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第三話 其は誰がために剣を握る





「うわっ!!」

「キャッ!!」


目の前が真っ白に変わり、急に足元の感触が無くなったと思った途端に空中に放り出されて、二人は同時に悲鳴を上げた。

グルン、と世界が回転して上下左右が曖昧になる。ノゾミは思わず手足をばたつかせてバランスを取ろうとした。


「グェっ!」


が、それも虚しく、自分でもよく分からないままに何かにぶつかり、尻もちをつく形で地面にしたたかに体を打ち付けた。


「イタタタタ……」


それはアユムも同じらしく、声のした方を見れば顔をしかめて右手で自身の尻を涙目で撫でていた。


「アザができちゃったらどうすんのよ……」


口を尖らせてそんな事をぼやいているアユムを他所に、ノゾミは見回して自分がいる場所を確認する。

ゴツゴツとした岩肌にぽっかり開いた天井の穴。到底天然物とは思えない鋼鉄製のノブ付きドア。間違いない。ノゾミは確信した。

――ここは、前回と同じ場所だ。

現実世界で曖昧だった記憶が鮮明に蘇る。鬼に襲われ、そして撃退したあの場所だ。力を望んだ、力を手に入れたあの場所だ。

記憶の中の光の奔流が脳内で迸る。

そして気がつけばノゾミの手の中にはあの時と同じ黒い銃が握られていた。


「あの、ノゾミくんさ」

「うん?」


アユムの声に記憶の海から戻ってくる。現実世界とは違って、前と同じくアユムの頭には猫耳が乗ってあり、今はわずかにヘニョ、と半ばから折れ曲がっていた。


「わたしゃまさか、だとは思うんだけどさ」

「なんだよ?」

「もしかして、今ってだいぶヤバイ状況なのかな~って……」


何を突然、と思いつつ視線をアユムから逸らしていく途中でノゾミは合点がいった。なぜこの状況に気づかなかったんだ、と自分を責めたくなると同時に、何も起こらなかった事に心から居もしない神様に感謝した。

自分たちの他に呆然と立ち尽くす者が二名。そして地面にグッタリと伏している者、一名。そのいずれもが短小な体躯で両手にシミターナイフを持ち、暗褐色の肌をしていた。年老いた様なシワまみれの顔は醜悪で、奇妙な嫌悪感をノゾミに抱かせる。それに似た姿をノゾミは見たことはあった。もちろんそれは現実では無く、昔に友人の家でやったことのあるRPGの中だ。そしてその時に画面に表示されていた名前は確か――


「……ゴブリン?」


冷や汗を流しながら名前を呼んだ途端、奇声が二体のゴブリンの口から発せられた。発せられた内容に意味は無く、だが明らかに怒声だとノゾミにもアユムにも分かった。そういえば、空中に放り出された時に脚をばたつかせて、何かを強く蹴ってしまった気がする。その相手がきっと、そこに横たわって動かない一体なのだろう、とノゾミは落ち着いた思考で思った。なるほど、突然仲間がやられたんだ。そりゃ怒るわな。

倒れていた一体の体が光に包まれて消えていく。これは倒したって事でいいんだろうか、とぼんやりとその光景を眺めていた。

人間相手だったら謝るべきなんだろうな、とも一瞬考えたが、目の前で意味不明の奇声を上げ続けているゴブリンを見ていると、言葉が通じるとも到底思えない。通じたとしても許してもらえないだろうが。

そんな思考を肯定するかの様に、ゴブリンは一際大きい声を上げた。それまでよりも遥かに高い音で発せられたそれはさながら超音波だ。


「くぅ……何よ、これ!」


アユムが呻く。ノゾミもまた反応が遅れ、その音を聞いてしまった。グラグラと頭が揺れ、視界が定まらない。フラフラとノゾミの脚はたたらを踏む。


「グァエ? ケキャケキャキャクチャ!」


歓声だろうか。自身の攻撃が有効であったことを悟ったか、ゴブリンは奇妙な笑い声を上げた。そしてシミターナイフを握りしめて二体揃ってノソノソと近づいてくる。


「な…めんじゃねーぞ!」


その音色のあまりの不快さに、ノゾミはいきり立った。手にあった拳銃をゴブリンに構え、ためらいなく引き金を引く。イメージするはあの時の光。鬼二体を瞬く間に消し去ったあの光線であればこいつらなんて敵では無い。


