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第3話 二度目の測定。

あれからまた季節は巡り。

ハーシィーは三歳の誕生日を迎えた。


とうとうこの日が来た。


壁に掛けた暦表を見て、ぎゅっとハーシィーは手を握り締める。


毎年、王国の各領にある魔法士ギルドにて、その年三歳となる子供を集めてその子にどんな才があるのかを測る行事が執り行われるのだ。

才があり、有用な属性を持つ事が解れば将来は安泰。

これは貴族も平民も義務付けられているので、親も子も家族皆この時期は街中が浮足立っている。

かくいうここ、リングドット辺境伯領の中で一番の規模であるこのリエッタの街も例外ではない。

触れが出され、行事の行われる一日は出店もあり、街がにぎわうのだ。


「前は才なしとされたけれど…今回はどうなるのかしら」


ぽつりと呟いたハーシィーは部屋の窓から街を眺めてベッドへダイブした。

ぽすんとベッドが音をたてる。もしここにハーシィー付きの古参のメイドがいれば「はしたないですよ」と窘められただろう。今は丁度そろそろ昼の三時を迎える刻限という事でおやつの準備に席を外している為、ハーシィーはベッドで寝転がり仰向けになってぐぐっと背筋を伸ばした。


「不思議、と思うわ」


現在、ハーシィーは八属性すべて使える事が判明している。

家族もそれは知っているし、むしろハーシィーの才を伸ばし自身の持つすべてを教えようと、日々忙しいはずなのに、合間を見つけては、いや、時間を作ってまで稽古と勉強をつけてくれるのだ。

むしろ三歳となったハーシィーの呑み込みの速さに『ハーシィーは優秀すぎる!』と親馬鹿全開で褒めちぎり、嬉々として、競う様にハーシィーとの時間を作ってくれる。

そのおかげで四大属性はほぼ初級のものから上級までは一通り使えるようになってしまった。


今もふよふよとハーシィーの周りには球体が漂っている。

見るものが見ればあまりにも繊細で高等な制御技術に驚きを隠せぬほどの代物だ。


「これだけ使えるのだから、才なし、ではないと思うのだけれど」


ハーシィーは、ふぅ、と息を吐き出した。


所が。


結局変わらないのね。


ハーシィーはただそう目の前の光景に諦めにも似た感情を抱きそう思った。

そう、結局ハーシィーは才なしとされたのだ。

ハーシィーと同じく今年三歳になる子供達やその家族が集まったギルドの集会場の場で、辺境伯の娘という立場のハーシィーが一番最後に水晶に触れて。


触れた水晶は光もせず、色もない。

通常、才があるのならばその才に応じて光の強さが変わり、適性があればその属性の色に水晶が染まるのだ。

ハーシィーの前にも何人もの子供達が水晶に触れて、青く強く輝いた子や、赤が強く黒い色の光が弱く輝いた子もいた。中には四大属性の色である赤青黄緑が弱いながらもそれぞれちかちか瞬きながら輝きを放つ子もいて、今年は将来有望な子が多いと、周りはざわめいていた。


しかし、ハーシィーが触れた時、水晶には何も変化が起こらなかった。

それが何を意味するのか。

つまりは才が無いという事だ。

周りはざわざわと騒がしい。

辺境伯の娘故に他の貴族からそれがどういう意味を持ち、どう見られるか。この場には味方となる貴族ばかりでなく敵となりえる者たちだっている。何時だって隙を見せてはならない。

