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プロローグ ~僕とお姫様の日常~

 父親から銃口を向けられるという体験は、なかなかに経験する事が無いと思う。僕と父さんとの距離はおよそ十メートル程。板張りの床は冷たく緊張感を伝えてくる。もちろん銃も床に負けないぐらいに冷たい。無慈悲な暴力という言葉がぴったりと合う。

 周りからは僕を応援する声が聞こえるけど、半分以上は冷やかしに近いんじゃないかな。なにせ、チビッコばっかりだし。僕を怪人バッタ男か何かと勘違いしてるんじゃないだろうか。僕は改造人間でも宇宙人と合体した超人でもない、ただの中学生だ。もちろん、不思議な科学力で変身なんかも出来ない。


「いいか、雅。銃という武器を恐れる必要はない。銃弾というのは、拳よりも遥かに面積が小さいからな。はっはっは」


 いやいや、父さん。大事な部分が抜けてますよ。銃の恐ろしいところは、その弾丸を飛ばす速度じゃないですか。

 ちなみに、父さんが僕に向けている銃は玩具なので命の心配は無い。ただ失明の心配があるので僕はゴーグルをしている。玩具は正しく使用して遊びましょう。決して修行なんかに使わないで欲しいものだ。


「イメージするなら、物凄く速い槍だな。真っ直ぐに突く事しか出来ない単純な武器だ。どうだ、避けられるイメージが出来ただろう?」

「いやいや、無理だよ。見えない程に速い突きなんて、避けられる訳がないよ……」


 お前は相変わらず頭が固いなぁ、と父さんが苦笑する。

 現在、僕は家の隣に併設された道場でデモンストレーションをやっていた。父親は武道の先生で、ウチの収入はこれに頼りきっているという状況。なので、家の手伝いとして僕も借り出されている……いや、狩り出され、駆り出されたという訳だ。


「みやび~! 頑張れ~!」


 幼馴染のお姫様と共に。

 道場の隅には、それなりに美人で可愛いという矛盾した様な表現がピッタリと似合う同級生が座っていた。あくまで『それなりに』というのがポイントだ。決して学年一とは言い切れない微妙さ。まぁ、顔が整っている事は確かだ。

今は同じ胴着を着ているが、それでも僕達みたいな庶民とは一線違った高貴さみたいなものを感じる。まさにお姫様。まぁ、黙っていればの話になるけどね。喋ると残念な可愛い人、というのが僕の見解だ。正直にそう話したところ、蹴りを入れられた。だから残念なんだよ、と僕が悲鳴と共に彼女に漏らしたのは間違いでは無いはずだ。

 ちなみにお姫様というのは本当だ。

いわゆる『堕ちた皇族』。それが僕の幼馴染である輝耶かぐやの立場。お陰で未だに苗字が無い。まぁ、皇族といえど今は同じ一般庶民だ。ただし、お金持ち。羨ましい。彼女の家はまるでお城みたいな豪邸だ。


「いくぞ、雅」

「おう」


 父さんの言葉に、僕は意識を輝耶から自分の事へと戻した。とりあえずいつでも動ける様に構える。飛んで来るのはBB弾と分かっているけど……やっぱり緊張する。一呼吸置いて、気合いを入れる様にデモンストレーション用の名乗りをあげた。


「影守流一番弟子、影守雅! いざ尋常に後手に参る!」


 影守流に先手なし。それがウチの道場の一番の教えだ。空手に先手なし、をパクったものらしい。まぁ、本当にウチの流派に攻めの技が無いので先手なしは本当なんだけど。お陰で名乗り口上が微妙にかっこ悪い。

 それはともかく、父さんが構えた銃口をじっくり見る。いつ飛んで来るのか分からないBB弾。それを避けろっていうのが、今回の演技なんだけど……


「いてっ!」


 タン、という軽い発射音の後におでこに当たった。途端に小等部の少年達がゲラゲラ笑うのが見えた。同時に輝耶の笑い声が聞こえる。


「無理だよ、こんなの」

「無理じゃない。修行が足らんからだ」


 交代だ、と父親が銃を差し出す。僕はゴーグルを取って父さんと交代した。


「いいか。銃口を見ていたところで弾を避けれるはずがない。見るのは指でも肩でもなく、相手の意を見るんだ。撃つと分かった瞬間の銃口から予測される場所を避ければいい。それだけだ」


 そんな事できるのかよ、という言葉を飲み込んで父親を狙う。とりあえず、額かな。心の中でカウントダウンしてから、トリガーを引いた。タン、という軽い発射音と同時に父さんが動き、見事に避けた。おぉ~、というドヨメキにも似た声があがる。そんな馬鹿な、と思いつつ二発目、三発目と発射するが全部避けられた。素直に思う。すげぇ……


「すごーい!」


 まぁ、そこまでやれば当然だろう。少年達の瞳はキラキラと父さんに注がれていた。少年の保護者として付き添っている母親や父親の目も輝いている。まぁ、これで我が家は安泰なんだけど……それのダシに使われる僕の立場も考えてくれませんか、お父様。


「お疲れ様、みやび」

「疲れてないよ、輝耶」


 まぁまぁ、といってゲラゲラ笑いながら僕の肩をゲシゲシと叩かれる。彼女も一応、道場に通っている。僕と同期で二番弟子、という立場だ。本当は僕達よりも年上の人も居るんだけど、立場上、譲ってもらってる。地位や名誉にこだわる人は、こんな武術をやっていないしね。


「もっともっと強くなって、私を守ってね。みやび」

「はいはい、了承したよ。お姫様」


 ちょっとだけ重たい息を吐きながら僕は笑った。

 影守家。昔から輝耶の一族を護衛してきた僕の一族。それこそ苗字に表れている。影から守るのが僕達の仕事だ。

 こんな平和な日本で、脅威なんかどこにも無くなったっていうのに。千年以上前のイザコザなんて水に流して苗字を名乗ればいいのに。

 少しだけ古臭い僕の日常。

 まぁ、悪くはないんだけどね。

 なにせ、平和なんだから。

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