「……はい?」


果たして、拳銃の銃口からは光線が飛び出した。ただし、飛び出したのは口から出た言葉と同じく間抜けなサイズ。直径五ミリメートル程度で、前回の力の奔流とは比べるべくも無いほどに豆鉄砲だった。

ピチューン、などと一昔前のインベーダーゲームみたいな緊張感のない音が聞こえてきそうで、見た目のイメージ通りの威力しか無いのか、ゴブリンの顔に当たって小さな火傷痕を作る程度。大してダメージもなさそうで、しかし受けた方を怒らせるには十分すぎる攻撃だ。


「……グュァァァァアッ!!」


見た目にも怒っているのがわかる程にゴブリンの眼は真っ赤だった。唸りに呼応してか、もう一匹の目も同じように赤い攻撃色へ変化した。

途端、ゴブリンの動きが変わる。ノゾミとの距離はノゾミの目測でおよそ五メートル。それを一足の元に詰める。それまでの猫背でのっそりとした動きが一変した。


「おわっ!!」


咄嗟に二人はその場から飛び退く。だが咄嗟ゆえに二人は互いに逆方向に避けてしまい、分断された。


「チッ!」


舌打ちを一度。ノゾミはもう一度引き金を引いて光の弾をゴブリンに向かって撃った。ゴブリンの顔にまた命中し、顔を背ける。その隙に、アユムの方へ向かっていたもう一匹の腕――正確には指を目掛けて撃つ。命中。だが、わずかに逸れて腕に命中し、しかし狙い通りゴブリンは顔をノゾミへと向けた。

それを見てノゾミは胸を撫で下ろした。小さな弾だがダメージはゼロでは無い。必殺では無くとも、嫌がらせ程度なら可能だ。何故こんなに小さな弾しか出ないのかは不明だが、やり様によっては逃げることくらいならできるだろう。

でも、とノゾミは洞窟の反対側にいるアユムを見た。アユムには攻撃手段が無い。実際にどの程度アユムに運動能力があるのかは分からないが、現実の歩を見る限りあまり期待はできないかもしれない。ならば敵は全て自分に引き寄せるべきだ。

ゴブリンの注意を引くため、ノゾミは引き金を連続して引く。ゴブリンの動きは俊敏だが動き出すその直前、腰を落とした瞬間に動きがわずかに止まるのをノゾミは見抜いていた。その隙を狙って放たれた光線は全てが命中し、ゴブリンたちが加速するのを防ぐ。


「早く逃げろっ!」

「で、でもさっ!」

「コッチはいいから! 早くしろ!」


一人逃げるのをためらっていたアユムだったが、ノゾミの剣幕に押されて立ち上がる。

ゴブリンは逃げようとしている事に気づいたか、標的をアユムに変えて迫ろうとするが、ノゾミの攻撃がそれを阻む。


「お前たちの相手はコッチだっつーの」


不思議な高揚感を感じながらノゾミは唇を舐めた。まさか異世界にやってきて早々にこんな戦闘になろうとは思ってもみなかったが、悪くない気分だ。前回は戦ってるなんて気持ちになれなかったが、今はこうして戦ってるって実感できる。自分から望んで他人のために戦ってる。ノゾミは手の中の銃を強く握りしめた。

これは自分のための戦いだ。ここから逃げるための戦いじゃない。現実じゃ自分じゃない誰かの為に生きることを強いられてた。だけど今は、自分の為に「他者の為」に戦えてる。