だからこそ才が無いと断じられたハーシィーは格好の標的となりうるのだ。

貴族の、しかも辺境伯という高位の貴族の娘が才なしとは、と貴族の大人達は嘲笑い、子供もそれを見て嗤っている。


だがしかし。


そんな光景をちらりと見回して、ハーシィーは息を吐き出した。


くだらないわね。


過去、この場で今の様に嘲笑されて、その場にいる事が耐えられずに泣きだし逃げ出した事を思い出したハーシィーだったが、今の自分は魔法が使えるのだ。

つまり才なしではない。

ハーシィーの事を知らない者達からの嘲笑など、なんら感傷に浸る事もないと思えるのだ。

それだけの心構えはもうとっくの昔に出来ていた。


それに。


「この水晶は壊れているのだろう。ハーシィーが才なしとはありえぬからな」

「ええ、まったくその通りですわね。不良品ですわ」

「ほれ、早く壊れておらんものを持って来ぬか」


ギルドの職員の一人に詰め寄っている両親に祖父、その後ろでにこにことしかし目は笑っていない祖母を見てしまっては、冷静にならざるを得なかった。

これは自分がどうにかしなければ、と声をかける。


「お父様、お母様、おじい様、それにおばあ様も。私は大丈夫ですから。それよりもそのように迫ってはギルドの職員の方がかわいそうですわ」


こちらはまがりなりにも辺境伯。

辺境伯の不興を受ける事になれば、どうなるか。ギルド職員の顔は青ざめているし冷や汗だろうかしきりにハンカチで顔や首筋をぬぐっているし、目尻に光るものが。

ハーシィーから見てあまりにも可哀そうだったのだ。


両親祖父母共に『ハーシィーがそう言うのであれば』としぶしぶ納得はしてくれた様でギルド職員から距離をとってくれたので安心するハーシィーであった。

そしてようやく辺境伯からの圧が解かれたのか、ギルド職員がたどたどしくも口を開いた。


「も、申し訳、ありません!しかし、この水晶は、他のお子さんも使用されたもので、今まではなんら問題となった事は無くてですね…壊れているとは到底……」


確かに。

それはハーシィーも思った事ではある。


才を測るのに使用される水晶はとても価値のあるものだ。

魔法士ギルドに大切に保管されていて、何か細工をしたり不正をしたりという事が出来ないし、そもそもこの水晶自体が昔に作られたもので当時いたという最高峰の各属性持ちを集め水晶に魔法を込めたとも言われているがきちんとした記録は残っていない。故に今ではどんな原理でこの水晶が動いているのか確かめる事も出来ない。

しかしながら今までずっとこの水晶のおかげで魔力が安定すると言われている三歳に才を調べる事が出来るようになり、人材の育成や確保で恩恵に預かってきたのである。


確かに問題といった事が取り立たされた事など一度も聞いた事がない。


しかし思い返せばこの現状こそがありえない事という事にハーシィーは思い至ったのだった。


通常であれば、魔力を用いて魔法を使えるようになるのは三歳から、と言われている。

それは魔力が安定すると言われているのが三歳であり、だから才を調べるのも三歳からと決まっているのだ。

けれどもハーシィーは違う。

もうすでに赤ん坊の頃から魔法を使っていたのだから。

一度目は確かに才なしとされた。あの時は魔力というものを感じた事すらない。大抵の子供は三歳のこの行事で自分の才を知り、それから自分の魔力を感じる事を知る事から初め、才のある魔法の修練に励んでいく。

ハーシィーは才なしとされたから、魔力を感じる事を知る事も何もなかった。

いや、しなかった。諦めていたから。


それがそもそも間違いだったとするのなら。


本来ハーシィーに才はあったのなら。


そこまで考えてハーシィーはふるりと頭を振った。

もしたらればの話を考えても仕方がない。

だが事実として今のハーシィーは才なしではないのだ。それはきちんと記録に残しておいてもらわなければ困る。今後の事を考えても。


「確かに壊れてはいないのかもしれません。けれど私はもう魔法が使えるのですが…」

「えっ?!」


ギルド職員はハーシィーのその言葉に驚いていた。

しかし、辺境伯もいる中で迂闊な事は言えないと口を噤む。賢明な判断だったろう。まだ周りにはひそひそとこちらを窺う貴族が多数いる。もうすでに最後の測定が終わったと帰った者達もいるが。

そのギルド職員はハーシィーの後ろに佇む両親祖父母と目を合わせて、ふぅ、と息を吐き出した。


「……解りました。それでしたら人払いをさせますので、こちらに来て頂けますでしょうか」


そうしてギルド職員は先導して歩き出し、ハーシィーは慌てて一歩を踏み出した。




ストック分、これにて終了したので、これからまたコツコツ続きを書いていきたいと思います。

書き上がり次第アップしたいと思いますのでお待ち頂けますと幸いです。

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