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区切る場所が中途半端になりそうなのでちょっと短いかな。

魔術師団に入団して早半年。


シュナイダー侯爵家から魔術師団の寮に移動して3カ月。

やっと、魔術師団に慣れました。


最初の3カ月は毎日クラリス様と共にシュナイダー家の家紋入りの馬車での出勤していた。

しかし、これがダメだった。


そう、平民の私が侯爵家の馬車で出勤。

すなわち周囲から浮きまくっていたのだ。



一応、私の身分は平民。

ラングハウス辺境伯爵領出身。

ラングハウス辺境伯家とは遠縁。

ラングハウス辺境伯の紹介でシュナイダー家に行儀見習いに出たところ、魔力が多いことがわかり魔術師団への入団を薦められた田舎娘。

という事になっている。


なーのーに!

クラリス様と共に行動することが多いことから平民の友人が出来ない。

クラリス様繋がりの貴族の知人はできたけどね。

友人じゃないよ。知人。

あちらも私のことを友人などと呼びたくなさそうにしているからね。


魔術師団長に掛け合って、クラリス様と別行動になるように班を分けてもらった。

まあ、クラリス様にはチクチクと文句を言われたけど、休みの日が合えば一緒に過ごすという事で納得させた。


当分の間、休みは合わないようにスケジュールを組んであるけどね。

正直、貴族令嬢であるクラリス様との会話や行動について行けない時があるのよね。

アーシャさんが私のことを『キリ』と呼んでいるからって勝手に『キリ』って呼ぶし。

最初の自己紹介の時に『ナル』と呼んでくれといったことは完全にスルーされているのよ。

アーシャさんも最初は『ナル様』って呼んでいたんだけどね、この人は信頼ができると思った時点で『キリ』と呼んでほしいと頼んだのよね。

その後からかな、アーシャさんの黒い部分が頻繁に見えるようになったのは。

まあ、私自身に害がないので問題ない。

ちなみに私は公の場では『シュナイダー侯爵令嬢』とクラリス様のことは呼んでいる。

いくらお世話になった方のお嬢様のお願いでも聞けるお願いと聞けないお願いというものはあるのだ。

なので周りの目がない時だけ『クラリス様』と呼ぶようにしている。

な・の・に!

クラリス様は他の人の目がある場所でこっちが礼節(位の上の人に対するルール)を守ろうとすると『キリと私の仲だから大丈夫』という謎の言葉を発して、私を窮地に追いやるし。


私に上級階級の生活……お嬢様の接待は無理だとつくづく思ったわ。


アーシャさんは週末、シュナイダー家ではなく魔術師団の寮の方に顔を出すようになったのでそのことを伝えてあるのでうまい具合にクラリス様たちを誘導してくれている。


このまま、一平民として暮らしていければ最高なんだけどね。


平民のグループに投入……じゃない、編入させてもらった後はあっという間に友人が増えた。

高位貴族であるクラリス様が常に傍にいた事から、なかなか声を掛けづらかったと後々に友人たちは語る。

私一人の時を狙って声を掛けようとしたが、なぜか貴族の知人たちに邪魔をされていたそうだ。


アーシャ経由で貴族の知人たちには私達平民グループのコミニュケーションの場を邪魔をしないように釘を刺しておいた。

当然、クラリス様にも。

貴族が傍にいると粗相をしてはいけないからと、常に気を張らなきゃいけないから疲れると正直にクラリス様たちには伝えておいた。

同じ魔術師団の仲間なのにと言われたが、貴族様の実家(後ろ盾)を舐めてはならない。


ほんのちょっと貴族の機嫌を損ねた(傷を付けた)だけで、あっという間に職を失うのが平民である。

一月前に、一人の平民魔術師が貴族魔術師と廊下ですれ違う時にほんのちょっとぶつかり、壁に手をついた時にできた擦り傷が原因で地方に飛ばされたのである。

ちなみにぶつかってきたのは貴族の魔術師の方(前方不注意)で、平民魔術師は足をくじいている。

そのことは多くの証言者がいるのだが黙殺されている。

まあ、その平民魔術師は地方の仕事の方が性に合ったのか、週一で届く報告書から嬉々とした様子がうかがえるのが不幸中の幸いというモノだろう。


そもそも貴族出身と平民出身では仕事内容が違うし活動場所も違う。

貴族出身者に重労働作業はなく、基本城内にある魔術師団の施設にて活動をしている。

魔術の技を宴などで披露する一種のパフォーマンス要員である。

また、月に一度行われる武道大会、魔術師部門で派手な技を披露したり、魔石への魔力注入が主な仕事である。

平民出身者は騎士団と共に魔物・犯罪者退治(王都内の巡回)を行ったり、魔具のアイデア・製作をしたり、魔具に関するトラブル対策などやることが多いので城下町にある魔術師団の支部にて活動している。