――今は足止めしかできないけど

情けない、と自分でも思う光線がゴブリンに嫌がらせをする。

――逃げてしまえばコッチの勝ちだ

チラ、と横目でアユムを見る。彼女は隙を見て少しずつゴブリンたちの脇を抜けていっている。

後少しだ。

そう思ったその時、ノゾミの膝が落ちた。勝手に脚の力が抜け、ガクリと地面に膝を突く。

急激な倦怠感。目眩が襲い、覗きこんだ地面の乾いた土色が楕円を描く。


「キシャアアアァァァッ!」


ノゾミは奇声にハッと顔を上げた。振り上げられたナイフだけが見えた。

腕を交差。衝撃。骨が軋む。激痛。あまりの痛みに涙が出る。

必死でノゾミは後退した。一足でドアの傍まで飛び退く。そしてノゾミは自分の腕を見た。


「良かった……」


腕はキチンと繋がっている。どんな素材でできているのか着ていたスーツに傷は無くて、だけど衝撃は吸収できないらしい。涙目ながらもノゾミは安心した。

ドアを背にノゾミはアユムを探した。ノゾミの想像ではすでにドアの傍にいるはずで、後ろで扉に手を掛けて横を振り向いた。

果たして、アユムは傍にいた。もうすでに一足で扉をくぐれる位置にあり、ノゾミは扉を思い切り開けた。

足元を何かが駆け抜けた。

突然の事に、飛び出すはずだったノゾミは気勢を削がれて立ち尽くした。が、すぐに気を取り直して一歩を踏み出す。

しかしアユムは続かない。ノゾミが振り向くと、彼女はまだ洞窟の中に居た。


「アユムっ!」

「待って! あの子が……」


ゴブリンの脇を走り抜ける。アユムが駆け寄った先にいたのは一匹の猫。アユムはそれを抱き抱えた。


「危ないっ!」


ノゾミは引き金を引く。だが、何も出ない。カチ、と乾いた音だけが洞窟に虚しく響いた。


「きゃっ!」


アユムは猫を胸元に抱いたまま、ゴブリンの振り下ろされたナイフを転がるようにして避ける。だが、もう一匹が横薙ぎにしたナイフの根本で殴られ、弾き飛ばされた。


「う……」

「っ! アユム!」


助けないと。その思いに駆られてノゾミは脚を再び洞窟へと向ける。だが、脚が動かない。


「クェヒヒヒ……」


それはゴブリンの笑い声か。ひどく不快。

獲物を追い詰め、ゴブリン二体は口を歪めてだらしなく涎を垂らした。そして、二体は揃って手に持ったナイフを振り被った。


「……っ!」


ギュッと猫を抱きしめ、アユムは眼を瞑った。腕の中から抜けだそうとする猫を抑え、守ろうと背中を丸めた。

何かが閉じたまぶたの裏に映る。光の中で動く影。その影は短い刃物を振り上げていた。


(また……殺されるの?)


影はいやらしく口を三日月に歪める。周りには誰もいない。自分を助ける人は、いない。

いやだ。アユムは右手でシャツの裾を強く握る。

いやだ。いやだ。いやだ。

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ――

私は、まだ死んでなんかやらない。絶対死んでなんかやらない。自分が死ぬくらいなら

――私が殺してやる


「ニャォン……」


胸の中の猫が小さく鳴いた。

同時にアユムを中心に光が洞窟を満たす。

あまりに眩く、あまりに鮮烈。

ノゾミは眼を焼く痛みに眼を強くつむり、手で顔を覆って逸らした。

光が瞬いたのは一瞬だった。すぐにそれは収まり、ノゾミが眼を開けた時、彼女はただ立っていた。

彼女の出で立ちは一新していた。シャツとホットパンツ、そしてニーソックスだった格好は変わり、下はベージュのパンツにふくらはぎまでを包む頑丈そうなブーツ。上半身は真紅のチュニックを着ていて、肩からは薄い空色のマントが降りている。そして、その右手には光り輝く剣があった。

剣の長さはおよそ刃渡り六十センチほどか。豪華な装飾がなされた鍔からは光が形作る刃が伸び、周囲を威嚇する様だ。

アユムは宙を見ていた。ぼんやりと何も無い洞窟の岩肌を見て、だが視線をゴブリンたちに向けると彼女は獰猛に笑みを浮かべた。

綺麗に整った歯がわずかに見え、鋭く尖った犬歯はさながら肉食獣だ。彼女の頭部にある耳は、先程までは力なく垂れ下がっていたのに、今はピクピクと嬉しさを表していた。

彼女が一歩前に出る。ゴブリンたちは一歩下がる。またアユムが一歩出る。ゴブリンが下がる。つい数分前までとは逆の光景だった。

アユムは更に笑みを深くする。


「すげえ楽しそうじゃん……」


ノゾミは呟いた。正確には覚えてはいないが、ノゾミ自身が力を手に入れた時もあんな感じだったのだろう。そしてアユムが嬉しそうに笑う理由もよく理解できた。

感覚として覚えている。ノゾミ自身もそうだった。力がどこからか湧いてきて、何でもできそうな、そんな気になってくる。例えどんな困難であっても問題にならない。全て取るに足らない些細な事だ。

