ゼット、最期の夜。
「あははははははっ!」
ナオミの高笑いが響いた。僕は目の前でそんなことをされても、これっぽっちも心は揺らがない。
「ねぇ聞いた? 鹿羽さん、今の言葉!」
ナオミは肩越しに、後方に這いつくばるエイコを見た。
「あなたのパートナーは、あなたとちがって生き意地汚いわね!」
僕は胸に両手をあてた。
ナオミは再び僕を見る。
「いいでしょう」
彼女は僕の両肩を掴んだ。そして大口をあける。
「やめろ……マコト……!」
苦しそうにエイコがうめいた。僕は無視して、自らも口を開けた。
ナオミのあごが外れ、喉奥の暗闇から、おぞましい造形の芋虫がはい出てくる。ゾンビハートは触手をのばし、僕の唇を撫ぜる。
ゾンビハートの体が這い出した。その生白い体は完全に露出し、僕の眼前で笑う。
「ああ、でも勘違いをひとつ言っておきましょうか」
ゾンビハートは冷たく言った。
「体をあけ渡したところで……もとの人格は残らないのさ!」
白い巨大な芋虫が、僕の口の中に滑り込む――
――その瞬間、僕は思い切り口を閉じた!
「うごおおっ!?」
ゾンビハートが奇妙な悲鳴をあげる。僕の前歯は芋虫のぶよぶよした体に食い込み、やや酸味のある、どろりとした体液をあふれ出させた。僕の口内は芋虫の体液に満たされ、口の端からそれらが溢れる。
「おまえっ……!」
芋虫がうめく。
「んんーッ!!」
僕は唸り声をあげながら、胸に置いていた右手をもちあげる。それを見たナオミとエイコは驚愕した。なぜなら、僕の右腕の袖からは、刃渡り三十センチはあるブレードが――いつもエイコが袖の下に仕込んでいた武器の刃が――飛び出していたからだ。僕はよろけ、足もとの、エイコの右腕を危うく踏み潰すところだった。
「や、やめッ……!」
ゾンビハートは怯えた声をあげた。僕はいっさい耳を貸さず、ブレードを陣内ナオミの口の隙間に挿し込んだ。そして頭を思いっきり反らし、芋虫を引っ張りつつ、ブレードをひねる。サザエの中身をほじくり出すようにすると、芋虫の体もずるりと抜けた。僕は左手で芋虫の体をひっつかみ、片足を持ち上げてナオミの体を蹴る。すると長い長い芋虫の体が、複雑に絡まった各種の臓器を伴って、床にぶちまけられた。
僕は口から芋虫の頭を引っ張りだし、床に叩きつける。口の中の体液を床に吐きながら、僕はびくんびくんとうねる、全長一メートルはあろうかという巨大な芋虫を見た。
「……ぐ……ぐぇ……」
陣内ナオミを名乗っていた化物は、あきらかに弱っていた。全身を血と体液と人間の内臓にまみれさせ、血の海に沈んでいる。
僕は息を整えつつその姿を見下ろして、言い放った。
「……気持ちわりっ」
僕は芋虫の頭を踏み潰した。芋虫は一瞬びくりと痙攣して、すぐに動かなくなった。
ゆっくりと視線を上げ、エイコを見た。彼女と視線がぶつかった。すると彼女は両目いっぱいに涙をためて、そして笑った。
血みどろの一夜は終わった。
そしてこの夜を最後に『少年ゼット』の物語は途絶えることになる――




