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兆候

東北震災復興支援企画『スマイル・ジャパン 2016』


賛同してくださる方々が少しづつ増えています。

読んでくださる方、感想を寄せてくださる方、もちろん投稿してくださる方。

大歓迎です。


 



 兆候


 そして迎えた月曜日、終業間近になって携帯電話がブルブルと震えた。

「ねえ、雅だけど……」

 まだ仕事の最中だろうに、雅が電話をよこしたのである。こんなことはこれまで一度もなかったことだ。だけど、ひそひそ話しではなくて、驚いたときの癖で声をひそめている。


「……あたった、……あたったよぅ。襲われちゃったのよ、どうするの?」

 まるで予想したことを非難しているような口調だった。その様子から重大事件がおこったことが察せられるが、自分としては、外れればよかったのにとも思う。それくらい現実味のあることだと思うようになっていた。

「申しわけありません。ただいま来客中でして、その件についてはいつもの場所でうかがいますので」

 机のむこうで係長が眼鏡越しにジロリと冷たい眼差しを向けていることが気がかりだ。

「ちょっちょっ、ちょっと待って。勘太の携帯番号教えたからね、電話がかかるかもしれないからね」

「はい、どちらからでしょうか?」

「警察よ、北海道警察。詳しい話が聞きたいって。じゃあ今夜」

 雅は、言いたいだけ言って切ってしまった。

 なんだよいったい。警察って、あいつどこへ報せたのだろう。あきれて灯りを落とした携帯を見つめたときに、盛んに明滅が始まった。


「お待たせしました。大変申しわけありませんが、まだ仕事の途中でして。終業になりしだい折り返しますので」

 それだけ言うと、有無を言わさず切ってやった。だいたい、琴音は俺の都合を考えないで電話をよこす悪い癖がある。急な話なら職場へ電話すれば良いのに、いくら言っても直らないのだ。


「松永君、電話よ。三番ね」

 キョロキョロ様子を伺いながら携帯をしまったところに、向かいの席から声がかかった。

「お待たせしました、松永です」

「勘太、大当たりだ! 予言的中だよ。でな、今夜寄るから、なっ」

 源太までが興奮しているところをみると、夢と現実がきっちり重なっているとみえる。いったいどんなことになっているのか知りたくて、早く終業にならないかと気が気ではなかった。


「松永、盲腸なんか病気ではないのだからね、明日は集中してくれなきゃ困るよ」

 係長の小言を聞き流し、俺は湯沸し室に駆け込んだ。そして、今日のニュースをのぞいてみると、トップにでかでかと銀行強盗の文字が躍っていた。




 なんとも重苦しい空気が漂っている。どうせ琴音が一人で騒いでいるだけだと軽く受け止めていた源太と雅は、つきつけられた現実に声を失っていた。が、黙って雁首を揃えていたってどうにもならないのは確かなのだ。


