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妖精探偵事務所  作者: 緋秧鶏
第一章 始まりの事件簿
11/19

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「…終わった?」

「――うん、今頃アレは檻の中だろうね」


オスカーの問いかけに、フェイは一息つきながら答えた。

具体的に何をしたのかというと、先ほどバルベリスに教えてもらった悪魔の捕縛の術をなんとか取り付け契約違反した悪魔をバルベリスの元へと送ったのだが、実際のところ違反者がどのような扱いを受けるのかは知らない。

今度バルベリスの所へ行く用事があったら聞いてみるかと思案していたフェイの耳に、ユリシーズの悲痛な声が突き刺さった。


「父様…!」


悪魔から解放され、地面に倒れ込み動かなくなってしまったセオドアにユリシーズが駆け寄り、少し遅れてヒューゴが後を追った。

ヒューゴは片膝をついて、脈をはかるためにセオドアの首に手を伸ばし、しばらくして首を横に振った。

やはりセオドア自身の体の方は、もう。


「くそっ…何で…なんで何も言ってくれなかったんだ!いきなり病気とか悪魔とか言われても意味が分からないだろ…!」


ゴツンと、地面に拳を叩きつけた音が響いた。

まだ成人もしていない子供が、唯一の肉親を失った。

しかも悪魔に憑き殺されたという形で。

今までそんな目に見えないモノの存在など信じてこなかっただろうに。

フェイは、かすかに震えながら地面の土を握りしめているユリシーズに近づき、手にしていた日記を差し出した。


「…これ、セオドアさんの日記。貴方のことも書いてあったから返す」

「父様の…」


フェイから日記を受け取ったユリシーズは、表紙を一撫でするとそれを胸に抱え込んだ。

今は暗くて読めないだろうが、そこには伯爵家のことや息子を想う日々が綴られていることだろう。


「ユリシーズ君、ギルバートさんがなぜアリバイを証言しなかったか、それはセオドアさんを信じていたこと以外にも理由があったんだと思うんだけど、分かるかい?」

「ギルバート様が…?」


オスカーの言葉に、ユリシーズは一度ギルバートを振り返ったが、彼は無言のままだ。

それからオスカーに向き直って分からないと言った風に首を振った。


「ギルバートさんはね、このままセオドアさんに不利な証言をすれば息子である君の立場が危うくなると考えていたんだよ」


ギルバートがアリバイを証明し、現場に落ちていた拳銃のことに言及していたら、疑惑はおそらくセオドアの方に動いていただろう。

もちろん保身のためもあるだろうが、実の親であるセオドアが主人殺しの容疑をかけられてはユリシーズの心を痛めてしまうと考えていた、とオスカーは予想していた。

未だに何も言わないままのギルバートだったが、ユリシーズはその無言を肯定と受け取り目に涙を浮かべた。


「ギルバート様…」

「…お前はただこれからも俺のために働けばいい」


一言、ギルバートがユリシーズにそう告げたとき。


「――あらあら、涙ぐましいねぇ、人間の絆ってのは」


突如として響いたその声に、その場にいた全員が音のした方に目を向けた。

地面に置かれたランプの影が、徐々にその形を変えていく。

それは人の、それも女を象り、姿を現した。


「あの影の移動魔法の陣を見たときにまさかと思ったけど、やっぱり貴女か、オイフェ」

「たった数回見ただけなのに覚えていたの?…ふふ、頭の良い子は好きよ、妖精の探求者(フェアリー・シーカー)ちゃん」


漆黒の長い髪を揺らし、その髪と同じ色の鎧に身を包んだ女。

切れ長のその目がフェイを捉え、好ましげに緩められる。

それに対してフェイは厳しい表情をしていた。


「フェイ、知り合いなの?…影ってことは、まさか」

「――影の国の魔法戦士・オイフェ。伯爵の短剣を奪っていったのは貴女でしょう?」


伯爵の短剣という単語が出てきたことにより、その場の空気が再び緊張感に包まれた。

つまり、このにっこりと笑っている女が伯爵の殺害に荷担し、短剣を奪い去った人物だということだ。


「あら、そのこともすでにお見通しってわけね、さすが優秀だわ。…あぁ、でも、勘違いしないでよ?私はあの”鍵”が欲しかっただけで、人間を殺したのはあの悪魔ちゃんだからね?」

「分かってる。貴女が人間を殺すなんて面倒なことをするとは思えない。…で、鍵と言うのは?早急に短剣を返していただきたいのだけど」

「えぇ、いいわよ。今日はそのために来たんですもの」


長期戦になると思い身構えたフェイだったが、あまりにあっさりとオイフェは短剣をこちらに投げてきた。

慌てて金色に光るそれを受け止める。

執着していた割にはあっさりと手放したので、偽物ではないかと疑い短剣を調べてみたものの、それらしき兆候は見当たらなかった。


「…わざわざ人間界に探しに来た割には、あっさりだね」

「そうでしょう?それハズレだったのよ。その辺に捨ててきても良かったのだけど、風のウワサであなたが探しているって聞いて、これは恩を売っとかなきゃって思ってねぇ」

「それは、どうも。…で?その”鍵”とやらの情報は?何を企んでいるの」

「…それについては、どうしましょうかしらねぇ?」

「へぇ、残念だね。それでは鍵探しに協力しようにもできないということになる」

「――あらあら、相変わらず上手なお口だこと。いいわ、教えてあげる」


不敵な笑みを浮かべたフェイに対し、オイフェはくすくすと妖艶に微笑った。


「私たちが探しているのは、とある計画に必要な鍵なんだけど、その特徴が”翼を抱き、金の施しがされた白金の刃”ってお告げなのよねぇ。その剣、特徴にぴったりと当てはまるでしょう?でも違ったのよ。…これ以上は教えられないわね、女王様に怒られてしまうから」

「…なるほど、確かに」


フェイは、手の中にあるサリスフォードの短剣をしげしげと眺めた。

確かに、オイフェの言ったように刀身は白金、持ち手や鞘は金で作られており、柄の部分は翼のモチーフだった。

オイフェの言う「とある計画」については気になるところだが、フェイとて影の国の女王・スカアハの機嫌はあまり損ねたくない。


「それじゃ、私はこれで。”鍵”は気が向いたときにでも探してくださいな、探偵さん」


そう言って、オイフェは影に吸い込まれるように消えていった。



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