それゆえに、貴族と平民の間には壁があるのだが、貴族側からはその壁は見えていないのである。

まあ、下手にあれこれ手を出されて仕事を増やされたくない平民魔術師は貴族魔術師の言葉を綺麗にスルーする能力を備えているのであった。

もちろん、私も身に付けましたよ。



私がまだ、平民班に組みして間もない頃、やたらと支部を訪ねてきては構ってくるクラリス様とそのお友達。

私達が新しい魔具の試作品を作っていた時に、横からあれこれ口を出すだけで手伝いは一切しない。

ほんと、ただあーだこーだと口を挟むだけ。

イラッと来た私が満面の笑みを浮かべながら

「では、見本をお見せくださいな。優秀な魔術師であるあなたなら私たちが四苦八苦しながら魔石に術を組み込んでいるのに対して、あっという間にできるのでしょ?」

という内容をオブラートに包みながら魔石に術を組み込ませた。

結果、その貴族魔術師は一つの術も組み込むことが出来なかった。


え?恥をかかされた報復?

そんなものエリート至高の貴族の度高いプライドのお陰でありませんよ。

私に報復するとはつまり、自分は平民魔術師に負けたと認めることだからね。

それに、この日は調子が悪かったということでその場を納めていたからね。


つまり、貴族魔術師は論じることはできるが実践はできないのである。

もっとも、魔力量は平民よりも多いので魔石への魔力注入は簡単にできるけどね。

魔力注入と術の組み込みは全く違うという事に気づいていないのである。

教育課程(貴族専用の学校があるらしい)で教えていないらしい。

平民魔術師は現場たたき上げなので実戦で覚えていくからすぐにわかるんだって。


魔力注入はその言葉通り、空っぽの魔力をためておける石に自分の魔力を流し込むだけの作業。

術の組み込みは魔石に魔力を流し込みながら、術を組み込む作業である。

貴族魔術師が行う魔力注入の魔石は基本ランプなどにつかう消耗品。(しかも使い捨て)

術が組み込まれた魔石は厨房で使うコンロやオーブンなどの火加減の調整が必要なものや風呂場で使うシャワーなどの微妙な温度調整が必要なものなど事細かな組み込みが必要になる。

火加減の調整なら弱火、中火、強火など最低でも3段階の変化を魔力が少ない人でも調整できるように術を組み込まなければならない。

昔は、威力の違う魔石を使い分けていたそうだが、その分魔石を買わなければならないのでお金がかさむので、一つの魔石で補えないかというのが現在の火力調整の魔石が誕生した理由だそうだ。

ほかにもいろいろあるのだが、私が今理解しているのは厨房と風呂場で使用されている魔石のみである。

ああ、あと庭園のスプリンクラーも術を組み込んだ魔石を使って水やりをしているそうだ。



***


「ねえねえ!ビックニュースよ!」

同じ班のアンが新聞をもって仕事部屋に駆けこんできた。

「どうしたの、アン。イケメンでも載ってた?」

普段、新聞を読まないアンが新聞片手に駆けこんできたので部屋にいた人達全員が、驚きを隠せていない。

ちなみに、この仕事部屋は平民魔術師専用である。


「あのね、あのね!隣国の勇者様が聖女様に会いに来るんだって!」

バンと新聞を机の上に広げたアン。

紙面一面にデカデカとその記事が載っていた。

「隣国の勇者って10年前に異界から出現したというあの勇者?」

「そうよ、彼の活躍のおかげで隣国は魔物の脅威から逃れたと言われているあの勇者様!」

興奮しているアンを横目に、新聞に目を通す。


そうそう、こちらの世界の文字も書けるようになりました!

