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まだまだ説明回は続きます

神官長と宰相はできる限り私が望むようにすると文書で(したた)めた。

うん、口頭だけだと信憑性がないからね。

文字は書けないけど、読めるから契約書を誤魔化す様な文章は織り込まれていないことは確認済み。

サインは日本語で書かせてもらいましたよ?当然でしょ。


ファンタジーのお約束で『日本語』が失われた古代文字だとかで神官長が興奮したけどあえてそこはスルーです。


完全に体力が回復するまでは静養してくれという事だったのでこの国の歴史書か地図を貸してほしいとお願いしておいた。

あ、あと文字を練習するための道具も。


分厚い歴史書数冊と地図数枚が翌日の昼すぎに届けられたが……


「なにこれ」


一番でかい地図を広げてびっくり。

図面のど真ん中にでっかい大陸があるだけ。

大陸は海で囲まれているけど、他の大陸が描かれていない。

私付になったメイドさん……改め侍女であるアーシャさんに聞くと

「私たちは()()海の向こう側を知りません」

とまあ、あっさりとした答えが返ってきた。

「海の向こう側に行くには海の怪物を倒さない事には……」

ん?海の怪物?

ギリシャ神話のケートスみたいなのかな?

それともセイレーンかな??

それとも北欧神話のニーズヘッグ?

ウガリット神話のリヴァイアサンかな?

首を傾げる私にアーシャさんは一冊の図鑑を持ってきていろいろと教えてくれた。


海の怪物とはセイレーンでした。

上半身は人間、下半身が魚……うん、セイレーンですね。

『人魚』といえばわかりやすいだろうか。


アーシャさんはふわふわの茶髪に琥珀色の瞳をもったとってもかわいい人だ。

私よりも年下だが、私の見た目が若く見えるらしく初対面の時、同じ年くらいだと思っていたと後日教えてくれた。

ちなみに私は26歳、アーシャさんは18歳だそうだ。

え?つまりこの世界では私は10代後半にみえるってこと!?

童顔の日本人顔だからってそれはないだろうと思わなくもないがこれも異世界転移の日本人あるある(?)ですね。

決して若返っているわけではない。

うん、それはちゃんと鏡を見て確認しているから若返りはしていない。


誰もが私の世話を嫌がる中、真っ先に立候補してくれたとか。

まあ確かに、牢屋に入っていた人の世話なんてやりたくないだろうな。

アーシャさんはもともとは城の下女として働いていたが、何事にも真剣に仕事に取り組む姿勢を上部が認め、本来貴族または貴族の紹介状をもった豪商の娘のみがなれる侍女に抜擢されたとか。

それって面倒事を押し付けたというのでは?と思ったが一応黙っておく。

機会があったらさりげなく聞いてみようなんて思ってないよ?うん。


アーシャさん自身は地方の農家の生まれだが、自分の生まれを誇りに思っていると堂々としている。

まあ私自身庶民ですから、貴族の娘さんやらが終始傍にいられるのは御免こうむりたい。

ほんの少しだけ私の部屋を担当してた侍女たちはあからさまに私のことを貶してくれていたからね。

あ、もちろん宰相閣下には一応報告しておきましたよ。

「なにか御不満なことがありましたらどんな些細な事でもお知らせください」

と深々と頭を下げられましたからね。

ここぞとばかりに私の部屋の隣り(侍女部屋というらしい)ででかい声で話していた内容を報告しておきましたよ。

そういえば、あれ以来あちこちで囀っていたのがぱたりと止まったわね。


アーシャさんの説明によると、この大陸にはこの国を含めて複数の国が存在し、互いに協力し合っているという。

ちなみにこの国は大陸の北側の隅っこの方にある。

中央にあるでかい範囲を有している帝国から各国に王女や王子を嫁がせ『血の盟約』を結んでいるという。

さらに年月を掛けて、各国同士でも『血の盟約』を結んでいったのでこの大陸全域が一つの血筋でまとまっているという。

「となると、どこかの国で王位継承者が途絶えた場合、違う国……一番血筋が近い国から養子でも貰うの?」

「過去にはそういう事もありましたが、今はあまりありませんね。下手をすると国を吸収されかねないので」

「あまりということはあることはあるのね」

「はい、王子を婿に出した場合のみですが」

「国としては他国に出した子だから継承権は消滅しているけど、有事だから婿に出した王子またはその子供に自国の継承権を与えるってことね。それはそれで問題起こるわね。って婿に出した王子のみなの?普通、嫁に出した王女の子じゃないの?」

