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5月2日の夜咄

作者: ツン

コロナウイルス流行の昨今、警察も忙しい。

特に、生活安全課は、苦情だ、タレコミだ、三密回避の声掛けだ、やることはいくらでもある。

我が湾岸署も例外ではない。

当直の夜、鮫島課長に声をかけられた。

「藪巡査長、これより、特別警らに行くぞ」

「はい、でも、どこも外出自粛で、普通の警らで足りるはずですが」

「そうでもないんだよ、ビックサイトでコミケやっているだろうが」

「あれは、コロナ禍で中止になりましたが」

「昼間の方はな、でも夜の方はやっているんだよ」

「夜の方?コミケは16時で終わりですが」

「まあ、行けば判る。」


「誰もいませんよ、おや、何人かいるぞ。あっ、逃げていくやつがいる」

「徹夜組だろうて。後で捕まえてお灸をすえてやろう」

と、二人で話していると、コミケ98の帽子腕章のコミケスタッフが来た。

「ご苦労様です。いつものようによろしくお願いいたします。湾岸署の鮫島と藪です」

「こちらこそよろしくお願いします、コミックマーケット陰陽部の小野と申します。中止なのにご苦労様です。」

「いえいえ、徹夜組が少ないだけ、マシですよ。おや、霊界さんが来た」

向こうから、女性のコミケスタッフが来る。

「こんばんわぁ、よろしゅうお願いいたしますぅ、霊界コミックマーケットの聖護院と申します。」

「あのー、霊界コミックマーケットとおっしゃりましたが、何かしら違いでも」

と聞こうとすると、後ろから声がかかる。

「こちらの方は、初めての方ですな、実は、あの世や妖怪の世界にもコミックマーケットがありましてな。これを霊界コミックマーケットと言い。毎回人界のコミックマーケットと同じ場所で夜に行われているのですよ。ただ今年は昼の部は悪疫流行で中止なので、変則ですが、死者や妖怪は悪疫は関係ないのですから霊界コミケは開催されるのですよ」

「そうなのですか、知りませんでした。もう死んでいるので病気にはなりませんね、」と藪巡査長が振り向くと一匹の中型犬。

「おや、犬だ」

「犬とは心外」

「犬が喋った」

「犬ではない、狼じゃ、えいっ」と犬もとい狼が神官姿に変化した。

「わあっ」

「わあっ、ではない、我こそは御嶽山の眷属にして次郎と申すもの。以後見知りおくが良かろう」

「申し訳ございません、という事は聖護院さんも」

「我は、京の都、聖護院に住まう辰子と申すもの。我が宿を京の民草は御辰稲荷社と申す」

「お稲荷様でしたか、申し訳ございません。」

「さて、霊界コミケの話の続きじゃがの、ヲタクも人の身、いずれは死ぬるし、死ねば霊となる。霊となっても、楽しみを忘れぬ者が多い、それらが集まってコミックマーケットを開くのよ、それに、我ら眷属変化妖怪の類が合流して霊界コミケが出来上がったのじゃ」

「霊の参加者は現世の人には見えぬ、ところが変化の類は人に見える。そこにおる見えている参加者は、狐狸獺河童の類が変化したものであろうて」

「お互いに見える故に、トラブルも起こる、そちらの徹夜組の様にこちらにも徹昼組がおり、悪さをするものもおる」

「故に、共同で警備もするし、お互いにスタッフを行き来させておるのよ。小野氏の様に陰陽道を心得たスタッフや霊能者スタッフがそれに当たっておる」

「警察も同じじゃ、閻魔庁より牛頭馬頭赤鬼青鬼など獄卒の方々が来られる」

「それは、おっかない」

「おっかないではない、同業者であろうが」

「あのう、私、コスプレして参りますので、少し場を離れまする」

「我とは違って、女性は、人前で変化を好まぬ、御辰殿の様な妖狐ならなおさらじゃな」


やがて22時になると、ビックサイト全体に電気が灯る。何やら大勢が動く気配があるが、人の姿は多くは見えない。

「開場じゃの、では、小野殿、鮫島殿、藪殿、仕事にかかろうかの」

と次郎殿が話していると、いきなり人が降ってきた。

「いてて」

「あっ、さっき逃げた徹夜組」

見れば未成年。

「捕まえて来ましたよう、後はよろしく」と上空を見上げると人ぐらいの大きさの大鴉ならぬ山伏姿の烏天狗。

「おう、高尾山の御眷属衆じゃな、ご苦労でござる」

「どういたしまして!」

「これから、スタッフステーションに引き渡してお灸をすえてやるから覚悟しやがれ、それともあっちのスタッフに六道輪廻に連れていかれたいか」

「お巡りさんもいるぞ、湾岸署に一泊したいか」

「ごめんなさい」と徹夜組泣きだす。

「遅くなりまして」と御辰稲荷様。露出系のコスプレをされておられる。

「アヌビス神の女体化でございますよ」

「綺麗なレイヤーさんだ、後で写真を」と徹夜組。

「懲りない奴だ、こっちのレイヤーさんはおっかないのだぞ、変な事をすると東京湾で入浴したり、泥団子かじる羽目になるぞ」

「とりあえず、この馬鹿をスタッフステーションに放りこんでから、巡回いたしましょう」

「場内はともかく、防災公園の方には、こういう馬鹿がいそうですからねえ」

と、一同巡回に出るのでありました。









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