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区切りのいいところで切ったので短いです。(いつもの半分……オイ)
隣国の勇者来訪のニュースから数日たったある日のお昼休み。
至急の案件があると所属している部署の長である魔術師団長をすっ飛ばして宰相閣下から直々の呼び出しがあった。
しかも、楽しい楽しいお昼休憩中に!
お陰で食堂は今でかつてないほどの賑わいにあふれたではないか!
「おい、ナル!なにやらかしたんだ?」
「ナルなら無意識にいろいろやってそうだよね」
「また、貴族側からの無理難題の窓口じゃねぇ?ナルは宰相殿と知り合いだし」
「げー!ナル、安請け合いするなよ!俺たちは今の仕事で手一杯なんだからな!」
「そうだ!そうだ!貴族様の子守仕事だけは引き受けてくるなよ!」
同僚たちの言葉にあいまいに笑ってごまかすことにした。
ああ、ちなみにここでの私の名前は『キリ=ナルバエス』となっている。
私の愛称が『ナル』である不自然さをごまかす為に新たな名字を与えられた。
私自身、自分の愛称が『ナル』である理由がわからないので助かっていたりする。
これには『聖女』とは無関係だと主張するために必要な処置でもあったし、このことを知っているのは上層部のみ。
まあ、簡単に言えば戸籍を作ってもらったから名前が変わったと思えばいいんだよ。
さて、それはさておきマジで呼び出しの理由がわかんないんだよね。
直属の上司に聞いても魔術師団の長である魔術師団長に聞いてくれとしか言わないし……
こりゃ、マジで面倒なことが起こりそうな予感がヒシヒシとするな~。
どうやって逃げようかな~
お昼ごはんまともに食べてないんだけど……
スープ一口飲んだところで強制的に呼び出されたんだけど……
食事をする時間さえもらえなかった。
ねえ、お腹と背中がくっつきそうなほどにお腹すいているんだけど~
「王宮には俺も同行する。どうも嫌な予感がするんだよな」
文句を含みつつ平民支部から王宮にある魔術師団長室にいる団長に報告するとそんな召集は聞いていないと同行してくれることとなった。
魔術師団長とは王宮の入り口で待ち合わせた。
「とりあえずこれを食え」
と開発中の食品を渡された。
少しの時間、空腹感を紛らせることができる携帯食だ。
魔術師団長が長い会議(半日から一日、食事休憩は無し。飲み物のみ)を乗り切るために私が持ち込んだ栄養食カ〇リー〇イトを参考に作っているものだ。
「あ、あとでレポートよろしくな」
……実験台ですか?
まあ、空腹を紛らわせれるのならOKです。
うーん、味はいまいち。
口の中の水分が吸い取られる。
でも空腹感はまぎれた。
魔術師団長と共に王の執務室に赴くとゲッソリとした国王と宰相閣下がいた。
「召集の命により参上いたしました」
二人と目を合わせないように視線を床に落とし、国王又は宰相閣下からの言葉を待つ。
しかし、どれだけ時間がたっても二人から声が掛からない。
隣りに立つ魔術師団長に視線を向けるといつもニコニコ笑顔がトレードマークといっても過言ではない魔術師団長の額に青筋がくっきりと浮かんでいた。
その手には数枚の紙がガザガサと音を立てながら握られていた。
「これは、どういうことですか?」
普段よりも低い魔術師団長の声が執務室内に響く。
国王の侍従や執務室担当の侍女さんたちが隅の方でブルブルと震えている姿が視界の隅に入った。
気のせいか室内の温度も下がっているような……
「隣国の勇者との会談にキリを同席させるってバカも休み休み言え!キリとの約束(宣誓)を忘れたのか!」
「今回だけだから~」
「一度やったらお前らは何度でもやるだろうが!キリを聖女の傍に近づかせるのは納得できん。それに聖女の専属護衛騎士が何もせずに黙ってキリの近くで聖女の護衛をするとは思えん!キリの事をものすごい目で睨みつけているのを知らないとは言わせない。暇があればに魔術師団の訓練場に現れてはキリに勝負を挑んでコテンパンにやられてスゴスゴと帰る奴らの傍にキリを近づけるわけにはいかない。会談の最中に何をしでかすかわからないからな。あの専属護衛騎士どもは!」
珍しく勢いよくしゃべる魔術師団長に国王と宰相も口を挟めない。
ちなみにこの場に護衛担当の責任者である騎士団長は今回この場に呼んでいないらしい。
とりあえず私の意見を聞いて、その後話し合いがもたれるとか。
ちなみにこの三人と騎士団長は幼馴染だという。
魔術師団長も立派な貴族様なのだが、思考が平民に近い。
魔術師団長曰く『伯爵家の三男だから面倒な柵は小さかったからな。それに兄たちとしょっちゅう家庭教師の目を盗んで城下街で遊んでいたし、友人も平民の方が多い』とのこと。
閑話休憩オワリ!
