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週刊少年Z  作者: 倉田四朗
第二話 Zは誰だ?
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ゾンビハート

 あまりにも非現実的な光景だった。今、僕の目の前には一台の赤黒いバイクが倒れていて、その下にはつい数十分前まで笑いあい、ふざけあっていた先輩が下敷きになっている。彼女の周りにはてらてらと光を反射する赤黒い液体が広がっていた。倒れたバイクを踏みつけて、ひとりの怪人が僕を見下ろしている。

 ゾンビをかたどった仮面で顔を隠した怪人は、バイクの上から地面におりた。それからしばらくのあいだ僕を見つめたままだったが、やがて目をそらすと、バイクを蹴り上げた。するとバイクの車体が浮き上がり、2メートルほど離れた場所に転がった。物理法則すら感じられない異様な光景に、僕の脳髄は麻痺しはじめていた。

「なんだ……これ……」

 ゼットは僕を完全に無視していた。彼は頭をくだかれた千代田サヤコの死体を見下ろしながら、なにか考え事をしているようだった。

 公園の灯りに照らされた千代田サヤコの死体はひっくり返った虫のようだった。両手両足は力なく投げ出され、顎から上は無くなっている。血溜まりに見える小さな塊は頭蓋骨だろうか、脳みそだろうか、眺めていると、僕は気分が悪くなってきた。

 そのときだった。サヤコの死体がびくんと動いた。

 最初は筋肉の反射かと思ったが、違った。彼女は無事な手足をそれぞれ地面に突き、足の欠けた蜘蛛のように、たしかに立ち上がろうとしていた。

「な、なんだぁ……?」

 もはや同じような言葉しか出なかった。

 千代田サヤコは脳みそをぶちまけられたにも関わらず、生きていた。生きて動きだそうとしていた。まるで冗談のような光景だった。そんな彼女を、ゼットは力強く踏みつけた。

 胸が潰れるとともに、ゴボゴボと血があふれる音がした。そして彼女の傷口から、血塗れの、触手の生えた奇妙な芋虫が這い出てきた。

 怪人は素早くそれをひっつかみ、頭らしき部分を握りつぶす。ぶちゅっ、という嫌な音がした。怪人は動かなくなったそれを、腰を抜かしている僕の前に放り投げた。

 見れば見るほど気持ち悪い生き物だった。生白いハムのような外見に、人間のような口、おしりには細い触手が何本も生えている。およそ非生物的な外見だった。

「なんだよ、これ……」

 もう何度目かもわからない感想を聞きつけ、ゼットがこっちを見た。

「それは『ゾンビハート』だ」

「ぞ、ぞんび……?」

「人間の体内に入りこみ、心臓に擬態して社会生活をおくる、人食いの化物だ」そう言いながらゼットはサヤコだったものに背を向け、こちらに近づいてきた。僕は体がこわばった。

「い、やだ、くるな」

「お前もゾンビハートの可能性がある」

 ゼットはそう言いながら、スーツの袖の内側から刃渡り三十センチはあろうかというブレードを飛び出させた。僕はにげだしたかったが、足に力が入らなかった。ゼットはブレードをふりあげる――

「ヒィッ!」

 僕はとっさに顔を防御した。手の甲に鋭い痛みがはしり、傷口から血が噴き出す。

「いづぁ!?」

 僕は傷を抑えて、その場にまるまった。

「お前はゾンビハートじゃないな。奴らは痛みに鈍感だ」

「その、ゾンビハートってなんなんだよ!」

「俺の敵だ――!?」

 いきなり、ゼットが素早く飛び退き、彼がいた場所に大きな斧のようなものが振り下ろされた。僕がその出どころを目で追うと、サヤコだったものが目に入る。

 サヤコだったもの――ゾンビハートは立ち上がり、まるで粘土細工のように腕を変型させていた。振り下ろされたものはその腕だった。触手のように伸びた腕の先からは、ありえない形の骨がつき出して、それが斧のかたちをしているのだった。サヤコの喉の奥からは、あらたにもう一体の芋虫がはい出てきていた。

「二体いたのか!」

 ゼットは毒づく。もう一度、彼に触手の斧が振り下ろされた。ゼットは素早く攻撃をかいくぐると、腕のブレードで触手を切り飛ばす。そのまま本体までつめより、その心臓があるべき位置を両手のブレードで貫いた。ゾンビハートが悲鳴らしきものをあげ、そして崩れ落ちる。今度こそ、それは完全にうごかなくなった。

「ちぃっ……手間取らせやがって!」

 ゼットは罵りながらサヤコの死体を蹴り飛ばした。彼女の体が、食卓の焼き魚のように『つ』の字に折れ、数メートル空中を舞ってどちゃりと落ちる。さっきのバイクのときもそうだが、明らかに異常な脚力だった。

「覚えておけ!」

 ゼットは怒鳴った。僕に対してだ。

「これは夢でも冗談でもない! ゾンビハートは実在し、お前たちは狙われている! そして忘れるな。俺はゼット! 俺の戦いを語り継げ!」

 そう叫んだ直後、ゼットは僕に向かって走り出した。僕は何もできないまま、下顎に強烈な蹴りを一発もらい、気絶させられた。




 目を覚ましたとき、僕は自宅のベッドの中に寝かされていた。時刻が真夜中だったのと、体全体の異常な倦怠感のために、僕は何も考えず、またすぐに眠りに落ちた。

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