不死
不死たちだ。角を左に曲がった先に、早くも二体いる。食堂と同じく走り抜けてやろうかと思ったが、考え直した。よく見ると、食堂にいた連中とはまるで動きが違う。とても軽々とした動きだ。その上ぼろぼろにはなっているが剣を持っていたり、鎧をつけているのを見るに、この町にいた兵士たちだろうか。なんとなく考えてはいたが、不死たちの能力は生前のものに依存とまではいかないかもしれないが、ある程度影響されるのだろう。
となると、もしかしたら戦闘技術あたりも生前のものが反映されているのだろうか。そうだとするなら、すでにこちらは半死半生の身。魔族といえど、数発食らえば死んでしまうだろう。いや一発でも死ぬかもしれないし、死にはしなくとも体が動かなくなるかもしれない。ここは、慎重にいくべきだろう。
そして俺は、淡い期待を胸にすぐそばに転がっていた手のひらほどの石を手に持った。悪魔たちの攻撃の余波で砕けたものなのだろう、濃い魔素によって外側は少し黒く染まりぼろぼろになっている。
やることは簡単だ。この石を不死たちの一体に投げつける。できるだけ頭に近いところに。魔族の体で投げた石が当たれば、もしかするとだが一個当たっただけで倒せるかもしれない。そこまではいかなくても、ある程度のダメージは見込めるはずだし、石が当たったやつがこちらに気づいて一体だけで向かってくる可能性もある。そうなれば各個撃破して楽々と進めるかもしれない。まあ、相手の戦闘技術を含めた能力の高さにもよるが……。
俺は、片方の不死に向かって石を強く投げた。
その石はうなじに思いのほか上手く当たり、なんとその不死の首から上をもぎり取った。不死の首からは魔素に染まった血が噴出するが、床に落ちる前にすべて魔素になって黒い靄になった。それを見て少し吐き気はしたものの、特別何かは感じなかった。感じるような暇なんてなかったからかもしれないけれど。
一発で倒せたことはうれしいものの、派手にやりすぎた。少し離れたところにいた不死がこちらに気づき、剣を構えて向かってくる。その動きは、少し遅いが普通の人間とあまり大差ないものだった。時間が経って少し成長したのかもしれないが、これで不死の能力は生前に影響されることがはっきりとわかった。
こちらも迎え撃つように剣を構えた瞬間、いきなり胸騒ぎがし始めた。不死とその前にある、黒い靄。黒い靄は不死から出た血が、見えるほどの密度と量に変化した魔素だ。不死は、魔素を吸って強くなる。ならば、あれほどにまで濃い魔素を吸った不死は……?
慌てて不死に向かおうとするが、そのときにはもう不死が魔素を吸ってしまっている。そして、魔素を吸った不死は少し黒みを帯びてこちらに走ってくる。その動きは先ほどまでと比べると段違いに速かった。
やばい、やばいやばいやばい――――!
どうする?逃げるか、ここで戦うか。
意識をそらした瞬間、嫌な予感がして、俺は壁から出していた半身を引いた。その瞬間、轟音を立てて俺の半身が出ていた場所を何かが通り過ぎる。
石だ。石を投げてきやがった。先ほど俺がしたことを、意趣返しのようにあいつもしてきやがったんだ。
間一髪のところで避けた石は壁を貫いた。その衝撃で壁は崩れ去っていく。それだけじゃない、壁が崩れたせいで天井も崩れ二階へ逃げることはかなわない。崩れた壁は積み重なって、俺が外へ出ることを拒んでいるかのようだ。
俺は、本格的に神様に嫌われているのかもしれない。
そんなことを考えて現実逃避を少ししながら、俺はじりじりと剣を構えながら後退した。ほどなくして、明らかにプレッシャーを放つ不死が壁から出てきた。
さて、死ぬかもしれないが、何もせずにやられるよりはあらがってやられた方がまだましだ。
震える足を気合いで押さえつけ、俺は強化された不死と対面した。