「そもそも、なんでキリを会談に参加させたがる」
「隣国の勇者の要望だからだ」
「は?」
「『異世界より呼ばれた人と話してみたい』という勇者殿からの手紙が届いたんだよ。聖女はもちろん乗り気で、わしたちの許可なく勇者殿に返信を出してしまったんだ」
「検閲はどうした」
「王子があっさりと通してしまった」
「……チッ。ろくなことしねえ連中だな」
魔術師団長の小さな声は国王と宰相には聞こえなかったらしくいろいろと弁明をしていたが魔術師団長の機嫌が悪いことには気づいたらしい。
わざとらしく咳払いをすると話を進めた。
「その手紙の中にキリ殿の事を書いたらしく……まあ、例のごとく彼女を悪者にしてだがな」
「……キリとの約束……宣誓に抵触していることに気づいていないのか?聖女とキリが同郷であることは秘匿するという約束事に抵触していることに気づかなかったのか?それに接触もさせないと約束しただろうが!」
「そ、それは……」
言葉を詰まらせる国王に魔術師団長はため息をついた。
「キリ、お前の意見を尊重する。隣国の勇者に会うか?」
「非公式で、聖女様とは別の日であれば」
「いいのか?」
「どうせ、公式の場に私が姿を見せなければ隣国の勇者の方から『もう一人いるはずだか?』なんて言葉が飛び出すくらいなら聖女との会談の数日前に非公式の会談の場を設けて貰った方がましです」
深いため息の後、仕方なく了承の返事をする。
不敬罪だと言われれば私との宣誓を盾に抗議させてもらいますよ。
私は『聖女』とは金輪際関わりたくないと言ってそれを約束したのだから約束は守ってもらわなければね。
聖女様の専属護衛騎士様たちが生き地獄(どんな生き地獄かは知らないが騎士団の宿舎や鍛錬場から絶叫が響き渡ることが度々あるので確実に味わっているはずだ)を味わいながらも何度も突っかかってくる理由は本当に分からないけどね。
時々、コテンパンにやっつけた後、うっとりとしている人たちがいるけど、もしかしたら新しい扉開いちゃったのかもしれない。
え?もしかしてご褒美になっちゃっているの!?
怖いから確認はできないけど……今度アーシャさんにこっそり聞いてみよう。
その後、着々と隣国の勇者との会談の準備は進んでいった。
あの女はまた豪華なドレスやらを注文したらしい。
今回のドレス代等は騎士団長の子息が払ったらしい。
騎士団長と奥方は贈られてきた請求額に卒倒したらしいが私は知らん。
ちなみに王子の個人財産はすでに底をついているとか……血税をなんだと思っているのかね~
私はちゃんと税金を払っている。
戸籍をちゃんと作ってもらったからね。
ちなみに借金も返済中だ……
あの計測用の魔具……めっちゃ高かった。
予想以上に高かったので給料の殆どが借金に消えているのよ……
今回の会談に応じるから迷惑料として減額してくれないかな~などと思ってないよ?
すみません、正直に言います。
本当は減額してくれないかな~と思っている。
精神的慰謝料として減額してくれないかな~マジで。
こっそり交渉してみようかな……
うん、ダメもとで魔術師団長を交えて交渉してみよう。
隣国の勇者との会談は穏やかに……始まらなかった。
今回『聖女』は関係ない。
私と隣国の勇者が知り合いだったことが原因だ。
続きはなるべく早くアップできるよう頑張ります……