたような表情で説明された。
「おまえ、それ逆。契約を交わした相手の魔力量に応じた罰が下されるんだよ。例えば、国王の場合は魔力量はさほど多くないから、キリにとっては微々たるもんなんだよ。逆に国王側から見れば魔力量が天井知らずのキリの魔力量に応じた罰が与えらえるのだから本当に死ぬ思いをするというわけだ」
「え?下手すれば死んじゃう?」
「それはない。ギリギリのところで生かされるからな。だから契約魔法の罰は『生き地獄』といわれるんだよ」
締結した瞬間に、契約書の裏面に私に害をなすかもしれないと思われる大量の女性の名前(一部男性の名もあった)が浮かんできたのにはドン引きしたわ。
しかも付き合い年数や肉体関係の有無まできっちり書かれていたわ(そんな情報いらないのに)
「お盛んなようで……いったいどこまで増えるのかしらね~」
契約書の裏面をカズ君に見せたら面白いくらいに慌てていたが知ったこっちゃない。
よーく見ると名前の横に国名が書いてあることに気づいた。
カズ君が所属している国どころか、魔族が暮らしていると思われる国の名前まであった。
そして我が国の女性も『勇者』のハーレム要員になっていることが分かった。
入国してまだそんなに時間たってないはずだよな……
まあ、私に直接被害がなければ何とかなるか……な
***
「ねえねえ、勇者様の歓迎パーティーが中止になったらしいわよ」
カズ君との再会から数日後。
『聖女様』と『勇者様』の会談が行われたらしい。
ここ連日新聞のトップニュースは『聖女様と勇者様』だから国民に広く知られている。
静止画カメラはあるけど動画カメラはまだないみたいなのよね。
動画カメラが開発されたら一部生中継とかやっていたに違いない。
「理由は?」
新聞を机の上に広げて隅々まで読み込んでみたが理由は書かれていなかった。
歓迎パーティーが始まる前に王宮のバルコニーで聖女様と勇者様のお披露目があったはずだがそれも中止になったと書かれている。
こちらも理由は不明。
王宮側からの発表待ちと書かれている。
はて、いったい王宮で何があったのだろうか。
まあ、呼び出しがないということは私は無関係ってことだよな!
なんてのんきに思っていた翌日。
師団長様から呼び出しがあった。
「『勇者』殿がお前に相談があるそうだ」
「は?私との接触禁止の魔法契約を結んでいるのに?」
「聖女様がやらかしたんだよ」
「……ワタシ、ムカンケイデス」
なんで聖女の尻拭いを私がやらなきゃいけないの!?
魔法契約を盾にごねたが無駄だった。
師団長曰く「あの甘ったれ達に生き地獄を見せたれ!」だそうだ。
甘ったれって……まさか国王陛下の事?と聞いたら思いっきり頷かれた。
ちなみに私に相談という話は宰相閣下には知らせていないとか……
むしろ国王陛下と一緒に罰を受けろと思っているらしい。
あれ?たしか契約対象者は『国王陛下』と『聖女』と『聖女の取り巻き』に限定したはず……
宰相閣下は対象外ではないだろうか……
そのことを告げたら思いっきり舌打ちされた。
『聖女の取り巻き』以外の対象者の追加は出来ないからものすごく悔しそうにしていたな、魔術師団長。
いっその事、宰相も聖女の取り巻きに巻き込むか!?と怖いことをブツブツ言わないでほしいな。
宰相閣下には別ルートでお仕置きできることをこっそりとお話しておいた。
うん、アーシャさんの事です。
彼女、何気に宰相閣下の弱みを大量に握っているみたいなのよね。
今度、顔合わせをさせるということで何とか落ち着いた。
宰相閣下、いったい何をすれば普段ニコニコ笑顔の魔術師団長をここまで般若にさせることができるんだ!?
まあ、それは横に置いておいて。
詳細を求めると実にくだらない理由だった。
ハーレム軍団にふるまったお菓子が理由だとさ。
私の元の世界では珍しくもないお菓子だ。
パンケーキ(生クリームたっぷり+はちみつ添え)
シフォンケーキ(最近はいろいろな味のものが料理人によって開発されている)
フルーツサンド(お菓子じゃないけど料理長のお気に入りなのでいろいろな茶会で出ていたりする)
ドライフルーツたっぷりのパウンドケーキ(必ず試作品を1本作っては料理人たちの胃袋に消えていく)
洋酒たっぷりのパウンドケーキ(これは酒が飲めない副料理長がいたく気に入っている)
ドライフルーツ入りクッキー(厨房付きのメイドたちのおやつになりつつある定番品)
ドーナッツ(穴あきではなくひねり棒のような感じのもの)
といったものだ。
うん、聖女様のご機嫌を取るために私が渡したレシピの一部だ。
そろそろ飽きが来ていた頃だから国賓への振る舞いに使っても大丈夫だろうと判断した料理長は悪くない。
むしろ、すでにいろいろな茶会(主に王妃様主催)で提供されているんだからな。
悪いのは心の狭い聖女様だ。
聖女様は会談の席で勇者様とそのお供達(ハーレム軍団)に振舞われたお菓子を見て
『このお菓子は私の為だけに開発されたモノよ!私の許可なく振舞わないでよ!』
と恥じらいもなく叫んだそうだ。
そこに聖女様の取り巻きになった王子たちも付随したもんだから会談は失敗に終わったらしい。
国王陛下は勇者様に何度も謝罪したが、勇者様のお供(ハーレム軍団)は溜飲を下げることがなく王宮内はギクシャクした状態らしい。
どうも聖女様はお菓子以外にも勇者様のお供(ハーレム軍団)にいちゃもんを一人一人につけたらしい。
勇者様が必死にお供の者たちを宥めたのが聖女様は気に食わなかったらしい。
自分ではなくお供の方が大事なのかって喚き散らしたそうだ。
何当たり前のことを言っているんだとその場にいたらツッコンでいたね。
どこまで自分至上主義なんだよ、まったく。
これには勇者様もプッツンしちゃったそうなのよね。
大事なお供(ハーレム軍団)を貶されて売り言葉に買い言葉の応酬だったそうだ。
そんなわけで、パーティーもバルコニーでのお披露目もできない状態だという。
はぁ、そんな状況を私にどうしろっていうんだ。
完全にとばっちりじゃないか。
うーん、国民が勇者と聖女を見たいって王宮に抗議しているっていうしな。
「頼む!勇者殿の相談に乗ってやってくれ。勇者殿もお前との魔法契約の事はちゃんと念頭にあるから気にするなと言ってくださっている。このまま勇者殿と聖女様の仲たがいの話が国民に流れたらうちの国が地図上から消える」
いや、いっそう滅んだら?って思っちゃったよ。
あの女を聖女として崇めているんだからさ。
聖女のせいで滅んだって言えば国民も納得するんじゃない?
あーでも無関係の国民に増大な被害が出るか……
「じゃあ、交換条件で」
「なんだ?何でも言ってくれ!」
師団長の言葉に思わずニヤリと口元が上がりそうになった。
「借金の帳消しと国外への通行証の発行」
その時の師団長の顔はポカーンとしていて面白かったが「そんなもんでいいのか!?」と逆に問われ逆に私の方がポカーンとなったのだった。
ストックが切れました。
そして、創作メモが文字化けしました(なぜだ!?)
なるべく月一更新を心がけますが、できなかったら申し訳ありません。