序章 転生
これは、勇者から一転、魔王と呼ばれる男の物語である。
俺は、かつて勇者と呼ばれていた。
まずは、俺が勇者になったいきさつから、話さなければいけないだろう。
そもそも俺は、この世界の住人ではなかった。
俺は日本で普通のサラリーマンとして働いていた。
当時は29歳だった。
仕事が終わって家に帰ってる途中だった。
横断歩道で信号待ちをしていると、向かいから20代ぐらいの女性が歩いてきた。
彼女はスマホに夢中だったようで、赤信号に気付かず歩き続け道路に出た。
そこに1台のトラックが走ってきたが、運が悪い事に運転手も脇見をしてたようで減速する様子がない。
俺は、咄嗟に道路に飛び出し彼女を突き飛ばした。
彼女は、転んだが助かったようだ。
俺の記憶はそこで1度途切れた。
気が付いた時には、右も左も上にも何もない暗い空間にいた。
すると突然目の前に光が現れ、俺は眩しさに目をつぶった。
光が収まり目を開けると、そこには髭の長い爺さんがいた。
『目が覚めたようだな。我が名はゼウス』
爺さんはそう名乗った。
『ゼウス?俺の記憶ではギリシャ神話の神様の名前ですよね。』
『それよりここはどこなんですか?貴方は何者なんですか?』
俺が質問をまくしたてると、ゼウスはそれを制し、こう言った。
『お主の予想通り、我は神だ。お主は死んだのだよ。』
死んだ?
何を言ってるんだ、この爺さんは。
俺が混乱してる中、ゼウスは話を続けた。
『記憶が混乱してるのは無理もない。突然死んだ人間は皆そうだ。』
『お主は己の危険を省みず人を助け、死んだ。』
『なかなか出来る事ではない。よって、お主には転生の機会を与えよう。』
何だこれ。
よくマンガとかアニメに出てくる異世界転生ものみたいな話の流れだ。
『転生と言うと、どっかの世界に生まれ変わると言うことですか?』
話を鵜呑みにした訳ではないが、今の状況がよく分からない以上ゼウスとやらと話をして、情報を引き出すしかない。
『その通り。転生+願いを1つ叶えてやろう。』
願いを1つか。
また、曖昧な言い方だな。
『ちなみに、転生する世界はどんな世界なんですか?』
ゼウスは、溜め息をつくと答えた。
『お主は質問が多いな。 剣と魔法とファンタジーのような世界と言えばわかるか?』
『お主の世界で言うところの、よくあるRPGゲームと言えば想像つくだろう。』
『ちなみに、願いは何でも良い。』
なるほど。
本当に異世界転生もののようだ。
『分かりました。なら、最強の肉体が欲しいです。ゲームで言うところのチートキャラって奴です。』
『肉弾戦が強く、魔法も全部使えて、簡単には死なない存在です。』
ゼウスは腕を組んで、唸りながら考えていた。
『分かった。お主の望むようにしよう。ただし…』
ゼウスは一呼吸置き、こう言った。
『あまりにも強大な力は災いを呼ぶ。くれぐれも力を乱用するな。』
俺はこの時、ゼウスの言った言葉を深く考えていなかった。
『分かりました。』
俺がそう返事をすると急に眩い光に包まれ、意識が途絶えた。




