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第24話 戸惑い、彼女にとっての恋や愛とは。


これは一体どうなっているのかしら?


戸惑いを多分に含んだ疑問がハーシィーの頭に浮かんでは消えていった。

無理もない。

今ハーシィーが置かれている状況は客観的に見れば疑問符が浮かんでも仕方のないものだった。何故ならハーシィーは今、出会って数分になるであろう偉丈夫に抱きとめられているからである。


この状態となったのは唐突だったと言えるだろう。


目と目が絡んで見つめ合っていた、のはもちろんハーシィーは自覚していた。胸が高鳴り、こんな事は初めてで、そこに戸惑ってもいたのだから。

どれくらい時間が経過したのか、それとも見つめ合っていたのは一瞬だったのか、判断はつかないが、不意に偉丈夫がハーシィーに向けて微笑んだのだ。

魔王の様な姿形をしている偉丈夫であるが、ハーシィーを見るその瞳はとても柔らかく温かで。その顔に浮かんでいたのは、ただただ嬉しいと、一目で解る微笑みだった。


何故そんな顔で私を見つめるの?


ドキリと高鳴る胸をきゅっと両手で押さえてハーシィーは顔を朱く染める事となった。

その次の瞬間には、いつ移動したのかハーシィーの元にやってきた偉丈夫の腕の中に抱きとめられていたのである。


家族からなら抱擁された事はある。けれども他人にこんな風に抱きとめられる事など、未来であった過去においてさえ、ハーシィーの記憶にはなかった。

けれどもどうしてだろうか。

ハーシィーはとても不思議な気持ちになっていたのだ。

懐かしい、と。

何故かは解らない。けれども膝立となった偉丈夫に抱きとめられ、ハーシィーはそう思ったのである。拒絶するのではなくするりと自分からその背へ手を伸ばして届かないながらも抱き返してしまったのも、それが自然な事だと思えてしまう程に偉丈夫を求めていた。


あぁ、生きている。


そう目をつむりホッとした事も、ハーシィーはどこか当たり前に思っていた。

出会ってほんのわずかの時間の筈なのにそんな事を思うなんて、と頭では解っている。

けれどもそうではないのだ。


もしかしてこれが一目惚れと言う事なのかしら、とハーシィーはふと考えてしまう。

未来であった過去の、王子へ向けていた思いとは明らかに違う感情。

過去へと時間を巻き戻った事で、ハーシィーは自身の事を少しずつ振り返る事もしていた。だからこそあの時と今との感情が違うのだと思えるのだ。


あの時は他者からの目をとても気にしていた自分。

陰口を言われてずっと邸に引きこもって。そんな時に参加する事となったお茶会で出会った王子は、まるで物語に出てくる『王子様』そのもので。周りの大人達も子供達もその『王子様』を羨望の眼差しや尊敬の眼差しで見つめていて。だからこそ輝いて見えたし、この人なら、自分を幸せにしてくれるのだと思い込んのだ。

この人でなければだめなのだと。

どうしてあんなにも頑なにそう思いこんだのか。

『王子様』を心の拠り所にして頑張って、その結果があの惨劇だ。


だからもうハーシィー自身は恋や愛なんてしないと、いや、出来ないと思っていた所はある。誰かを恋して愛して、そしてまたあの惨劇が起こったらと臆病な事を考えてしまう事もないわけではなかった。

未来であった過去は変化しているのだが。

ハーシィーにとっては恋や愛というものはどこか他人事であり、一種のトラウマと化している。


それなのに、この偉丈夫相手にはそんな気持ちは湧いてこないのだ。

ただただ相手を求めてやまないこの気持ちは――。


それでもずっと―――ハーシィーの感覚的にはだが、抱きとめられていればどうしてこの状態でいるのかと疑問が浮かんで仕方なかった。

そもそもこの偉丈夫はなんなのか。いや、誰なのか。

元々は男の子であったのに、どうして偉丈夫へ成長したのか。

周りの時間が止まっている事も気になる。

聞きたい事は色々あった。


その為には一度身体を放して話し合わなくてはと考える。けれどどうしてもハーシィーは離れがたく思ってしまうのだ。

背に回した手を外す事が出来ない。


そんなハーシィーに気付いたのか気付いていないのか。偉丈夫はハーシィーを抱きとめる腕を緩めた。ただ緩めただけであるがそれからそっとハーシィーの肩へ手を置いて身を離し目線を合わせる。


「………ハーシィー」


ぽつりと偉丈夫の口から漏れたのはハーシィーの名だ。

どうしてハーシィーの名を知っているのだろう。会った事があっただろうか。名乗った事があっただろうか。それともこの偉丈夫がただハーシィーの名を知っていたのだろうか。

どれも違う気がしてならなかった。

会った事もない。名乗った事などない。

ならば何故偉丈夫はハーシィーの名を知っていたのか。


「どうして、私の名を?」


疑問はぽろりと口に乗る。

ハーシィーの当たり前のその疑問に偉丈夫はどこか泣きだしそうなほどでけれども嬉しそうで。次の偉丈夫の言葉でハーシィーは驚いてしまった。


「いや、まさか今世でも『ハーシィー』という名だったなんて知らなかったんだ。その辺りの細かい事は全然教えてもらっていなくて」

「え?」


呆けた様な声が出た。その言葉の驚きから後半の言葉はハーシィーの耳からするりと流れていった。


今世。

今世と言ったのか。


この人は、一体?


「すまない。驚かしてしまっているよね」

「え、あ……」


そっと頬に触れる大きな手に、ハーシィーの心臓はドキリと高鳴った。


「俺の、ああ、いや…私の名は、ハルト。ハルト=ワトアイト。小国家群の中の一つ、ワトアイト王家に生まれて、前世は日本という国で生きていた記憶があって、その前は、この世界で、ティト、という名で生きていた記憶があるんだよ」



閲覧・ブクマ・評価と頂き有難う御座います。

また続きを投稿したら読んで頂けましたら幸いです。

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[良い点] 出来れば続きが読みたいです。
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