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還流の勇者伝説  作者: なつき
薔薇の都
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地方都市『フラントロス』

亡びた都市フラントロスを進む二人。

みさきの身の上話を聞きながら出口を目指します。

 フラントロス――。


 かつてこの地方都市にとある疫病が蔓延し始めた。全身に紅い血の斑点が浮かび上がり、やがて死に至る病……。その様子はまるで『薔薇の花束を抱えている』ように見えた事から。この都市は『薔薇の都』と呼ばれて、病が伝染しないように街道を封鎖され孤立した。


 ある日その街に、白魔導士の少年がやってくる。まだ十歳にもならない白魔導士の少年は献身的に街の人達を救った――。




「――それがこの『薔薇の都』のお話よ」




 みさきはルーティスと先を目指しながら、この都市の謂れを話す。




「お姉さんお話上手いね! 吟遊詩人(トルバドール)の資質もあるね!」




 ルーティスは満面の笑みで喜んだ。




「そりゃ私はクラウンだからね? 芸術一般は色んな事ができなきゃ怒られるわ。ところで貴方は?」




「僕はルーティス、ルーティス・アブサラスト。白魔導士なんだ」




「へぇ~、白魔導士さんか~。この都市に訪れた子と一緒だね!」




 みさきはくすくすと笑う。


 ――この子がいて本当に良かった。みさきはふっと笑みを浮かべる。座長や皆の遺体を見たとき哀しかったけど、この子がちょっとずつ励ますように話しかけてくれたから。今では少し、大丈夫。みさきはそう感謝していた。




「……そう言えばみさきさんって『タカマ人』っぽい気がするんだけど?」




 いきなりルーティスが尋ねてくる。




「うん、タカマ人だよー」




 みさきはあっさり肯定。




「タカマ国の北の方、雪国出身なんだよ♪」




「どうしてこっちの国に来たの?」




「内乱で鉄砲の火薬代金の代わりに奴隷として売られちゃったのよー」




 いやー参った参ったと朗らかに頭をかくみさき。内容はちっとも朗らかではない。




「……内乱? タカマ国で?」




 眉をひそめるルーティス。




「そーだよぉ」と肩をすくめるみさき。




「私が売られた時は鉄砲が伝わってきたちょうどその時でさー。内乱が始まった頃だったの。だから天下統一して国を創る為に鉄砲と火薬が大量に必要でね、私も奴隷として売られちゃったのよー」




「……今度はタカマ国に行こうかな?」




 ルーティスは厳しく眸を細めて、そう呟いた。




「ところでルーティス君?」




「はい、何ですか?」




「この薔薇の都になんの用事? 私は単に迷い込んだのだけど、貴方は何か別の用がありそうだね?」




「あー……、うん」と歯切れ悪そうにルーティス。




「……ここの亡霊達を、浄化しに来たんだ。白魔導士だからね」




 そっか、みさきは小さく呟いて、




「大変だね」




 と付け足した。




「……よくあることさ、こんなのは」




 立ち止まったルーティスの、天を仰いだ呟きは。どこまでも物悲しそうな、まるで深い闇の底に吹く渇いた風を帯びている事に、みさきは気づく。その様子は、何か大切なものを奪われたようにも見え。荒涼とした廃墟に流れる風が、さらに彼の世界に刻み込まれた哀しみを増幅させていた。




 ――この子はただの少年じゃないのかも。みさきはそう直感する。




「……嫌な奴が棲んでいるね、ここ」




「へ?」




 みさきの間の抜けた声の奥、その常闇の彼方を睨むルーティス。刹那、ルーティスは駆けてみさきを押し倒した。




「えっ? ちょちょっとルーティス君?!」




 慌てて叫ぶみさき。しかしその声が終わる前に、ルーティスの真上を巨大な刺付き鉄球がかすめてゆく。




「鉄球騎士……。厄介だね」




 起き上がって肩をすくめるルーティス。その視線の先には、鎖の付いた鉄球を振り回す甲冑が仁王立ちしていた。


 再度鉄球が、ルーティスの方に向かってくる。ルーティスとみさきは互いに別々の方にかわして逃げた。




「みさきお姉さん!? 危ないよ!!」




「んん、大丈夫! 私だってちょいとばかりは戦えるからね!!」




 言うが早いか、みさきはナイフを二本投げた。曲芸じみた戦闘スタイルはクラウンの基本。


 しかし……。




「効果、うっすいね……」




 みさきは苦虫を噛み潰す。ナイフの内一本は甲冑に当たって弾け跳んでしまった。残り一本は兜の隙間から目に当たった筈だけど……。相手は全く堪えてない。




「みさきお姉さん! あれは影の魔物だよ! 普通にナイフを投げたって効かないさ!」




 ルーティスはそう叫び、魔物へ突撃する。鉄球の猛進をくぐり抜け、ルーティスは白い光を右手に集めてぶつけた。


 浄化の光だった。ルーティスは甲冑の中にいた影にそれを送り込んで消し去った。




「ふぅ、嫌な奴がいるよ」




 一息ついて、ルーティスはみさきの方を向いた。




「みさきお姉さん、大丈夫?」




「え、えぇなんとか……」




 みさきは呟きながら、紳士的に差し出された少年の手を取ったのだった。

やっぱり暗いです。

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