六日目 暗闇の中の黒い光
音羽が扉の正面まで来ると、
ギギギッ…と鈍い音を立てて、扉は開いた。
・・・どうやって開いたんだ・・・?
こんなに高くて、重そうな扉・・・。
「…ここからが迷路の始まり。
逸れたら、その場で死ぬと思ってね。」
・・・はぃ?
め・・・迷路・・・?
んでもって、
逸れたら・・・死ぬ?
・・・。
・・・絶対離れるもんか。
「って、おい、待てよっ!」
始めっから置いてかれそうになった。
小さな音羽についていくこと数時間(?)
深い緑の森から、水の音がした。
・・・そういえば。
朝からずっと、何も飲んでなかったような・・・。
「・・・音羽?」
「なぁに?」
幼くて可愛らしい声。
あのときの夢と一緒の声・・・。
さっき聞いた、あの大人びた声は一体なんだったんだ?
俺の気のせいか?
「水の音がするんだけど・・・。
飲んできてもいいか?」
「死にたいの?彼方。」
間髪いれずにいわれた。
そういわれても、喉の渇きは限界なんですけどっ。
「あのねぇ。最初にいったでしょう?
私がいなければ、彼方は簡単に罠にはまる。
罠にはまるって事が、彼方にとっては死を意味するの。」
「どーゆうことだよ、つまりはよ。」
いらいらしてきた。
こんな小さな子供相手に・・・。
女の子相手に、俺の命守られてんだよ・・・。
死ぬとか死なないとか、正直言って意味わかんねぇし。
・・・ここまでついてきてなんだけどよ。
「…呆れた。人間ってやっぱり理解が遅いのね。」
・・・なんですと?
・・・ははは。
・・・本気で馬鹿らしくなってきた。
・・・どうせ生贄で死ぬなら、今死んだって同じじゃないのか?
「・・・どうせ人間は馬鹿ですよ。
お前がなんと言おうと、俺は行って来るからなっ。」
よし、言えた。
あとは音のするほうへ行くだけだ。
さすがにあそこまで言えば、音羽も俺を連れて行くの、嫌になるはずだ。
・・・だよな。
そのまま俺は真っ先に走った。
走れば余計に喉が渇く気もしたが、そんなこと言ってる場合じゃない。
下手すれば、脱水症状が起きる。
それこそ、死への第一歩としか思えない。
音羽が追ってきている気もしたけど、無視した。
・・・だけどおかしかった。
走れば走るほど、音は遠ざかっていった。
木々の色も、段々濃くなっていくし・・・。
徐々に徐々に、俺の周りは深い霧で囲まれていった。
完全に音が消えて、体力が尽きたときには、
俺の周りは、真っ暗だった。
視界がすべて、闇に遮断されたような感じだ。
なんとなく・・・ヤバイ感じもした。
・・・ふと、足元が軽くなった。
「・・・・・・っは!?」
現在、俺の足場は消えていた。
いや、正しく言うと、俺の足場だけ、穴ができたみたいに消えていた。
一言で言えば、・・・あー・・あれだ、ブラックホール。
俺のところにブラックホールができた・・・。
って、そんな問題じゃない。
少しずつ、俺の体は引きずり込まれていった。
少しずつ、少しずつ・・・。
その鈍さが、俺を混乱させた。
地面をつかもうと手を伸ばしたが、そこに地面はなかった。
木にでも掴まればと、腕を回したが、木はもう存在しなかった。
・・・それで思った。
『あの木々』は、全て幻影だったのか、と。
暖かそうな太陽の光も、ざわめく葉の音も、
全て幻影だったと・・・思えた。
こんなファンタジーみたいなところだったら、ありえる話だ。
それともうひとつ。
俺は、もう死ぬのか。
短い人生だったな・・・。
彼女もできていないし、成績でトップを取ったこともなかったし。
スポーツも失敗ばかりで、バイト先でもミスったりして・・・。
・・・うわ、最低だ。
思い出して損した・・・。
でも、別によかった。
そこまで遣り残したこともないし。
こんなところが最後なのは、ちょっと納得いかないが・・・。
そう思っているうちに、俺は暗闇に飲み込まれた。
目を開けても、何も見えない。
あ、あの夢に似ているな。
あの世界の黒色バージョン。
『ココデ彼方ヲ死ナセタリナンカサセナイ。』
・・・俺の目の前を、何かが舞った。
・・・黒い光だった。




