第16話 魔法具設置。
さて、そんなこんなでネルフェによる『それ』の確認も問題なく終わり、『それ』は邸の玄関ホールへ設置された。元々この玄関ホールに置かれていたものである為に違和感なく邸に溶け込んでいる。
リングドット家の玄関ホールというより設置可能な場所には、歴代当主が集めたもしくは贈られた骨董品・美術品の類などが置かれているのだが、イジェットやダンはそこまでこういった物には興味がない。
貴族としてはある程度の見栄は必要なのだろうが、こんな物にお金をかけるくらいならば、領内の修繕費や整備費に充てる方が良いだろうと考えている。
現在そういった事もあり、骨董品や美術品の類はフェルドが一括して管理している。長年リングドット家に仕えてくれているフェルドのおかげでスムーズに準備は整った。
「実際に設置して稼働させてみたのだけれど、毒はもちろん麻痺も含め状態異常になる様なものには作動したし、父上に協力してもらった結果も、大丈夫だったよ!」
弾むような声音でそう告げるネルフェは大興奮だ。
クミシィの妊娠が発覚し、ダンから執事やメイドを雇うと言われて今日で五日が経った。早くても一週間と言っていたから設置まで間に合って何よりである。
結果が良好という事でハーシィーとしても嬉しい所ではあるのだが、告げられた内容にある『父上に協力してもらった』という所でどんな協力をしてもらったのか尋ねるのが怖い。
ただネルフェはさらりと話してしまうのであるが。
「いやぁ…やっぱり久々の実戦さながらの訓練は良いね。昔に比べたら随分私も強くなったとは思うのだけれど、流石に父上にはまだ敵わないし…。でも私の邸に足を踏み入れた瞬間に鳴り出すものだから、流石の父上でも奇襲は出来なかったんだよ。父上は色々なモノに造詣が深いから最初の奇襲が防げただけでもその後の対処が格段に違って楽になるんだ。本当に性能が優れてる魔法具だね」
うんうんと頷き満足気なネルフェであるが、ハーシィーはネルフェとフェルドの実戦さながらの訓練というのと、フェルドによる奇襲とは…と思わずにはいられなかった。
ただハーシィーの後ろに控えているイジスは何か解っている様で、ぼそりと「あぁ…フェルドさんの奇襲を防げるって凄いわ」と遠い目をして呟いていた。
顔には出さないがハーシィーの中で、フェルドはそんなに強いのだろうか…?とフェルドへの不思議度が増していくのだった。
そんな会話をしていた時だ。
玄関ホールの扉が開き、外から中に入る太陽の光。
颯爽と邸に入り立っていたのはダンと、その傍らにはフェルドがいる。どこかに出掛けていたのだろう。玄関ホールにいるハーシィーとイジスそれにネルフェに気付いたダンが目を瞬かせてハーシィーの元へ駆け寄り目を合わせる様にしゃがみこんだ。
「ハーシィー、どうしたんだい?この時間に邸の、それも玄関ホールにいるなんて……今日はネルフェ殿と授業の筈では?」
ダンの言う事はもっともである。朝の食事が終わった後の予定の確認では、確かにハーシィーの今日の予定はネルフェとの授業で出掛けるという事を伝えていた。
いつものネルフェとの授業であれば、この時間ならばまだ邸に帰っている時間ではない。
「はい、今日は作成した魔法具を設置する為戻ってきましたの」
「魔法具?玄関ホールにかい」
ダンはしゃがみこんだままの姿勢でフェルドを振り返り見上げる。フェルドもダンの言いたい事が解ったのだろう。
「お嬢様が、先日魔法具の付与の授業の為に魔法具の素体として何かないかと相談されましたので、邸の調度品でそれ程重要でなく壊れても良い物、ならびにどこにあっても違和感を抱かせない様なものをお渡ししました。なお御報告していなかったのは、調度品に関しては現在私預かりとなっている事でありました故」
「ああ、フェルドの采配には文句はない。だが、どういう意図の魔法具を作成するのか聞いて渡しているだろう。それもこの玄関ホールに設置しても問題ないという前提でだ。おおよその推察はつく。警戒、かな…」
流石はダンと言ったところか。説明されるでもなく、この玄関ホールにいたハーシィーやネルフェが設置した魔法具の、ある程度の意図は察したらしい。
「お父様、あの、フェルドを叱らないでやって下さいませ。きちんと準備を整えてからご報告したいと思っていたので、それを理解してフェルドは黙ってくれていたのです」
ハーシィーの取りなしに、ダンは息を長く吐き出した。ダンは怒っているのではないのだ。ただ娘が自分に何か秘密にしているという事実が悲しかったのである。態度としてはどうしてもその秘密を知っていたフェルドに対して硬くなり怒っている様に見えてしまうのであろうが。
「では、話してくれるかい?」
「もちろんですわお父様」
ハーシィーとしては話す事に否やはない。元々話すつもりでいたのだから。
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