いや~宰相閣下の息子さん(クラリスの兄:クリストフ)によるスパルタ式文字練習は今思い出してもガクブルもんでしたよ。

『文字は読めるのに文字が書けない?いい年したこの女が?ふざけているのか!』

と初対面で言われました。

ええ、言われましたよ。

だから言い返してやりましたよ。

「文句があるならこっちの世界に引きずり込んだ神に言え!もしくは私を今すぐ元の世界に戻せ!」

ってね。言葉はもう少し丁寧に言ったけどね。

一応、私が聖女のおまけだったってことはあの場(召喚の場)にいたので知っていたらしい。

最初の数日はマジで辛かった。

間違える度に鞭で私の背後の床をバシバシ叩くのよ。

鞭の音がトラウマになるかと思ったわ。


その後、私が書いた『日本語』をみた彼は態度を急変したのよね。

彼は『日本語』の研究者だった。

彼に『日本語』を教える代わりに私にこちらの世界の文字を丁寧に教えてもらったのだ。

今では性別を超えた友人関係を築いている。


恋愛感情が沸くかって?

絶対にないわね。

友情は育めても、恋愛感情はないわ。

それに、彼には片思い中の子がいるのよね。

宰相閣下(父親)は気づいていないみたいだけど、母親が気づいて絶賛応援中らしいの。

しかも、その子は商家の子(平民)でライバルが多いらしい。

ちなみに、私が親しくしている友人の一人だ。



こっちの世界の文字って飾り文字っていうの?

縦線だけ太くした文字とか袋文字とかなのよ。

種類も豊富で見る分には楽しいけど、書くのは辛いわ……

こんなの広告でしか見たことないわー!って思ったね。


基本はアルファベットに似たものだってわかってからは書けるようになったけど……

普段使いでは書きずらいわ!

ということで、私はシンプルにした文字で書いている。

一応、癖のある字ということになり、問題なく他の人も読めるらしい。


で、本題である『勇者様』についてだが……


「うちらには関係ないんじゃない?」


である。

新聞の記事によると『近々隣国の勇者がこの度我が国に召喚された聖女様を労うために訪問する』と書いてある。

ならば、平民魔術師の出番は一切ない。

貴族魔術師の出番である。

勇者、聖女とは国は違っても扱いは一緒である。

王族並もしくは王族以上の扱いである。

つまり国によっては『神』のごとく敬うような扱いである。

ちなみにこのキルシュ国は『聖女』は『神の御使い』ということで国王より上の扱いである。

そこに平民の魔術師の出番はない。

全ては貴族出身の魔術師と騎士様のお仕事である。

私達平民は勇者や聖女に姿を見られないよう裏方に徹するのである。


「でもさ~、ちらっとでも見たいよね~」

「新聞記者、いやカメラマンの腕に期待するんだね」

「はあ~、夢がないわね、ナルは」

「隣国の勇者様の武勇伝ならいろいろ聞いているわよ~主に女性関係の」

ほんのちょっと興味本位で歴代の勇者や聖女について調べたことがあったのよね。

調べて後悔したわ。

それぞれ功績は違えど、日常面は似たり寄ったりだった。

ハーレム、逆ハーレムのオンパレードだったのよ。

最終的に一人に絞らず、来るものは拒まず去る者は追わずって感じで生涯を閉じている人が多かったわ。

もちろん、たった一人を選んだ勇者・聖女もいたが数は少ない。


元の世界に帰ったという人は一人もいなかった。



「えー!でも隣国の勇者様は恋人一筋って噂よ」

「そうそう、故郷に残してきた恋人一筋だって」

「でも、勇者様のお手付きになったって子は多いみたいよ。隣国では常に勇者様の隣りに誰が立つかで静かな争いが起こっているそうよ」

「えー、私が集めた情報だと勇者様は隣国の王女様と相思相愛で結婚間近って話よ」

「俺が聞いたのは魔族討伐の時にパーティを組んでいた女剣士といい仲で今も一緒に生活しているって話だぜ」

「つまり、いくら恋人一筋って言っていても『英雄色を好む』ってことよ」

隣国の勇者について己が知っている情報を皆が出しあってワイワイとにぎやかになっていたが、仕事開始時間になるとすっと仕事に専念できるこの職場というか皆はある意味すごいわ。




次回更新は来月(5月)中ごろ予定です。

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