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第1話 目覚めと決意。


目を覚ましたらそこは知っている場所だった。

彼女はそれにどれ程驚かされた事だろう。

何故なら彼女の最期の記憶は紅にまみれたものだったから。

それが目を開けたら懐かしい屋敷の天井を見る事になるなんて。

あまりにも懐かしすぎて、彼女は声を上げて泣き始める。


「あらあら。お腹がすいてしまったの?ハーシィー」


そんな時に、彼女をハーシィーと呼んだ声に、彼女は 嘘 と思考が止まってしまった。

ひょっこり彼女を覗き込んだのは、彼女が幼い時に死んだ母親だったのだから。


「う、あ…」

「うーん…お腹が減ったわけではないみたいだし、おしめも…どうしたのかしら?」


そう言って彼女をひとしきり構い倒した母親は部屋を出ていった。

静かになった部屋でようやく彼女は思考し始める。


死んだはずの自分。

最期に願い祈った事。

目覚めた場所。

死んだはずの母親の腕に抱かれた、自分。


おそるおそる手を持ち上げて視界へ入れる。

そこにはぷにぷにの手があった。

どこからどう見ても赤ん坊の手だ。

これの持ち主は?

答えは解りきっている。

自分以外にいない事は。

「あ、ぅ」

言葉にしようとも出てくるのは意味のない、言葉にならないかけら達。

今この部屋にはハーシィーしかいない。

赤ん坊の、この声の主は、ハーシィー自身。


それらをまとめて考えたら、信じられる事ではないが、答えは一つだけだった。


彼女は時間を巻き戻ってしまったのだ。

また、ハーシィー=リングドットとして。


時間を巻き戻すなど、あまりにも高等魔法の類だ。

信じられるものではないが、目の前に広がるのは信じるしかない光景ばかり。


では一体誰がハーシィーを巻き戻したのだろう。


あの場にはそんな高等な魔法を使えるものはいなかった。

そうハーシィーは考える。


時間を司る属性を持っているのならそれこそ王宮に仕える魔法士としてスカウトされ、高待遇を約束されるし給金もかなりの額となるだろう。

王宮に勤める事は一種の憧れ。誉れでもある。

そんな人物が辺境に?ありえない。


魔法、というものはまず、地水火風の四大属性がある。

それから光や闇といった属性があり、四大属性と比べると使える者は限られる。

さらに空間属性が知られていて、アイテムボックスという収納に便利な魔法を使える者がそこそこいて、他にも行った事がある場所になら空間を利用し移動などもできるものがいるという。

こちらも働き口には困らない。というよりも争奪戦が起こる。色々な場所からスカウトされる事は間違いなく重宝されている。

けれども時間を司る属性なんてさらにレア。

何百年も前にいたと何かの本で読んだ事があるが、その人物は少しだけ未来を見たり、過去を巻き戻したり、アイテムボックスに魔法を付与して時間を止める事もできたという。

その時代に作った、アイテムボックスに時間停止の機能が付いた収納に限度のない鞄は国宝に指定されているし、そうではない小さいものですら高額で取引されているとか。

その時の王に仕え、終生国の為、民の為に最善を尽くしたとか。

誇張されたものかもしれないがそんな逸話をハーシィーは本で読んで知っている。


故に、あの森にそんな貴重な属性持ちがいた筈はないとハーシィーは考えるのだ。


だからこそ、信じられる事ではないが一つの結論に辿り着く。

ハーシィー自身がそれを行使した、と。


ハーシィーは三歳の時に、魔法の才を調べる水晶で才なしとされた。

どの属性もハーシィーには扱えない、と。


才、とは読んで字のごとく才能を指す。

魔法の才能の事であり、魔力の有り無し、強さ、そしてその魔力を魔法に変換して自在に使えるかどうか。

それを水晶が判別する。

普通は一つ。多くはないが二つや三つ、さらに才能があると四つの属性を扱える者もいるというのに。

あの時の事は嫌でも思い出す。思い出してしまう。

散々他の貴族からは蔑みの対象とされ屋敷に引きこもるようになったが、魔法自体に興味のあったハーシィーは初歩からそれこそ上級の魔法書を読みふけり知識はあった。


もしかしたらあの死の瞬間に何か奇跡でも起きたのかもしれない。


そう、物語の主人公のように。


そんな事は、あるはずない、と、知っているが。


だから、ハーシィーは軽い気持ちで考えていた。

使えたら、良いのにな、くらいで。

ずっとずっとそう思ってはいた。魔法書を読んでいた時も。けれどもそれより先に諦めていた。才がないと断じられたから。いつもいつも、虚しさがそこにあった。


だから。

もしかしたら、と期待が無いわけではなかった。


ちょっと部屋が暗いから、少し明るくなるかしら、と。

そんな事が出来たなら、素敵ね、と。


結果。

屋敷の一角から光が溢れた。


人どおりに面した部屋でなかったのは幸いだっただろう。

でなければ今頃街中大騒ぎとなったに違いない。

一体何事だと両親祖父母、騎士達もハーシィーの部屋にやってくる屋敷中の大騒ぎとなってしまったが。


「一体、何事だ?!まさかハーシィーを、私の可愛い娘を狙った賊か?!」

「あなた、すぐに索敵を。まだ賊が潜んでいるやもしれませんわ」

「いいか、絶対に逃がすんじゃないぞ。私の可愛い孫に怖い思いをさせた報いを受けさせねばな」

「解っております!お嬢様を狙った賊を侵入させてしまった…我ら誇り高きリングドットの騎士として必ずや汚名を返上致しましょう」

「期待していますよ、お前達」


なんてやり取りがハーシィーの枕元で行われている。

あまりにも自然にハーシィーへの愛情を言葉にしてくれている事が嬉しいが、しかし、いもしない賊に話が飛躍している事に、とても困ってしまった。

どうにか先程の光は、自分が出したものだと解ってもらうにはどうしたらいいのか。

だからハーシィーは先程よりも弱めの光を意識して、光の玉を生み出した。

「あぷっ!」

声を出して部屋に集まった全員の注目を集めてから、指に光を集めて浮かべると、それを見た全員が別の意味で大騒ぎとなった。


「なんと!まさかハーシィーには魔法の才があるのか!!」

「まだ赤ん坊ですのに…凄いわ!光を扱えるなんて、もしかして将来は王宮魔法士も目指せるのではなくて?!」

「ほぅほぅ、これは私の出番かな。じぃじが魔法を教えようかのぅ」

「あらいやですわ、あなた。魔法なら私が教えます。ハーシィー、ばぁばが貴方の才を伸ばしてあげるわ」


ハーシィーのいるベッドに集まって、両親祖父母と大興奮だ。

賊の事は忘れてくれた様で助かった。

騎士達も「先程の光はまさかお嬢様が…」「将来こんな素晴らしい才能をお持ちの方にお仕え出来るのか」と呟きが聞こえる。


そうしてなんだかんだとハーシィーを構い倒して、全員が部屋から出ていった。


静かな部屋。

ハーシィーは指先に意識を向ける。

そこには光の玉がふよふよと浮かんでいた。


魔法が、使える。


才が無いと思われていたのに、違うのだ。

ならば、今度は、今度こそは、間違えない。間違えたり、しない。

やり直せる。


きゅっと手を握りこむ。


ハーシィーはまだ赤ん坊で、まだまだ知らなければならない事もやらなければならない事も多いだろう。

その為の、力をつけよう。


ハーシィーは決意を固めるのだった。


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