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僕とお姫様の恒久平和たる日々  作者: 久我拓人
第四章 ~僕とお姫様達の難題事件~
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第4章-7

 始発の時間に僕達は起きだした。ここからどうやって脱出すればいいだろうか、と考えていると、躊躇なく煌耶ちゃんが備え付けの電話の受話器を取り、従業員に出たいと告げた。一言二言交わした後、ガチャリと音が鳴った。鍵が開いたらしい。凄いシステムだ。


「行くぞ、みやび君」

「うん」


 廊下は相変わらず薄暗く、昨晩と変わらない。誰かに会っちゃうんじゃないか、とビクビクとしていたが、幸いな事に誰にも会わなかった。相変わらず全自動なエレベータから降りると昨日のスーツの男がコンビニの袋を手渡してくれた。


「お茶とおにぎりが入っております。どうぞ、お婆様によろしくお伝えください」


 男は慇懃な礼を煌耶ちゃんにした。まぁ、僕は関係ない。というか、関係したくないので、居ないものとして扱ってくれた方がありがたい。

 ホテルから出ると、さすがにまだまだ薄暗く人通りもない寂れた街という感じだった。おにぎりを食べつつ神部電鉄へと向かう。三田駅の隣に併設されており、私鉄沿線というやつだ。ちなみに皇国一高い運賃と揶揄される事がある。


「たかっ……」


 実際に高かった。けど、文句を言ってる暇もない。有間までの切符を買って電車へと乗り込んだ。しばらく待てば電車は出発する。早朝なだけに乗客は僕達ぐらいなもので、ほとんど人は居ない。しばらくすると目的の有間駅に着き電車から降りた。有間温泉で有名な土地だけど、駅がある場所は温泉街から離れているらしく、ただの住宅街という感じだった。

 ひとまず高橋君から聞いた録音場所へと行ってみる事にした。まだまだ早朝と言われる時間、犬の散歩をする人に挨拶されたりしてドギマギしつつ、少し小高い場所にある公園へと到着した。

 少し遠い場所に線路が見え、電車が見下ろせる様な場所。大きな道路も見えるので犯人からの電話で聞こえてきた音と状況は一致する。辺りを見渡してみたが、ここには輝耶を監禁できそうな場所はない。一応建物はあるものの、それは公衆トイレであって、人を監禁し続けるのは無理だ。


「ここからシラミ潰しに探すしかないか」

「うむ。元よりその覚悟じゃ」


 僕と煌耶ちゃんはお互いに頷きあい、輝耶が監禁されていそうな場所を探す事にした。そう簡単にいくとは思っていない。むしろ、見つかるはずがないと思っている。

こうしている間にも、警察が捕まえてくれる事を祈っている。でも、それを待っていられる程、僕という人間はできていない。品行方正なんて言葉を父さんから与えられただけに、僕の本質は正反対にある。今や、他人から見たら挙動不審といえるかもしれない。

 煌耶ちゃんが気配を消した。それに習って、僕も出来るだけ存在感を消す。平日に中学生と小学生がウロウロしているなんて、どう考えても補導の対象だ。僕達は無言で公園から出た。目指すところは分からない。ただ探し続けるしかない。少しでも怪しいと思える場所を探し、少しでも状況を探り、輝耶を探し当てる事。見つけさえすれば、後は警察に電話をすればいい。信用されないのであれば、婆さんにでも話せば取り合えってもらえるだろう。

 ともかく、僕達に出来る事を。

 ともかく、僕達で出来る事を。

 ともかく、僕達の出来る事を。

 少しでも輝耶の為になる事を。

 ただの自己満足の無駄足の骨折り損のくたびれ儲けと笑われてもいい。僕と煌耶ちゃんは土地勘の無いこの場所で、輝耶を探し続けた。


 ……結論から言おう。輝耶は見つからなかった。一日中歩き回り、時には不法侵入まで犯して探したが、見つからなかった。

 夕方になり、僕はまだまだ大丈夫だが、煌耶ちゃんの体力が限界にきた。これから暗くなる事を思えばどこかで休んだ方がいい。


「昨日のホテルにお世話になろうではないか……って、なんという嫌な顔をしておるのじゃ、みやび君」

「婆さんの好意は、いや、行為は斜め上なんだよ。なんで孫にラブホを勧めるんだ?」

「ひ孫が早くみたいと口うるさく言っておるからのぅ」

「僕は猿じゃないよ」

「みやび君が猿なら私は兎じゃな」


 意味が分からない。


「みやび君がどうしてもと言うなら、近くのホテルを買い取ってもらうが?」

「いやいや、そこまでして欲しくないよ。というかマンガじゃないんだから、そんなすぐに買い取れないよ」


 そうなのか、と煌耶ちゃんが感心した様に頷く。なんだかんだいって子供だなぁ。そう思うと同時にお金に物を言わせて解決する煌耶ちゃんが少し心配になってきた。でも、いいや。そんなものは輝耶を助けてからいくらでも出来る。

 犯人からの連絡や現状などは逐一、煌耶ちゃんの携帯電話にメールとして送られてくる。犯人はお金の受け渡し場所を変更しまくっているそうだ。逆探知、というやつもやっているそうだが、電話は短く、更に毎回場所を移動しているそうで、詳細は分からないそうだ。逆に言えば、輝耶は監視されている訳ではないという事。助けるチャンスは充分にあるという事だ。


「はぁ……とりあえず、ホテルに戻ろうか……」

「ではお婆様から話を通してもらおう」


 仕方ない。輝耶よりよっぽどマシな状況だと思っておこう。

 再び神部電鉄に乗って三田駅まで僕達は戻り、昨日のホテルで同じ様に過ごした。

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