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週刊少年Z  作者: 倉田四朗
第四話 そもそもZとは
13/21

怒りと血

 賀東ビイの体は重かった。彼の背中にはたった今あいたばかりの大穴があって、そこから粘度の高い血が心臓の鼓動に合わせてごぶごぶとあふれている。僕は彼にのしかかられるようにしてその様を見ていた。

 小林ミカは腕から血に濡れた刃を飛び出させたまま、いきなりの闖入者に目を白黒させている。彼女はあとずさり、なぜこうなったのか理解できないまま、ただ呆然と賀東を見ていた。

「だ……だれ……?」

 彼女の言葉で、僕は我にかえった。そしてわきあがる衝動のまま声をはりあげた。

「うわあああああッ!? 賀東さん! 賀東さん!」

「う、うるさい!」

 ミカは脅すように刃を振った。だが僕は無視して賀東の体からはい出ると、彼の体を揺さぶった。

「賀東さん! ああああ、血が、血が、こんなにたくさん……あああ……」

「仕方ないだろ!」

 ミカが言った。

「ウチはあんたを殺そうとしたのに! いきなり飛び出してくるから……そ、そうだよ! あんたが悪いんだ! そいつを殺したのはあんただよ!」

「俺が、殺した……?」

 僕の頭の中で、彼女の言葉が反響する。すると僕の胸の中に、新たな激しい感情が噴き出した。

「――そんなわけねぇだろッ!」

 僕は素早く立ち上がり、ミカに殴りかかった。

 ミカはいきなりのことで驚いて、近づく僕に何もできない。僕はいともたやすく彼女の刃の間合いの内側に入りこむと、彼女の顔面を殴りつけた。

「ぐっ!?」

 潰れた蛙のようなうめき声をあげて、ミカは仰向けに倒れる。彼女の後頭部がアスファルトの地面にもろに叩きつけられる、いやな音がした。だが僕はそんなこと気にもとめず、彼女にまたがって、さらに殴りつける。

「おまえが! おまえが! おまえが! 賀東さんを! おまえが!」

「やべ……やべで……」

 僕の拳で、彼女の顔がどんどん腫れ上がっていく。僕はかまわず殴りつける。かと思うと、いきなりミカが目を向いた。

「やべろっでいっでんだろぅがあっ!!」

 突然、僕の背中に灼熱が走った。熱はすぐに痛みに変化し、僕はおもちゃのように飛び上がる。

「ぎゃうっ!」

 僕は思わずミカの上からどいた。背中から腕を伝って、自分の血がだらだらと流れ落ちてきている。涙ぐみながらミカを見ると、彼女の片足が大鎌のように変型し、僕の背中を斬りつけたのだとわかった。

「足も、変わるのか……」

「ああ、くそ……痛いなぁ。これ、しばらく治らないよ……」

 ミカが顔をおさえながらよろよろと立ち上がる。あれだけ殴ったのに、彼女にはたいして効いていなかったようだ。僕は歯噛みした。

「これじゃ、この体も捨てて乗りかえなきゃなぁ……素直に殺されていればよかったのに……」

「この……化け物め!」

「そっちから見ればそう見えるだろうね」ミカは血の混じったつばを吐いた。「でも仕方ないじゃん、そんなふうに生まれちゃったんだから。あんたはやめろと言われれば、明日から人間を辞められるわけ?」

 ミカは両手を広げた。

「ウチらが人間の体を乗っ取るのは、あんたたちが屋根のある家に住み、服を着るくらい自然なことなんだ! ウチらに人間を乗っ取るのをやめろっていうなら、あんたらも裸で生きるんだね!」

「そんなの、そんなの――」

「――知るか!」 

 突然、頭上から声が響き、ミカの上に何か黒いものが落下した。下敷きになったミカは、頭がくだかれ、背骨がつづら折りになり、まるでカートゥーンのようにぺしゃんこになった。押しつぶされた内臓がぶちゅりと四方に飛び出し、僕の足にぶつかる。落下してきたのは、怪人だった。

「ゼット……」

「おまえらの言い分なんか知るか! おまえらは俺たちの敵だ! 敵は死ね! 死ね! 死ね!」

 ゼットはなおもミカを踏みつけた。彼女はあきらかに絶命しているのに、さらに力強く踏みつける。

「よくもビイを! ビイを! 殺したな! 殺してやる! 死ね、死ね、死ね! 死ね! くたばれ! 死ね!」

 ミカの体はどんどん原型を失っていく。肋骨が踏みくだかれ、心臓が、はらわたがすり潰され、それらが混ざるびちゃびちゃという音とともに赤黒いどろどろとしたものになっていく。あまりにも凄まじい光景に、僕は背中の傷の痛みも忘れ、ただそこに立ち尽くしていた。

 



 ミカの体が完全にペースト状になったころに、ゼットはようやく息をついた。あたりには血と糞尿のそれが混じった、吐き気を催す臭いが充満している。ゼットは腕をだらりと下げ、足を引きずるように賀東の死体に近づいた。それからしばらく、ただ彼の死体を見下ろしていたが、おもむろに懐からスマートフォンをとりだすと、マスクを外して電話した。

「私です。人死にが三人でたので、後処理をお願いします。住所は――」

 電話を終えると、ゼットはその場に崩れた。そして肩を震わせ、嗚咽しはじめた。

 僕は足から力が抜け、その場にへたりこむ。そのとき僕ははじめて、鹿羽エイコが、僕と同じ十七歳の女の子に見えた。

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