表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スタートオーバー  作者: 風時々風
9/9

 柿郎と加耶音は、ドッグの部屋の中央に置かれているソファの一つに二人並んで座って

いた。

「昨日はゆっくり休めたかい?」 

 テーブルを挟んで向かいのソファに座るドッグが口を開く。

「うん」

「泊めてもらってありがとうございました」

 加耶音が頭を下げる。

「気にする事はない。小生が好きでやっている事だ。それで、早速、今後の事についての

話をしたいのだが、良いかな?」

「うん。その事なんだけど、昨日ドッグに明日これからの事で話をしたいって言われてから加耶音と相談したんだ」

 柿郎は加耶音の顔を見る。加耶音も柿郎の顔を見て来る。

「私達、表世界には帰らない事にしました」  

 柿郎と加耶音は手を握り合う。ドッグが優しい笑みを顔に浮かべた。

「そうか。少年の願は使わない事にしたのだな」

 柿郎は膝の上に置いてある卒業証書筒に目を向けた。

「加耶音が自分の為に使ってって譲らなくて」

「私は望んでフェンリルになったのよ。それを取り消す為に柿郎の願を使うなんて絶対に

嫌」 

 ドッグが頷く。

「願は一度しか使えない。稀に多幸者がいるが、それはあくまでも例外だ。小生も少女の意見に賛成だ」

「お茶をお持ちしました」

 ドアをノックする音に続き、ウルフィーの声が聞こえて来る。

「入ってくれ」

「失礼いたします」

 ウルフィーがドアを開け部屋の中に入って来る。

「主様。お二人はどうするとおっしゃられたのでございますか?」

 テーブルの上に紅茶の入ったカップとお茶請けを並べながらウルフィーが言葉を出す。

「こっちに残ってくれる事になった」

「では仕事の方も?」

「いや。それはこれから話そうと思っていたんだ」

「何の話だ?」

「少年。良ければこの城にこのまま住んで欲しい。もちろん、少女も一緒に。二人はこっ

ちの世界にはまだまだ不慣れだ。ここにいてくれれば心配の種が増えない」

 柿郎と加耶音は顔を見合わせる。

「それは助かるけど」

「家賃とか、そういうのって幾らぐらいですか?」

 ドッグとウルフィーが目を合わせる。

「家賃などはいらない。だが、仕事を手伝って欲しい」

「仕事って、リベレーターの事か?」

「あの日、警備をしてたのよね?」

「そうだ。危険な事もあるがやりがいのある仕事だ」

「加耶音のフェンリルの力が欲しいのか?」

 柿郎はドッグの顔をじっと見つめる。

「その通りでございます。そこにいる少女は中々の逸材でございますからな。手伝ってい

ただければかなり助かるのでございます」

 加耶音の柿郎の手を握る手に力がこもる。

「私、やります。リベレーターに入れて下さい」

「加耶音。どうして?」

「他にできる事もないし。願で得た力を使えるなら、それに越した事はないと思うの。使

わないともったいないでしょ」

「俺は反対だ。加耶音が危ない目にあうのは嫌だ」

「大丈夫よ。銃で撃たれてもナイフで刺されて平気だったのよ」

「けど、こっちの世界は何があるか分からない。何かあったらと思うと、心配になる」

「柿郎。ありがと。でも、やりたいの」

 加耶音がじっと見つめて来る。

「主様。これはあてられますな」

「ウルフィー。近付くな。それ以上近付いたら、執事業務はしばらく禁止にするからな」「これはいけません。分かりました」

 柿郎が目を伏せると、加耶音がドッグ達の方に顔を向ける。

「いつからリベレーターの仕事をやれば良いですか?」

「待った。俺もやる。加耶音と一緒に働かせてくれ。それで良いなら反対はしない」

「柿郎。危ないから駄目だよ」

「それは加耶音だって一緒だろ。駄目だって言うなら、加耶音だって駄目だ」

 突然、ガッシャーンと音がして、部屋の角にあった花瓶が床の上に落下した。

「びっくりした」

「急にどうしたのかな」

「あの花瓶の載っていた机は少し傾いていたからその所為だろう。ウルフィー。すまない