そう、ここは自由だ。ノゾミは思った。

きっと今、アユムは同じ感覚のはずだ。気持ちを共有できている気がして、そしてアユムの状況に安心してノゾミもまた笑みを浮かべた。


「切っても……良いよね?」

「クァァァアアアアアアアッ!」


誰ともなくアユムは呟き、それに反発するようにゴブリンたちは声を上げた。

シミターナイフを振り上げて、今回この世界に来た時と同じようにアユムに斬りかかる。前はノゾミもアユムもただ逃げるだけだった。


「ぁぁぁああああああああっ!」


だが今は力が、ある。

雄叫びを上げ、光の剣を一閃。剣の軌道に伴って筋が空間に描かれる。そしてゴブリンたちの腕が地面に落ちた。


「グィヤアァァァっ!」

「……あは」


悲鳴を上げるゴブリン。それを聞いてアユムは笑い声を上げた。

両手で光の剣を握り、八双に構えると緑の血を撒き散らす二体に向かって振り下ろした。

ゴブリンの体があっさりと二つに割れる。アユムの手に抵抗感は無く、泣き別れになった肉体はゴブリンの叫びを残して、光の粒となって消えていった。

それと同時にアユムの手にあった剣も光の粒子となって宙に消える。アユムの体が崩れ落ち、それを予測していたノゾミが支える。


「大丈夫か?」

「う、うん……大丈夫、ちょっと目眩がしただけ」


そうは言うものの、アユムの顔色は悪い。血の気が引いて青ざめていて、先程までの高揚感はノゾミには見て取れない。ノゾミ自身も、最初ほどでは無いにしろ充実感が満ちていたが今は無い。アユムほどでは無いにしてもただ倦怠感だけが残っていて、軽く息を吐き出した。


「……ん?」


ふらつきながらもアユムを立ち上がらせた時、何かを蹴り飛ばした。コツン、と軽い音を立てたそれは、天井からの日光に反射してキラキラと輝いていた。


「何だ、コレ?」


碧色に輝く、エメラルドの様に鮮やかな宝石。縦長の六角形で綺麗に整えられたそれをノゾミはつまみ上げて覗きこむ。

ゴブリンたちの持ち物だろうか。はたまた敵を倒した事で手に入る報酬みたいなものか。

――まるでゲームみたいだな

そう思ったが、せっかくだから、とノゾミは真っ黒なスーツのポケットにそれを突っ込んだ。

その時


「だ、誰かそこにいるのか?」


洞窟内にノゾミでもアユムでもない誰かの声が響いた。ノゾミは振り向きざまに拳銃を構える。が、そこには誰もいない。どこから、とアユムを支えながらノゾミは見回すが姿は見えない。


「い、居ないのか? 居るのか? どっちだよ!?」


もう一度呼びかける声。聞こえてきた方向から判断するに、どうやら扉の向こう側に隠れているらしい。

――自分たち以外に人がいるのか

その考えに浮かんできたのは喜びかそれとも落胆か。何とも言えない感情が湧き起こるが、それが何なのかをとりあえず捨て置き、ノゾミは声を張り上げた。


「ああ、いるぞ!」

「……ヒトなのか? モンスターじゃないよな?」

「こんな流暢に話すモンスターがいるのか?」

「いるに決まってんだろ! 吸血鬼とかフェアリーとかいるじゃねえか」

「いるんだ……」


これまで遭遇したモンスターは両方共人語を解してはいないようだった――感情は理解していたようだが――ので居ないと思い込んでいたが、声を信じるならどうもそうではないらしい。


「ともかく、俺たちはそんな吸血鬼とかフェアリーとかいう奴じゃない」


その言葉に安心したか、半開きだったドアがゆっくり開かれた。

現れたのは少年だった。年の頃はまだ十代前半か。空からの陽光に反射してサラサラの金髪が輝き、顔立ちはテレビで見かける欧米系の様に整っていて肩を貸しているアユムの口から「あ、カワイイ……」なんて言葉が聞こえた。


