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週刊少年Z  作者: 倉田四朗
最終話 少年Z、最後の戦い
18/21

あふれるブラッド

 先にしかけたのはエイコのほうだった。彼女は床を蹴ると、素早くナオミの懐に飛び込む。エイコのブレードはいともたやすく、ナオミの胸を貫いた。

 だがエイコの体は緊張に強張った。ナオミは吐血しながらも、不気味に口端を吊り上げたのだ。

「はじめから、来るのがわかってればねぇ!」

 ナオミが腕を振るうと、エイコの体が吹き飛んだ。エイコは背中からもろに部屋の本棚にぶち当たった。彼女が床に落ち、体の上に本が降り注ぐ。その様を間近で目にして、僕はナオミのあまりの膂力に震え上がった。

(そんなバカな! あれじゃ、まるで――!)

 ナオミはちらりと僕を見た。僕は慌てて銃をかまえる。慣れない様子に、彼女は僕を鼻で笑った。

「撃ってみる? 避けないから、ほら」

 ナオミは両手を広げて笑った。僕は怒りと悔しさに体が震える。

「撃つな。無駄だ」

 濁った声がした。エイコが、本の山の中からよろよろと立ち上がっていた。

 ナオミはそんなエイコを見ても眉ひとつ動かさない。

「背骨は? 肋骨は?」

 ナオミが訪ねた。

「両方折れた。だが治った。それよりも、この腕力……胸の傷も治っているな」

 エイコは口元の血をぬぐい、ナオミを睨む。

 ナオミは肩をすくめた。

「そうよ。私の体はあなたと同じ……ハーフよ」

「なのに変形できるということは、中に住んでるな」

「ご名答」

 ナオミは大きく口を開けた。ごきり、というあごが外れる音がする。のどの奥の暗闇から、人間の口がついた白い芋虫が這い出てきた。

「この体を手に入れるのは大変だったわ。人間と子供を作ろうなんて気持ちの悪い仲間はいないもの」

 芋虫は笑った。

「どうやって手に入れた」

「私が作った。私が人間の男とセックスし、そしてできた子供に乗り移ったの」

 その話を聞いて、エイコは床につばを吐いた。

「なんだ、お前がその『気持ちの悪い』やつだったんじゃないか」

「……あー……そうね……」

 芋虫は再び喉奥にひっこみ、ナオミはあごをまたはめた。それから頭をぐるりとまわし、首を鳴らす。

「でも人間と私たちのあいだに産まれた存在が、尋常ではない肉体を持っていると聞いたら、試したくならない?」

「ならないな。悪趣味だ」

「あなたはそうかもね。でも、あなたの母親なら?」

「……なに?」

「あなたの生まれは調べさせてもらった」

 エイコは眉を潜めた。ナオミは笑った。僕はまずい、と思った。

「あなたは犬とセックスしたいと思う? 思わないでしょ? そんなど変態、いるわけないじゃない! でも好奇心を満たすためならそうとは限らない!」

「エイコ! 耳を貸すな!」

「はっきり言いましょうか!」

 ナオミは悪意に満ちた笑みを浮かべた。

「あなたの母親は、あなたを作ってみたかっただけだ! 愛してなんかいなかったのさ! むしろ憎んでいたに違いないよ! だからあんたは――」

「黙れぇッ!」

 エイコはとびかかった。その動きは力強かったが、あきらかに激高したゆえの動きだった。彼女は肉食獣のような表情で、ナオミの胸をえぐろうと突きを繰り出したが、やすやすと避けられた。

 ナオミはそのままエイコの腕をひっつかむと、目にもとまらない速さで片足を振り上げ、肘関節を攻撃する。水風船が潰れる音と、同時に、フライドチキンをちぎったときのパキッという軽い音がした。

 エイコは苦悶の声をあげた。

「ぐああッ!?」

 エイコのところから、『何か』が飛び出して天井にぶっつかり、赤黒い液体を撒き散らしながら床を転がって、僕のつま先にぶつかってとまった。

 僕は足もとの『何か』を呆然としたまま眺めていた。あまりのできごとに頭が真っ白になっていた。

 視線を上げた。目に入ったのは、勝ち誇った表情で見下ろす陣内ナオミと、その足もとに這いつくばる鹿羽エイコの姿だった。

 彼女の下の床には、信じられないほどに大きな血溜まりができていた。

「う……」

 僕は理解した。

 僕はその場に跪き『何か』を拾い上げた。

 ――エイコの、右肘から先だった。

「……うわあああああああああッ!?」

 僕は絶叫した。

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