「王女の子ですか?」

「うん、王女の子なら確実に血筋でしょ?子供は女の腹から生まれるんだから。それともこっちの世界だと男が孕むの?」

「いえ、女性の腹から生まれます」

「なら、婿に入ったといっても嫁が浮気していたら…………ねえ?」

「そう言われてみればそうですわね。ですがこの世界では婿に出した王子に子が三人以上いる場合に限り復権を認めるとなっております」

「一人は婿入り先にもう一人は祖国にそれ以外はスペアってところかしら。でもそれって婿入り先の国にしたら取り込めるチャンスじゃない?さっきも言ったけど婿入り先の嫁が浮気していたら…………」

「それはその時の王の判断によりけりです。実際にこのような案件は多々あり、この地図もそのたびに書き換えられてきましたから」

「つまり、国を存続させたいのならなんとしても王位継承者を失うわけにはいかないというわけね。だけど子が多すぎても継承問題で内乱があると」

「ご理解が早いですね。聖女様にこの世界の事を説明しても理解してくれないと聖女様の教育係が嘆いていると聞き及んでおりますが」

「あんなのと一緒にされたくはないけど、同郷ってことで一緒くたに見られているのでしょうね」

深いため息をつく私に休憩しましょうとお茶を入れてくれるアーシャさん。


アーシャさんは農家出身だけど幅広い知識を持っているなと思ったら、なんと祖母、両親共に元貴族だとか。

祖母(アンナ)は幼い頃病気がちで領地の辺鄙なところに押し込められていた時に出会った農家の青年と恋に落ちて駆け落ち(のちに実家とは和解。後に子が出来ない兄夫婦に子を一人、養子に出す)

父(デニス)は王家主催の狩猟イベントに参加した時に、お手伝いとして参加していた母(ユリア)に一目ぼれ。

侯爵家の嫡男として生きてきたが自分が養子(アンナの実子・次男)であること、ちゃんとした侯爵家の跡取りが誕生したのだからと、育ての両親を言いくるめてあっさりと身分を返上して、数年かけて口説き落としたユリアを娶り実父(農家)の後を継いだ。(ちなみに長男は『俺はS級の冒険者になる!』と家を出たらしい)

というちょっと変わった家族だった。

ちなみにこれは父方。


母方もすごかった。

なんと爵位持ちの農家だった。

ってこういう言い方はちょっと違うわね。

母(ユリア)の実家は農民のような生活をしているが、実際は辺境伯爵家なのだという。

つまり貴族令嬢だった。

よくある貧乏貴族かと思ったらそうでもなく、資産潤沢のれっきとしたお家だそうです。

資産は国庫よりも上らしい。

よく農家(嫁入り先は元侯爵家の人間だけど)に嫁ぐことが許されたなと思っていたら、ユリアは幼い頃から『農家に嫁ぐ!』と宣言をしていたらしく、とくに反対されなかったとか。

相手が元侯爵家の令息で新しい次期侯爵とも仲が良いことも関係あるだろうが。

もともと貴族社会を嫌い『俺(私)は平民になる!』と宣言する者が代々一人から二人出る家系だから反対するだけ無駄だという。

なぜなら、強固に反対すると必ず出奔して新たな土地で目まぐるしい利益を上げる者が多かったので、なら最初から許可して領地を潤わせた方が得策だと何代か前の当主が決めたそうだ。

社交シーズン中は貴族として数日間だけでも王都で暮らすのなら領地で何をしてもいいというルールを作り、貴族社会ではちゃんとした辺境伯爵家として見られているから問題ないとか。

辺境伯なので社交シーズン中に領地に帰ってもお咎めはない。

シーズン初めの王家主催の舞踏会にさえ出れば問題ないとか。

国境警備という任務があるから黙認されているらしい。

国公認の私設騎士団も所有しているという。(しかも中央からこぼれた国の実力者が集まっているらしい)

