オカンVSせんたっき
ワシは洗濯機。
この家のみんなから”せんたっき”と呼ばれている。
毎朝、この家のオカンが慌ただしくワシにタオル類をぶっこむ。
そしてお急ぎコースのボタンを押す。
ワシも慌ただしくタオル類を洗い、すすぎをして、脱水する。
たまに洗剤量が多い時、すすぎをちゃんとやらんかったらオカンに文句を言われる。
この前なんか「ちゃんとすすぎできてるんやろな?なんか仕上がりがいつもよりあまい感じがするわ」と言われた。
それはオカンがいつもより洗剤を多めに入れたからやで。
さて、今日は何を洗濯するんやろ。
”ダンダンダンっ”
すさまじい足音が聞こえてくる。
オカンの足音がワシの方に向かってきた。
「寝坊したわ!子供の体操服洗うの忘れてた。昼から学校で使うから昼までに乾かして持っていかなアカン」
オカンは慌てながら顔面蒼白になり、体操服を勢いよくワシにぶっこんだ。
「ついでに昨日着てたアタシの派手なTシャツとパパのアロハシャツとタオル類もまとめて洗わな時間ないわ」
と言いながらワシに急かしてるけど、その派手な服と白い体操服を一緒に洗っていいんか?
色移りが心配やが、あとでワシに文句言わんといてな。
ワシはとにかくオカンが設定したコースで洗濯を始めた。
「よし、やっと終わったわ」
オカンがワシの扉を開ける。
洗濯モノを取り出したオカンが悲鳴を上げた。
「ひょえー!うそやろ。体操服がピンク色に染まってるやん」
そら見たことか。やっぱり染まってしもたか。
「このせんたっきめ!色移りする前に教えてくれる機能があったらいいのに」
そんな優秀な洗濯機があるならこっちがお目にかかりたいわ。
オカンは慌てて漂白剤で体操服の色移りを落とそうと頑張るが、少しだけピンク色が薄まっただけやった。
その日の夕方、息子が帰ってきて、ワシの隣の洗面所からオカンと息子の会話が聞こえてきた。
「今日はピンク色の体操服着てたらみんなに笑われた。オカンのせいや」
「すまんかったわ。まさか色移りするとはなー。もっと高性能なせんたっきやったらよかったのに。せんたっきに色移り防止の機能があったらいいなと思わん?」
「は?」
「このアイデア、企業に言うてみよかな」
「そんなん採用されるわけないやろ。オカンが洗濯の失敗したからってせんたっきのせいみたいに言わんとき」
息子よ、よう言うてくれた。
オカンのやつ、もっとワシを大事にせんかい。
翌日、ワシはオカンの設定通りに動こうとするが糸くずなどが溜まりに溜まってなかなか動かれへん。
ワシはフィルター掃除のランプを点滅させた。
早よ気づいてくれ。
オカンはアレ?おかしいなという顔をしてる。
「ん?なんで動かんねん。このせんたっき古いからなー。壊れてしもたんか。そろそろ新しいの欲しいと思てたから買い替えよか」
ちゃうやろ!ワシは壊れてへん。
まだまだいける。
早く掃除してくれって。
オカンは洗濯を諦めてリビングの方に行ってしもた。
おい、ワシはどうなんねん?捨てられるんか?
オトンとの会話が聞こえてくる。
「せんたっきがついに壊れてん。新しいの買っていい?」
「買ってまだ3年ほどやろ?買い替えるにしてはちょっと早いな。修理したら?」
「えー!気になってる商品あんねん。思い切って買い替えへん?」
「この前もオーブン買い替えたばっかりやろ?まだ使えたのに。ちょっとは家電大事にしたら?手入れぐらいせんとな」
オカンは渋々修理業者に連絡した。
そして業者の人が家に来て、ワシを見るなり目がテンになった。
「奥さん、洗濯機が突然動かんようになったんですね?フィルター掃除のランプが点滅してるんで、まずここから見ていきますわ」
オカンの顔が青ざめている。
業者の兄ちゃんがフィルターを取り出すとそれはそれは糸くずに髪の毛になんやわからんモンまでてんこ盛りやった。
「奥さん・・コレが原因やと思います。ゴミはマメに取ってくださいね」
業者の兄ちゃんが笑いをこらえながら言った。
オカンの顔が赤面。
業者を呼ぶほどのことじゃなかった。
その日の夜、オトンと息子の笑い声が聞こえてきた。
「オカンはほんまドジやな。せんたっきのゴミが原因やのに業者呼んでしもたんやろ」
「出張費が余計な出費になったな」
「今回のことはアタシも反省してるわ。これからはもっとせんたっきを大事にする。手入れもマメにするからよそで言わんといてな」
オカンがワシに近づいてきた。
「悪かったわ・・いつも雑に扱って。明日からもヨロシク頼むわ」
オカンは反省してくれてんのやな。
よっしゃ明日からもワシに任せとき。
お読みいただきありがとうございました。
毎日洗濯をする中で、自身の失敗談など交えて面白おかしく書いてみました。