「こういう結果を見せつけられたら、信じないわけにはいかんよなぁ」

 源太は、ぼそりと呟いてラーメンをすすった。


 ザザーッ、ゾッゾッ、ズルズルズルズル、チュルチュル……


 四人で麺を啜ると賑やかだ。箸の触れ合う音や、ドンブリを置く音も加わり、話も弾むのである。なのに今日は、元気者の雅でさえ黙って箸を動かしていた。


「ところでなあ、雅。警察ってどういうことなんだ?」

 額に滲む汗を拭いながら、俺は雅に矛先を向けた。

「そりゃあ、事件のあった銀行に報せたよ」

 思ったとおりの答えが返ってきた。

「銀行な、報せたのか。で、どうだった? 少しは話を聞いたか?」

「……いや、胡散臭そうにされただけ。そんな夢の出来事をまともに聞いていられないって……」

 雅は悔しそうに言った。

「それで?」

「……警察に」

「警察に電話してどうだった。少しくらいは話を聞いてくれたか?」

「あれは……、怪しんでいたんだろうね」

「そうだろ? だいたい、何て言ったんだ?」

「だからね、銀行強盗があるから警戒してほしいって」

「警察はどう言った?」

「住所と名前と、それに勤め先や連絡先を訊ねられてさ。どうしてそんなこと知っているのかって……」

「うん」

「だから、夢で見た友達がいて、もう何度も言い当てているからと」

「それで俺の連絡先を教えたわけだ」

「だけど、そう言えば警戒くらいするだろうと」

「期待するよな。ただ制服の警察官を貼り付ければすむことだから。だけど事件はおきちゃった」

「……そうなんだよねぇ。……それと、もう……一箇所」

 そう言う雅の口が急に重くなった。

「警察だけじゃないのか?」

「誰も信用してくれないから……、テレビ……」

「テレビ? まったくお前は……。馬鹿みたいに騒ぎだしたらどうするんだよ」

「騒いだら信用する人だって出てくるだろうし、一気に広まるし……」

「まさかお前、俺のことを言ってないだろうな?」

「そんなことは言ってないよ。こうした予言があるとしか」

「お前に渡したコピーは返せ。それと、書いてある内容は全部忘れろ。じゃないと、とんでもないトラブルに巻き込まれるそ。いいな!」

「勘太、携帯光っているよ」

 ベッドの上に放り出してあった携帯が着信したのに、琴音が気付いた。


「お待たせしました」

「不躾ですが、松永さんの携帯でしょうか?」

「そうですが、あなたは?」

「松永さん、ご本人とお話がしたいのですが」

「松永は私ですが」

「松永勘太さんご本人ですね?」

「そうですが、あなたは?」

「申しわけありません。北海道警察の木下といいます」

「ああ、雅が話していた」

「はい。加藤 雅さんから通報を受けたのに、本気で受け止めなかったものですから大きな事件になってしまいました。それで、そのことについて少々お訊ねしたいことがあるのですが……」


 十分ばかり話しただろうか、犯人との関係はないかとクドク聞かれただけである。最後に、なるべく近い将来に何かあるかということだったので、カレンダーを見ながら答えたくらいで電話は終わった。

 結局その日はそれ以上を考えることができず、お開きになった。


 その翌日、昼の休憩を終えて席に戻ると、メガネをしきりに磨いていた課長がチョイチョイと手招きをした。

「ちょっと話があるから……」

 すると部長も加わり、警察から在籍の確認電話があったことを知らされた。警察からそんなことをされる理由を説明しろというのである。こういう職員が、確かに在籍するかと問うだけで、別段不審げなことを言うでもなく切れたそうだから、何事かと驚いているらしい。どう説明して良いか困ってしまった。洗いざらい話せば、きっと心の病気と思われるだろうし、下手をすれば如何わしい薬物使用を疑われかねない。

 長い時間をかけてようやく納得させたのだが、とんだ迷惑だった。


 終業になって電話をよこした木下に、俺は不満をぶちまけてやった。

「どうして職場に電話をかけたのですか。嘘をついているとでも思ったのですか?」

「申しわけありません。仕事柄、どうしても疑り深くなってしまって。反省はしているのですが、騙そうという奴が多いものですから」

「それなら言わせてもらいますが、私だって同じことを感じているのですよ」

「そうそう、ごもっとも。ですから、北海道警察本部へ電話いただいてかまいませんよ。それに、ちゃんと身分証明をお見せしますから」

「わざわざ北海道へ来いとでも?」

「いえ。じつは明日、そちらへ出張になりましたので、ぜひお目にかかりたいのですよ」

「明日ですか?」

「はい。ご迷惑でしょうが、夕方にお邪魔して、いろいろと教えていただきたくてね。で、できればお友達ともお会いしたいのですが、なんとかお願いできないでしょうか」

「なんのことか知りませんが、それくらいならかまいませんよ。でも、私の自宅はご存知ないでしょう?」

「ですから、役所へ出向いて、勘違いさせたことをきちんと説明しますので」

 そういうことならありがたいが、いったい何を知りたいというのだろう。

「昨夜教えていただいたことですが、ええ、ヘリが送電線にひっかかって墜落した事故。ご存知ないですか? 中央アルプスで今朝。ですからね、どうしてそれがわかったのか知りたくて」

「あらぁ、落ちましたか……。それで会いたいということですね」

「えっ? ……ええ、まあ……」

 というようなことで不満が吹っ飛んだ俺は、明日の集合を皆にふれたのだった。





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