実際は領地で農民に交じって農産物を作っているというのだからすごいわ。

そのおかげか、領民からの好感度はカンストに近い。

領主家に何かあれば中央(王家)に対しての反逆も厭わないという盲信ぶりだという。

しかも国内の7割以上の農産物が辺境伯領で作られている(穀物・酪農地帯らしい)ので流通を止められたら辺境伯領以外では餓死者が出る可能性もあるらしい。

また、良質の農産物を作っているので隣国からも商人がわざわざ買いに来ることもあるという。

農産物だけじゃなく工芸品も素晴らしいらしく交易面でも優れているという。


アーシャさんたち兄弟(兄と弟がいるとのこと)は貴族と農民の両方の暮らしをしているという。

実家は農家(侯爵領の隅っこ)だが、一応貴族の血(侯爵家と辺境伯家)が流れているので念のためにと貴族としてのマナーも身に付けているのだとか。

本来なら侯爵家(父デニスの従弟、養子時代の弟)の紹介状があるので侍女として城に上がる予定だったが、面接試験の時の試験管の親または紹介者の爵位によって態度が変わるのを見て自ら下女になることを告げたという。

下女になってからは自分を生まれだけで見下す人達を事細かに記し、辺境伯爵家と侯爵家に報告しているとか。

ちなみに、この国何気に実力主義なんだよね。

平民でも才能が有れば上にのし上がれるらしいけど、古臭い連中がいろいろと妨害しているとか……

シュナイダー侯爵家(父方)は他家の弱みを握ることが出来るので定期的に報告するよう言われているという。

また、ラングハウス辺境伯爵家(母方)もいろいろな交渉の手段に使っているとか。


それってスパイ活動というのでは?と思ったが黙っていた。

うん、下手に口に出して巻き込まれたくないからね。


この城の中でアーシャさんのご機嫌を損ねたらヤバイ気がする。

真っ先に辺境伯領から仕入れている農産物の輸入は制限されるだろう。

アーシャさん自身は「私はなんの権力も持っていないただの農家の出身です」とにっこりとしているから余計に怖い。

アーシャさんを卑しい身分の人間だと貶した人のその後の消息が分からないのも怖いわ~。


ちなみに、母方のラングハウス辺境伯家の領地と父方のシュナイダー侯爵家の領地はお隣さんだそうだ。

デニスさんとユリアさんの婚姻をきっかけに今ではがっちりと手を組んでいろいろと国に貢献しており、王家も下手に口出しできないほどだとか……


ますます、恐ろしいわ~!!


だって父方のシュナイダー侯爵家って……宰相様のとこだもん!

国王の右腕(裏では影の支配者(ラスボス))と言われている人の家だもの~!


アーシャさんってやっぱり……

か、考えるのやめておこう。

うん、平穏が一番だよね。


って話がそれた。

今聞きたいのは海に住まう怪物の事よ!


「ツヴァイク大陸の周辺の海には怪物が住みついており、別大陸への航路を塞いでいるのです」

「別大陸があることは知っているのね」

「はい、遙か昔は自由に行き来できていたそうです。ですが、魔族の活動が活発化し始めたころ……数百年前から航海する船を怪物が沈めていくそうです。それは別大陸からこのツヴァイク大陸を目指している船も同様だそうです」

「ん?ちょっと待って。魔族の活動が活発化し始めたのは数百年も前なの?ここ最近じゃないの?」

「はい、魔族と呼ばれる者が力を付け始めたのは数百年前です」

「ちょっとおかしくない?だって今回の聖女(または勇者)召喚ってここ数年蔓延っている魔族を退治してほしくて行ったんじゃ」

「ええ、()()()()侵略している魔族を退けて欲しいという名目です」

「えーっと、ちなみにこの国に侵略してくる魔族が主に住んでいる領域ってどこ?」

アーシャさんはすっととある部分を指さした。

「ん?立入制限区域?」

「はい、国と国の間には『魔の森』とよばれている人間が立ち入ると必ず迷うという場所があります。その領土は我が国の倍以上だと言われています」

うん、地図を見る限り中央にデーンとしている帝国を中心に各国の境界線沿いに幅広い森が広がっている。

森全体をまとめたら帝国と同等の広さになるんじゃないのかな?

