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週刊少年Z  作者: 倉田四朗
第三話 Zの日常
11/21

大騒ぎの起こし方

「置いてきました」

 僕はエイコとビイのところへ戻った。彼らは駅前を臨む喫茶店のテラスで飲み物を囲んでいる。

 夕暮れだった。太陽は背の高いビルの影に隠れ、オレンジ色の地平を紫色の空が侵食しはじめている。影の建物に灯りはポツポツとつき始め、今日の仕事を終えた会社員たちとが学生たちが駅に向かってぞろぞろと歩いている。

「なかなか上手いですね。さりげなかったですよ」

 ビイが微笑んで言った。僕は少し面映ゆく感じ、後ろを振り返った。

 たった今、僕は二十部の『週刊少年Z』を、駅の入り口にある券売機の前に『置き忘れて』きたのだ。電子マネーが主流の今の時代、私鉄の券売機なんてときどきチャージを忘れた人間が立ち寄るくらいだ。それなりに目立ち、かつ正体がバレないように雑誌を置き忘れるには恰好の場所だった。

「……じゃ、拡散しよう……」

 エイコとビイがそれぞれスマートフォンのSNSアプリを使い、無関係を装った複数のアカウントから雑誌の存在をアピールする。『週刊』と銘打ってるだけあって、毎週月曜日には、今度はどこに出現するかと目を光らせている人たちがたくさんいるのだ。

 僕も、自分のツイッターアカウントから『チャージしにきたらキモい雑誌が置いてあったんだけど、なにこれ?』という内容を写真つきでつぶやく。すると十秒もしないうちに『これはどこですか?』とか『その雑誌を売ってください!』と言った内容の返信とリツイート通知が大量に飛んでくる。僕はそれらの質問に、急いで答えていく。

「ではお嬢、ちょっと見てきます」

 ビイが席をたった。彼はメガネと帽子で変装し、駅の中へと消えていく。彼がこれから夜中まで現場にはりついて、週刊少年Zを持っていく人物を把握する。その中からさらに、こっそり撮影した顔写真などから『その筋』の調査によって怪しい人物をあぶり出し、確実となったときに『ゼット』が動くのだそうだ。

(……つまり千代田先輩は、前々から目をつけられていたってことだ……)

 僕はこの一連の、あまりにもシステム化された殺害組織の存在に、いまさらながら恐怖した。そして、自分がいまその手伝いをしているということが、なんとも不思議な感覚だった。

「……これで、あとは勝手に広まる」

 ほんの十五分で、拡散の作業は終わった。

 僕は手持ち無沙汰になって、なんだか落ち着かない気分になった。それはどうやらエイコも同じようで、彼女は目の前のアイスティーにつっこまれたストローをぐるぐる回している。

 テラスの前には、ゆっくりと駅に呑み込まれていく人、人、人。まるで川の流れをほとりで眺めているようで、なぜか急に、僕はこの世界でひとりぼっちなのだという気がした。

「……こわい?」

 不意に、エイコが僕にたずねた。

「どうして?」

「人の流れを、眺めていたから……」

 僕は小さくうなずいた。

「……うん、こわいよ。鹿羽さんは?」

「……私も、こわい」

 そのときふと、僕は彼女が異常に人を怖がる理由に触れられた気がした。

 どんなに誰かのことをわかろうとしても、その誰かが本当に人間なのかということすらわからない。他人を捕まえて頭蓋骨を開き、肋骨を開放して、やっとそれが人間だと安心できるなんて、悲しすぎる。

 僕はあらためて彼女を眺めた。大きめの白マスクと伊達メガネで隠された彼女の表情は伺いしれなかった。

 電話の着信があった。エイコが素早く出た。

「お嬢、『Z指定』リストに記載されている人間がひとり、雑誌を持ち去りました」

「どんな人物だ?」

「中年男性、やや肥満、ブリーフケース所持。身のこなしは一般人。やりますか?」

「やろう。ビイはマコトと一緒に」

 電話が終わると、エイコはするどく僕を見た。

「ビイと合流しろ、やるぞ」

「や、やるって?」

「ニブいな」エイコは舌打ちした。

「今から殺しにいくってことだよ」





 僕はビイと合流し、彼と並んで人ごみに混じって歩く。

 ターゲットの男は、僕らから二十メートルほど先をとぼとぼ歩いていた。頭髪の少ない頭に、丸まった背中の、どこか物寂しげな男だ。

「っつうかさー、マコトってなんでカノジョいないの?」いきなり、ビイかくだけた口調で話しかけてきた。

 僕がびっくりしていると、彼は小さな声で「演技です」と囁いた。僕は彼が自分と同じ高校生だということを思い出した。

「あ、ああ、それなー、なんでだろーなー」

「ゼッテーもてると思うのになー」

 ビイは僕の肩を軽く叩く。

「ははは……」

 乾いた笑いが出た。

 ターゲットは目抜き通りを外れ、小さなビジネスホテルに入ろうとしていた。それを見たビイは急に足をはやめ、僕をおきざりにする。彼はターゲットが入って少ししてから、あからさまに急いでいるていで中に入っていった。

 残された僕はどうしたらいいかわからず、しばらくホテルの前で右往左往していたが、数分後、ビイからの着信に出た。

「404号室です」彼はそれだけ言って電話を切った。

(えぇーと、これは、行けばいいのかな……)

 僕がそんなことを思いながらその場に突っ立っていると、僕のそばに一台のバイクが停まった。乗っているのは黒いヘルメットを被った、黒いレザースーツの男性――いや女性で、彼女はバイクを降りると、僕に訊いた。

「どこだ?」

「404です」僕はあわてて答えた。

「四階か……」

 ゼットは建物を見上げる。つられて、僕も見上げた。

「いいものがあるな」

「いいもの?」

「四階の滑り出し窓が開いてる」

 その言葉を言い終わるか終わらないかのうちにゼットはヘルメットを脱ぎ、その下のゾンビのマスクをあらわにした。それから僕に「ここで待ってろ」と言い、おもむろに走り出した。

「……え?」

 ゼットは建物の壁を蹴り、柱を掴み、雨樋や窓のでっぱりを足場にして、するすると外壁を上っていく。そしてあっという間に四階の窓まで到達すると、滑り出し窓の金具を蹴り壊し、中に滑り込んだ。ほんの十数秒間の出来事だった。あまりにも素早い行動だったので、道を行き交う人々も、なにかの見間違いだと思ってしまうだろうほどだ。

「すっげぇ……」僕は口を半開きにしながら、ゼットの乗っていたバイク――カワサキZ1000に寄りかかった。

 そしてまたしばらく静かな時間があった。疲れた様子で道行くサラリーマンや、手を繋いで歩く大学生カップルや、ギャーギャー騒ぎながら道を走る小学生男子たちを眺めながらぼーっとしていると、電話があった。

「おわりました。部屋に来てください」ビイだった。

 僕は正面からホテルに入り、エレベーターで四階まで上がる。

 404号室の扉を開けた。

 部屋の中には、凄惨な光景が広がっていた。

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