「モンスターたちは……いないみたいだな」


少年は恐る恐る中へ入ってくると、真っ黒のローブから出ている杖を忙しなくあちこちに向けて警戒する。


「むしろお前の方こそモンスターじゃないだろうな?」

「ちげーよ! ざけんな! 俺はむしろそのモンスターを倒しに来た方だっつーの!」


ノゾミの冗談に少年は端正な顔を真っ赤にし、唾を飛ばしながら反発する。子供っぽいその反応に二人は苦笑を浮かべた。


「って、兄ちゃんたち大丈夫なんか!? そこの姉ちゃんもケガしてんじゃ……まさかアンタらもモンスターに襲われたんか!?」

「ああ。とはいってもケガは大したことない。精々かすり傷程度だよ。ただちっとばかし疲れたけど」

「そっか、良かった……それでそのモンスターは? どこで襲われたんだ!? 早く討伐しないと他の皆に……」

「あ、それも俺らが倒した」

「え?」

「だから倒したって。正確にはコッチのアユムだけど」


ノゾミの告白に少年は言葉を失って二人の顔をマジマジと見た。


「マジで? アンタたちが?」

「だからそう言ってんだろ? まあ、ちょっと色々あってだいぶ苦労したけどさ」

「す……」

「す?」

「すっげー!! マジで? マジで? マジで兄ちゃんたち二人であのゴブリンたちを倒したん?」

「マジマジ、大マジ。だからちょっと離れろって」


『マジで』を連発しながら少年はズイッとノゾミに顔を近づけてペタペタと体中を触りまくる。


「なーなー! どうやって倒したん!? 兄ちゃんたちは魔法使いなん? それとも戦士系……には見えないな。なら弓兵? あ、でも弓持って無いし……剣士とか!?」

「あー……」


どう言ったものか。ノゾミは頭をひねる。少年の話だと、どうやら戦うのには魔法とか剣とか弓といった、ファンタジー世界の定番の武器を使うようで、銃は通じるのだろうか?


「まあ、弓みたいなものかな。んで、コッチの彼女が剣士。今回も彼女が一発で倒したんだぜ」

「え?」

「マジか!? じゃあ兄ちゃんよりこの姉ちゃんの方がつえーんだな!」

「え? にゃ、にゃははは! まーね! お姉ちゃんの剣でパッパッパーっとやっつけちゃったよ!」


頭を掻きながらもアユムはブイサインをしてみせる。それを聞いて少年はますます眼を輝かせた。ノゾミは、アユムより弱いと認識された事に若干ヘコんでいたが、実際役に立たなかったし、とコッソリ嘆息した。


「およ? おっとととと……」

「アユム!」


笑っていたアユムだったが、不意にバランスを崩して尻もちを突いた。あはは、と笑ってごまかそうとするが、全身を襲う疲労感に力が入らない。


「出会った早々で悪いんだけどよ少年、どっか休めるとこないか?」

「俺の事はシュウって呼んでくれよ。宜しくな、兄ちゃん。休むんなら俺の家を使ってくれよ」

「分かった、ありがとう。あと、俺はノゾミって呼んでくれ。じゃあ、悪いけど案内を頼む」「ああ、そんなに遠くないからすぐ休めるぜ。だからアユム姉ちゃんも頑張ってくれよ?」


ノゾミはアユムを立たせると、肩を貸して歩き始める。


「ゴメン、ノゾミくん」

「良いって。今回助けられたのは俺の方だし、気にすんな」

「うん、ありがとう」


力なくアユムが笑い掛け、ノゾミも笑顔でそれに応えると、シュウの先導の元で洞窟の外に出た。


「え……?」


そこで二人は言葉を失った。

洞窟の外には湖が広がり、更にその奥には深い深い森が広がっていた。自然に満ち溢れ、現実とは違う風景を二人はあの鬼に襲われるまで昨日楽しんだ。確かにそのはずで二人の記憶にもそこははっきり残っている。


「メンダスィアンっていうんだ。あんまりおっきい町じゃないけど、いい町だからさ。だから休んだらゆっくり町を見ていってくれよ」


シュウの言葉も二人の耳には届かない。

二人が出会った暗い森。だが今はそれは姿を消し、家々が立ち並ぶ町がその場所にしっかりと存在していた。




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