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妖精探偵事務所  作者: 緋秧鶏
第一章 始まりの事件簿
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7


なんとかギルバート一行と鉢合わせにならずに邸を出てきたフェイとオスカーは、ガス灯に照らされたロンドン市街を歩いていた。


「…で、このあとのプランはどうする、助手くん」

「私は"あちら"で一仕事してくる。切り札(ジョーカー)を手に入れたからね」


そう言って、フェイは懐から先ほどセオドアの自室で見つけた日記を取り出した。


「は!?それ元の場所に戻さなかったっけ!?」

「そんなの代わりの似たような本を本棚から抜き取ってすり替えたに決まっているでしょう」

「嘘だろ…」


信じられない。

何が信じられないかというと、フェイが勝手に人様の日記を持ち出したことに、ではない。

刑事とて、事件解決のために犯罪スレスレの強行突破をすることもある。

問題なのは、本をすり替えたことにオスカーが気が付かなかったことだ。

すぐ隣にいたのに。


「私が犯人で、この日記が決定的証拠だったらアウトだね、刑事さん」

「…返す言葉もない」

「まぁでもさすがに、契約書がなくなったとなればあの悪魔はすぐ気が付くと思うんだよね。早急に手をまわさないと」

「じゃあ僕はセオドアさんが通院していた病院に聞き込みにいってみるよ…」

「…あぁ、それと、この間待ち合わせに使った廃工場に関係者を集めておいてくれない?明日の夜ね」

「いいけど…フェイ、結局のところ今からどこに行くの?」


「―――ちょっと、悪魔に会いに」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



異界のとある一角。

そこにぽつんと建っている豪勢な邸の前には、今日もずらりと悪魔たちの行列ができている。

その悪魔たちを横目に見ながら、その行列に加わることなく進み邸の門の前までたどり着く。

通称・バルベリスの館、その館の主人である悪魔、バルベリスに会いにフェイはここまで来たのだ。

足を進めて敷地内に入ろうとすると、当然だが目の前の門番に行く手を阻まれる。


「貴様、この列が目に入らないのか。最後尾まで戻れ!」

「…貴方こそ、私が"人間"だって分からないの?」

「は?人間がこんなところに来れる訳が…」

「いいから」


なおも追い返そうとする門番に、フェイはセオドアの日記の契約書部分を見せつけた。


「この違法な契約書のおかげで人間界で事件が起こっているの。こういう取り締まりも貴方たちの仕事でしょう?バルベリスに会わせて」


門番は日記に顔を近づけると、確かに、と頷いた。


「…これはバルベリス様のサインがないから正式な書類ではないな。貴様が何者かは知らんがご苦労だった。これは我々が預かり、この契約書を作成した悪魔を捜索して処罰するとしよう」

「だから、それじゃ遅いの!」


今頃、人間界ではあのセオドアに憑いていた悪魔が日記がなくなっていることに気づいているはずだ。

血眼になって探しているかもしれない。

そもそも、あの悪魔の目的も分かっていないのだ。

契約書がなくなったと知って、どんな行動をとるか見当がつかない。

もういっそ強行突破して館の主人のところまで行ってしまおうかとフェイが本気で考えていると、門番の後ろにある石像がガタリと動いた。


「―――おい、その"人間"をこちらへ通せ。顔見知りだ」


石像が、しゃべった。

そしてその声の主に、フェイは心当たりがあった。

門番は声を発した石像とフェイを交互に見やると、眉間にシワを寄せながら大人しくふさいでいた通路を開けた。

フェイは早足で館に足を踏み入れ、玄関をくぐり階段を昇って目的の部屋まで急ぐ。

その途中で出くわした悪魔たちにぎょっとした顔を向けられたが、いちいち反応している暇もない。

ここへは昔一度来たきりだが、彼の執務室は大きく目立つのですぐに思い出した。

大きな両開きの扉の前に立ち、数回ノックをして返事を待たずに開ける。


「…久しぶりね、バルベリス」

「ここを訪ねてくる人間なんて貴様くらいしか思いつかんからな、探求者(シーカー)よ。人間の敵である我ら悪魔に、一体何の用だ」


部屋の中央に配置された、大量の書類に囲まれた机。

そこに座しているこの館の主人・バルベリスは、悪魔にしては人間のような見目をしていた。

一言で言えば、荘厳。

王冠を被り相手を見下すようなその視線は、相手に威圧的な印象を与える。

そんな彼の仕事は、主に悪魔が人間相手に契約を結べるよう斡旋することだが、その契約関連全般を受け持っている。

つまり、悪魔たちが契約をする際に契約書に目を通し契約を許可することや、定めた規律に従わない悪魔を罰することも業務内である。


「貴方のサインがないにも関わらず、人間と契約をした悪魔が殺人を犯した疑いがある。…落とし前はつけてくれるでしょう?」


その目線だけで相手を委縮させるようなバルベリスの眼光に怯まず、フェイは黄金色(こがねいろ)の双眸で見返した。

相手は人の心を惑わす悪魔だ。

強気で行かなければ、負ける。


「つまり、我に何をしろと?」

「私は早急にその人間に憑いている悪魔を引きはがしたい、忙しい貴方は契約違反者を捜索し連行する手間を省きたい。利害関係は一致するはずだけど」

「―――なるほど、悪魔と人間の間に情など不要。あるのは利か害か…良い切り口だ、いいだろう」


乗った。


「なら、貴方たちの捕縛の術式を教えて」

「貴様がやるのか?人間に我らの力が使えると思えないが」

「悪魔の文字なら一通り読めるし、私の力は"隣人たち"寄りだから魔女とは一味違うよ」

「フン、貴様はつくづく面白い。やってみろ。成功するも失敗するも一興となろう」


くつくつと、バルベリスが笑う。

これこそ「悪魔のような笑み」を体現していると、フェイは眉をしかめたのだった。

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