それに比べてこの国(正式な国名は長ったらしくて覚えられないが略式でキルシュ国と呼ばれているらしい)は小国と言っても過言ではないわね。

大陸を一つの国に見立てたら『村』ってところね。

誰にも言わないけど。


「ねえ、この森を自分の目で見てみたい」

「この森って……『魔の森』ですか!?」

素っ頓狂な声を上げるアーシャさんに思いっきり首を縦に振る。

「いけません!『魔の森』には凶暴な魔族が暮らしているのですよ。彼らは森に入り込んだのが人間だとわかると問答無用で襲ってくるのですよ?」

「問答無用で?」

「はい、一歩踏み入れると、どこからともなく雷が地面を貫き、荒れ狂う風が襲って追い返そうとするそうです」

「…………」

うーん、これまたファンタジー小説の定番(テンプレ)じゃない?

魔族側としては自分たちの領域に人間を入れたくないだけじゃないかな?

神官長が言っていた瘴気については気になるけど……


地図を見る限り『魔の森』って全部が全部入れないわけじゃなさそうなんだけど……

太陽が昇っている間だけ立入可能区域も部分的にあるし……

魔族との話し合いで解決できないのかね。

魔族=悪という固定概念が根付いているんだろうけど……


「それに、キリ様は護身術も身に付けていないし、魔術だって」

いま、ファンタジーの定番の言葉が私の耳を直撃した。

「魔術!?私も魔術使えるの!?」

グイッとアーシャさんに近づくと彼女は驚いた表情を浮かべながらコクコクと頷いている。

「魔術師団長様が『聖女じゃないもう一人の方が魔力が多い』と仰っておりましたので間違いないかと思いますが調べてみない事には」

「それって簡単に調べられるの!?」

「は、はい。神殿で行われる適性検査を行えば」

「それってすぐにできる!?その検査を行えば自分の適性属性とか判るの!?」


テンションが上がっていく私を落ち着かせたのはアーシャさんではなく、見目麗しい来客だった。


「アーシャ、お父様が……」

「クラリス様、許可なくお客様のお部屋に入るのはマナー違反ですよ」

「ご、ごめんなさい。アーシャの声が聞えたからつい」

「ついじゃありません。ここは王城です。侯爵家の屋敷ではないのですよ?侯爵夫人に知られたら……」

「きゃー!お母様には黙っていて!お願い」

いきなり始まった会話にテンションは一気に下がっていった。

うん、冷静になったともいう。


しばらく言い合いをしていた二人だが私の視線に気づいたのか、アーシャは私の後ろに立ち、来客者はキレイなお辞儀(カーテシー)をして挨拶をしてくれた。

「大変お見苦しいところをお見せいたしました。お初にお目にかかりますシュナイダー侯爵家の娘クラリスと申します」

「お初にお目にかかります。キリコ=イナリと申します。『ナル』とお呼びください」

一通り挨拶を終えるとアーシャさんにお茶の用意をしてもらった。



クラリス嬢はあの宰相閣下の末娘だという。

つまりアーシャさんの親族ね。

常ににっこり笑顔を浮かべているがその裏で何を考えているのか読めない宰相閣下だが家族の前では違うらしい。

喜怒哀楽が激しいらしい。

へえー、見てみたいような見たくないような……

特に夫人が関わるとそれはそれは豹変するそうだ。

夫人は元々は国王の婚約者候補だったが現王妃の罠にはまって醜聞を掻き立てられたそうだ。

その時から夫人のことを慕っていた宰相閣下は証拠という証拠を集めて夫人の身の潔白を証明しようとしたのだが夫人に止められたと。

夫人は夫人で幼馴染でもあった宰相閣下に密かな思いを寄せていたとか。

国王の婚約者候補から辞退できるのなら少しくらいの醜聞は気にしないと言って宰相閣下を落ち着かせたらしい。

ぶっちゃけ、現王妃のおかげで二人はくっつくことが出来たというわけである。

婚姻後、王妃が広めた醜聞が全部うそだったと発覚するも、仲のいい宰相夫婦をみて誰もがこれでよかったのだと納得しているとか。



「キリ様、クラリス様は第一王子ニコラウス様の婚約者候補筆頭でもあるんですよ」

「……え?」

「アーシャ、そのことだけど先ほど辞退届を出してきたわ」