が、片付けを頼む」

「御意」

 ウルフィーが花瓶の破片を集め始める。

「人数が増えるのは大歓迎だ。小生達もできる限りフォローはする。いつからかはまだ決

まっていないが、次の出動から頼む事になるだろう」

「分かりました」

「やっぱり相手は両世界連合になるのか?」

「フフェアが欠け活動は鈍り始めたが、大きな組織だ。まだまだ戦わなければならない」

「私達があったようなテロなんかを止めるんですね」

「そうだ」

「でも、ウシーデラやロミアと戦う事になるんじゃないか?」

 加耶音が小さく頷く。

「その事もあるから。あの人達は悪い事をしてるけど、良い人達なの。もう一度会って話

をしたい」

 柿郎はドッグの顔を見る。

「加耶音はこう言ってるけど、そんな事できるのか?」

「罪を償い悔い改めてもらう。それがすめば、彼らを責める理由はない」

「けど、人を殺したりしてるんだろ?」

「殺している。だが、それでも更生の余地はある。表世界ではこういう考え方はしないの

かも知れないが」

「そうだな。向こうじゃ、重罪を犯した奴は一生刑務所の中か、処刑されるかだ」

「こちらの世界には法がありませんからな。リベレーターも有志が集まり作られている自

警集団に過ぎません。言い表し方が難しいのですが、基本的には自由な世界なのでござい

ます」

「自由か……」

「だから、私みたいなのでも、生きて行けるのね。向こうだったら、絶対に生きてなんて

行けないのに」

 柿郎は加耶音の手を握る手に力を込める。

「寂しい? 家族の事とかもあるし」

 加耶音の手にも力が込められる。

「少しね。でも、後悔はないよ。私は柿郎を守れたんだもん」

「加耶音」

「柿郎」

「いやはや。若いというのは良い事ですな」

「おい。ウルフィー。近いぞ」

「これはいけません。ついつい」

 ジジジジとどこかで聞いた事のある音が柿郎の耳に入って来る。

「もう我慢の限界なのです。柿郎。その女から離れるです」

 いつの間にそこのいたのか、コッドがテーブルの上に立ち柿郎を見下ろしていた。

「コッド?」

「コッド。勝手に人の部屋の中に入っては駄目だ」

「覗きとは良い趣味とは言えませんぞ。けれど、その光学迷彩はよろしいでございますすな。どうにかして使えるようになりませんかな」

 コッドの右手が変形を始める。

「離れないのならこの世界ごと消すです」

 ファイナルアルティメイトミサイルを内包した砲身に変形した右手をコッドが天井に向ける。

「コッド。駄目だ。やめてくれ」

「世界を消すってどういう事?」

「少年。コッドを止めるんだ」

「少年。コッドをこの前の時のように抱き締めるのでございます。それしかコッドを止め

る方法はございません」

「ちょっと、柿郎。抱き締めたの? どういう事なのよ?」

 加耶音が睨み付けて来る。

「事情があるんだ。加耶音。ごめん。今すぐコッドを抱き締めないと世界が滅ぶ」

 柿郎は加耶音の手を放そうとする。

「駄目。行かせない」

 加耶音の手に力がこもる。

「加耶音」

「ファイア」

 冷酷なコッドの声が響き、ファイナルアルティメイトミサイルが発射される。禍々しいほどに極彩色に塗られたミサイルが部屋の天井に向かって行く。

「あー! コッド。何してんだ」

「何なのよ。あれがミサイルなの?」

「またか。世界が……。また変わる」

「どんな世界が来ても、このウルフィー。主様の元へ一目散に馳せ参じる所存でございます」

 ファイナルアルティメイトミサイルが爆発する。強烈な閃光が柿郎の網膜を焼いた。

「柿郎ずっと一緒なのです」

 右側からコッドの声がする。

「柿郎。もう離れないからね」

 左側から加耶音の声がする。

「二人とも。って、何だよこれ。こんなの嫌だああああ」

 柿郎の叫び声が消滅した端からすぐさま再編を開始して行く世界の中に木霊した。


おしまい

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