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週刊少年Z  作者: 倉田四朗
最終話 少年Z、最後の戦い
17/21

ZとΣ

 深夜の街を一台のバイクが疾走している。テールランプの光が火の玉のように尾を引いて、やがてかき消える。

 いななく鉄の馬を駆るのは、ライダースーツを着た生ける屍だ。そして僕は彼女の腰に手を回し、後部座席に跨がっている。

 僕たちは今から、僕たちの学校の先生を殺しにいくのだ。

「ねぇ、ひとつ聞いても!?」

 僕はエンジン音に負けないよう、大声で話しかける。

「どうして陣内先生が、ひと芝居打ったと!?」

「そんなこと、俺が知るか!」

 ゼットの返答に、僕はやや面食らった。

「だがよく思い出せ! 心当たりがあるはずだ! マコトが俺とつながりがあると疑われるようなことが!」

 そのとき僕の脳裏に、はじめてゼットと出会ったあとの保健室でのできごとが思い浮かんだ。あのとき陣内ナオミはすっかり憔悴していた僕を見て、つらいできごとの記憶はやがて薄れる、とアドバイスをしてくれた。

(だけど普通、学校でつらいことがあったとなったら、いじめとか、継続的なことをうたがうんじゃないのか? なぜ陣内先生はあのとき、一回性のものだと決めつけた? 決まってる。陣内先生には心当たりがあったからだ! 千代田先輩の『転校』という心当たりが!)

 僕は歯噛みした。もしこの考えの通りだったなら、ゼットの正体がバレたのは自分のせいだからだ。しかもひとりにバレたなら、さらにやつらのコミュニティに情報は拡散しているに違いない。自分のせいで、彼女は四六時中、やつらに狙われることになってしまったのだ。

(ちくしょう!)

 僕は無言で叫んだ。なんとかしなければ、そう、強く思った。

 バイクはうなりをあげて道路を曲がる。深夜四時、スピードは出し放題。ゼットはさらにアクセルをひねった。




 やがてバイクはとある一軒家の前で停まった。二階建ての、至って平凡な建物だ。表札には『陣内』とある。

「ここが?」

「ああ、そうだ」

 ゼットは頷く。僕たちはバイクをおりた。

「武器はあるか?」

 訊かれて、僕は小さくアッと声をあげた。ゼットはやれやれといったふうに首を振り、何かを差し出した。僕はそれを受け取って街灯の明かりにさらし、びっくりした。

「これ、ピストル……!」

 彼女が渡してきたのは拳銃だった。僕は恐ろしさのあまり、ぞうきんをつまむようにそれを持った。

「さっきのやつらが持ってたやつだ。弾はまだあと数発残ってる。すぐ撃てるようにしてあるから、注意しろよ」

 僕はつばを呑んだ。

「よし、いくぞ」

 ゼットは門扉を開け、敷地内に踏み込む。彼女は玄関ドアに手をかけると、その動きをとめた。

「どうしたの?」

 僕は彼女の背中に声をかける。

「……鍵がかかっていない」

「え?」

「シグマ、気をつけろ。やつはもう俺達に気づいている」

「し、シグマ?」

「念のためだ。おまえのイニシャルを横にした」

「シグマ……」

 僕はその名前を口の中で転がした。あまり悪い気はしなかった。僕は急いで上着を脱ぎ、忍者のマスクのように顔に巻きつけた。

 ゼットが僕を見てあきれたような顔をしたのがわかった。

「中に踏み込む。いち……にい……さん!」

 ゼットが玄関に踏みこんだ。中は暗かった。ゼットは僕に「離れるな」といい、慎重にひと部屋ひと部屋見て回る。

 リビングは無人だった。趣味のいいソファと、その向かいに置かれた大きなテレビが、陣内ナオミの生活をうかがわせる。マッサージチェアまであった。たしか駐車場に車は無かったはずだから、彼女はインドア派なのかもしれない。

 和室を見た。ここは普段寝室として使っているらしい。整えられたひとり分の布団が真ん中にある。床の間はデスクに改造されていて、デスクトップパソコンがあった。

「上だ」

 ゼットが言って、階段を上がる。

 二階には短い廊下と、扉がひとつだけしかない。ゼットはためらいもせず、その扉を開けた。

 扉の向こうは明るかった。照明がついている。壁がすべて本棚で囲まれた、広い部屋だった。

「ようこそ」

 部屋の中心に人がいた。僕とゼットは並び立った。

「彼らと連絡がつかない時点で嫌な予感がしたが……まさかのりこんでくるとはね」

 陣内ナオミだった。彼女は長い黒髪をまとめ、動きやすい服装をしている。

「おまえが陣内ナオミだな」

 ゼットが言った。ナオミはうなずいた。

「ええ、鹿羽エイコさん。それに……君は? 同じ漫画研究部の、賀東ビイくんかしら」

 僕はその言葉が意外だった。やつは僕が――穂村マコトが――ゼットに協力していることも、賀東ビイの死も知らないとは思っていなかったからだ。てっきり、小林ミカの事件をきっかけにして、ナオミの仲間はゼットを襲撃することにしたのだと思っていたが、違うらしい。小林ミカの一件と、さっきの襲撃は無関係なようだ。

「そうだ、俺は『シグマ』だ」

 僕は嘘をついた。

「顔を隠すのは無駄か」

 エイコがゾンビのマスクを脱ぎ、僕に押しつけた。彼女はもう素顔でも平気らしかった。その目には、強い決意と、殺意が宿っていた。

「この町にゾンビハートを増やしてるのはお前だな」

「ええ、そうよ」

 ナオミはうなずく。

「なにが目的だ」

「この町ののっとり」

 ナオミは腕をくみ、怪しい微笑をうかべた。

「シンプルな話よ。ここに私たちの町を作るの。人間との住み分けよ。いい話でしょ?」

「だ……だからって!」

 僕は彼女の話の、あまりのおぞましさに鳥肌が立っていた。

「それはつまり、その分たくさんの人間を乗っ取るってことじゃないか!」

「そうよ。だって私たち、そうしないと繁殖できないのだもの。あなたたちも子供を作るのに、相手が必要でしょ? それと同じよ」

「一緒にするな!」

「もういい、シグマ」

 エイコが片手をあげた。

「こいつらは人間とは相容れない。だから答えはシンプルだ」

 彼女はブレードを飛び出させた。

「そうね」

 ナオミは笑い、腕を大きな鉤爪に変形させる。

「結局、いつだって話はここに終着する。だって『こちら』と『あちら』は違うのだから。あなたたち人間は太古の昔から、どうしても、たったそれだけが許せない……ひどく、人間らしいね」

「だろう?」

 エイコは不敵に笑う。そして身構えた。

「さぁ……死ね!」

「やってみなさい!」

 ナオミは叫んだ。

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