「え!?なぜです!?あれほど仲がよろしかったのに……婚姻まで秒読みとまで言われておりましたのに」

クラリス(呼び捨てにしてくれと言われた)の発言にアーシャが慌てている。

「ニコラウス様は『聖女様』を正妃に迎えるそうよ。先ほど定例のお茶会でお会いした時にはっきりと宣言されたわ」

アーシャさんの入れたお茶を優雅に飲みながら淡々と話している。


私達が召喚されてほんの数日。

たった数日であの女はこの国の王子(一回り年下)を落としたということだ。

きっとあの女のことだ

『きゃー!乙女ゲームみたいな出来事が起きちゃった♪ということは……立派な聖女を演じれば逆ハーも夢じゃないわね!』

とか思っているに違いない。

そんでもってありとあらゆる手(主に色仕掛け)を使って落としたんだろうな。

きっと王子の側近たちが落ちるのも時間の問題だな。

彼女にとって()()()王子達は手のひらで転がせるくらいにちょろいだろうからね。


「クラリス様は本当にそれでいいの?私はニコラウス王子とは直に会っていないから何のアドバイスも出来ないけど」

「ええ、もともと王家に嫁ぐ気なんてさらさらありませんもの。お父様が何を考えているのか知りませんけど、時期が来たら辞退するからと仰っていたから受けたまでですわ」

「ねえ、不躾なこと聞くけど、そのお茶会に『聖女様』も?」

「ええ、居りましたわよ。殿下の膝の上に」

にっこりと笑みを浮かべているけど瞳の奥が冷え切っているクラリス。

うわ~、何やってるのよあの馬鹿は。

うーん、異世界人がみんなあんなのだと思われるのは癪だな。

「あの『聖女様』はとっても面白い方ね」

「え?」

「だって、人の話を聞かずにずーーーーーーーーーっとご自分の話ばかり。私を含め殿下の婚約者候補のほとんどがその場で辞退届を提出しましたわ。お花畑の住人を選ばれた殿下には失望いたしました」

ふっと笑うクラリスに私とアーシャさんは顔を見合わせた後、互いに苦笑を浮かべたのだった。


「それよりも、キリ様」

いきなりガッチリと両手を握られた。

「は、はい!?」

「もしよろしかったら、御一緒に魔術団に入団しませんこと?」

「ま、まじゅつだん?にゅうだん?」

「ええ、キリ様なら簡単に入団試験をパスできますわ!」

「ですが、クラリス様。キリ様は適性検査を受けておりません」

「あら、それなら大丈夫よ。お父様から明日、神殿で適性検査を行うって聞いているもの。そのことを伝えに来たのよ。そういえば」

「そういった重要なことは早めに教えてください。……って、クラリス様に仰っても無駄ですわね」

「どういう意味よ」

「妃教育を受けているはずなのに数々のマナー違反について」

「…………ゴメンナサイ。イゴキヲツケマス」

「その言葉はすでに何百回と聞いております。せめてここ、王城ではちゃんとしてください。キリ様がお優しい方ですから今回は無事でしたのですからね」

いや、ただ単にこっちの世界のマナーを知らないだけというか、勢いというか、流れに流されただけなんだけど……まあ、いいか。


というわけで、翌日、私は神殿にて適性検査を受けた。

例に洩れずちょっとした騒動が起きたけど、神官長と宰相閣下の計らいで無事(?)に解決。


私の適性は……はい、オール属性でした。

しかもレベル∞(無限大)だと。

どんなチートだよ!異世界移転の特典ですか!?

こんな騒動のもとになる特典なんていらん!

平穏な日常をくれ!いや、元の世界に戻せって思わず叫びそうになったわ。


一番適しているのは聖属性らしいけど、神官長様と宰相閣下の努力によりその事実は隠蔽された。

表向きは4属性という事になるらしい。

四大元素である火・風・水・土が均等に使えるという事になった。

まあ、一つか二つが通常であることを考えれば四つもあったらそりゃ驚くわね。

それに加えて聖と闇の2つもあることは検査員と神官長、宰相閣下と私だけのヒミツとなった。



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