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星空、花火

「花火でも、するか」

 夕食後、何やら塞ぎこんでいた姪っ子にそう声をかけると、彼女は困ったような笑みを浮かべた。

 姉に何か言われたか、と思ったもののそれは追求できない。


 姪は六時を過ぎた頃、きちんと帰ってきた。即座に姉が部屋から飛び出してきたのは言うまでもない。そのことに姪は少々面食らった様子で「ごめんなさい」とだけ言っていた。


「あー、すごいのはないんだ。線香花火ぐらい」

 夏休みは子どもにと花火を買う客が多い。うちは大量に入荷することをしないから、既に大半が売れていた。みんなわかっている、というやつだ。あとは車を出して買いに行く。

「姉貴……お母さんは今風呂だろうし、今のうちだろ」

 まだ立ち上がらない姪にそう言ってみると、ようやく「そうだね」と笑った。ゆっくりと立ち上がり、共に店へと降りる。

 線香花火を一袋だけ取って、鍵を開けて外へ出た。


 夏の夜は、嫌いじゃない。暑いことには変わりないし、寝苦しいこともほぼ毎日だ。だけど、やっぱり星が綺麗で、見上げればいつだってそこにある。

「うわぁ」

 俺につられたのか顔を上げた姪が零した。田舎と都会じゃ、星の見え方が違うのは俺も経験済みだ。もっとも、都市部で全く星が見えないことに驚いた方だが。


 バケツに水をくみ、花火の袋を開ける。ポケットからライターを取り出すと「花火、久しぶりだな」という声が聞こえた。

 静かに持つその先に、そっと火を当ててやる。


 ぱちぱちという音が、静かな田舎に響いた。灯りの乏しい庭に、鮮やかな花が散る。

 火薬の匂いが鼻をかすめる。


 姪は落ちついたその性格ゆえか、上手に火花を最後まで散らしていた。ひとつ終えて、バケツの中へ。そうしてまたひとつ、花を咲かせる。


「私ね」

 その明るい花を見つめたまま、彼女は口を開いた。

「森のおばけに会ったんだ」

 迷子になったときか、と聞こうとして口を閉じた。彼女の瞳は自分の手の先だけを見ていた。


「どうして忘れてたんだろう。今でもはっきり覚えているのに。最初に見たときは、ちっとも気づかなかった。昔と何にも変わらなかったのに」

 ちりちりと最後の命を輝かせ、火種は地面へと落下する。

「感謝、してるつもりだったのかな」

 次の花火を手に取らず、姪は顔を上げた。暗闇の中でも、その悲しそうな瞳だけはよく見えた。


「見た目が、重要じゃなかったってことだろう」

「え?」

「十歳のお前にとっては、大事だったのは森のおばけの見た目じゃなくて、出会って助けてもらったってことだったんだろう」

 どこかの家の犬が、鳴いた。

「そう、なのかな」

「さあなあ、俺はその森のおばけを知らないし」

 ほら、と線香花火を渡してやると、彼女は受け取る前にがさごそとショートパンツのポケットを探りだした。


「森のおばけは、おじさんのこと知ってたよ」

 そしてそこから何かを取り出し、俺の方に手を出す。

「これ、渡して、って頼まれた」

 言われるがままに出されたそれを受け取ってみたものの、何を言っているのかがさっぱりわからなかった。

 手の上に乗ったのは、細い紐のようなもの。


「これが切れたら、もういいんだ、って思って」

 姪の声が、別人のように聞こえた――優雨のように。


「そう言ってた。詳しいことは知らないし、聞かなかった。だけどすごく真剣だったから」

 ああ、そうか。聞こえないようにつぶやいて、手のひらのものを握り締める。

「森のおばけには、バス停で会ったのか」

 俺の質問に、彼女は黙ってこくん、と頷いた。


 頭ではわかっていても、出来ない俺を。

 諌めることもせず、付き合っていてくれた彼女は。

 そうやって優しく、俺を付き放してくれるんだ。


「そのミサンガ、結んであげる」

 彼女が何を聞いてきたのかはわからない。だけどそれを俺が聞いてしまったら全て台無しになってしまう気がしたから。

 俺はそれを姪に渡し「頼む」と右腕を付き出した。


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